怪奇談士と訳あり妻

しきしまそう

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9.朔夜の秘密

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「貴方のように物の声が聞こえる…というわけではありません。私は【匂い】がするんです」

匂い。という単語だけを聞いてもどういうことなのかが彗星はよく分からず、首をかしげる。

「それは例えばどのような…」

「そうですね…人の悪意であったり好意であったり…その人特有の独特の匂いを感じます。人だけでなく、物からも匂いを感じます。なのでこの部屋に置いてある曰く付きのものたちは、見た目は不気味であったとしても、悪意の匂いを感じません。なので側に置いておけるんです。」

朔夜の部屋にある物たちがそうなんだよー俺たちはいいやつなんだぜーと口々に答える。確かに悪意というものを感じられないのは確かだ。

ここで彗星は先ほどの出来事を思い出す。

ヒステリックに叫ぶ屋敷の奥様と対面した時、朔夜が自分の口元を手で覆っていた。あの時の行動が不自然だなと思っていたが、あれは【悪意の匂い】を感じ取っていたからなのでは?ということに気づいた。

「でもまあ悪意がなくとも全て曰く付きのもの。怖がらせる可能性はあったので、貴方をあまり部屋に近づけないようないにはしていました。」

今まで気になっていた朔夜の行動すべてに合点がいった。

そうか、だから今まで頑なに部屋に自分を入れないようにしていたのかと。

自分のことを拒否していたわけではなかったんだ…ホッと胸をなでおろした。

「子供のころから匂いを感じるとるようになり、特に死期の近い人間や悪意の強い人間は酷いですね。そういう者は不快な匂い、自分に敵意のない人間、好意的な人間はいい匂いがするんだということが成長していくうちに分かるようになりました。でも匂いがすると言っても誰も信じてはくれませんでしたが」

「私と同じですね…」

二人は静かに目を合わせる。特異な能力を持ち、孤独を感じることなんてこの世に自分だけだと思っていた。でも、今目の前に自分と同じ想いを持った人がいる。それが自分の伴侶である。

その事実に彗星は今までに感じたことのない安堵感に包まれていた。同じ気持ちを朔夜も感じているならいいなと心から願った。

ここで彗星はあることに気が付く。

【自分の匂いはどうなのか】だ。

結婚当初から自分は朔夜に悪意はないもの、迷いや不安感はあった。

それが朔夜に伝わっていて誤解を生んでいないか心配になった。

「あの…私の匂い…というのもあるんですか?」

恐る恐る朔夜に聞いてみる。

不安で早鐘のように打つ心臓。彗星は自分の着物の裾を掴んだ。

「いえ、貴方は何も【匂い】がしなかった。」

「え…?それは一体どういう…?」

「匂いがしない人に出会ったのは初めてでした。どんな人にも必ず匂いはあるものなのに…それで貴方の家族から特異な能力があると聞いて納得したんです。自分と同じ何か特異な能力の持ち主は【匂い】がしないのだと」

二人で淡々と会話しているように見えるが、彗星にだけは、周りの曰く付きの物たちが賑やかに会話している声が聞こえてくる。物たちは口々に「お似合いの夫婦だなー」とか茶化してくるものもいる。その言葉に彗星は少し頬を赤らめる。

「私は自分は結婚ができない人間であると思っていました。でも、この方なら結婚しても大丈夫かもしれない、もしかしたら…自分の能力のことも理解してくれるのかもしれない、そう思ったのです」

初めて聞く、朔夜が自分と結婚してくれた理由。一人で生きていく未来もあったはず。

でも彼は願ったのかもしれない。この先の人生、たった一人でも、自分を理解してくれる人と巡り合いたいと。縁談の話が来たときに、一筋の望みに賭けたのかもしれない。

それは彗星も同じ気持ちだった。

孤独に過ごした幼少期からずっと、自分のことを理解してくれる人が一人でもいいから、目の前に現れてくれないかと。

その願いが今叶ったのである。

彗星の両の目から静かに涙が流れ落ちた。

彗星が泣き出したことに驚き、朔夜は狼狽えてしまう。

「何か気に障るようなことを言いましたか?」

「いえ…自分の能力を知って、理解してくれる人がいるなんて…それが自分の伴侶であることが…とても…嬉しくて…」

はらはらと流れる涙を止めることができない。泣いてる彗星にどうすればいいのか分からず、朔夜は相変わらずオロオロと狼狽えている。部屋の物たちは、そういう時はハンカチで涙を拭いてやるんだよ!と言っているが、それは彗星にしか聞こえない。

彗星は鞄からハンカチを取り出し、自分の溢れる涙を抑えた。

ここで一つ、疑問が浮かんだ。

「あの…結婚する前から私の能力を知っていた…ということですが、なんで今まで一度もその話をしなかったんですか?」

この一か月、夫婦となったのはいいが、能力のこと以外にも、普通の会話すらまともにしてこなかった、その理由が気になってしまったのだ。

朔夜は視線を彗星から背け、どこか申し訳ないような態度を見せる。

「それは…」
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