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アリスター
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――ガタン、と断頭台の刃が落ちる音が、今も魂の底で鳴り続けている気がする。一度目の人生。僕は、ルミナ・フェルゼンを愛していた。
だが、僕が彼女に注いでいたのは、今の僕のような剥き出しの執着ではなく、もっと「正しい」と信じていた、形ばかりの穏やかな愛だった。
それが、僕の最大の過ちだったのだ。
隣国の王女毒殺未遂。教会と保守派の貴族たちが仕組んだその完璧な罠は、僕が気づいた時には、すでにルミナの首に刃を突き立てていた。
「アリスター様……私は、やっていません」
牢獄の格子越しに、彼女は震える声で僕に訴えた。僕は彼女の手を握り、「分かっている。必ず僕が助ける」と誓った。その時までは、まだ自分の力を信じていたんだ。
そこからの僕は、文字通り泥水をすするような日々を送った。
王位継承権を盾に政敵を脅し、教会の弱みを握るために裏社会の連中とも手を組んだ。寝る間も惜しんで証拠を捏造し返し、ルミナを救うための「最適解」を模索し続けた。
けれど、最後の一手で、僕は負けた。
僕が用意した潔白の証拠は、身内にいた裏切り者によってすべて焼かれた。それどころか、僕が彼女を救おうと動いた痕跡さえもが、彼女の「共犯者」としての証拠にすり替えられた。
僕がこれ以上動けば、ルミナだけでなく、彼女の家族すべてが処刑される――そんな最悪の選択肢を突きつけられたんだ。
処刑当日。
僕は、震える足で処刑台の前に立った。
群衆の罵声の中、ルミナが引きずられてくる。
彼女は僕を探していた。助けを求めて、縋るように僕を見つめていた。
(……ごめん、ルミナ。君一人さえ、僕は救えなかった)
その時、僕にできた唯一のことは、「冷徹な仮面」を被ることだけだった。
僕がここで泣き叫んだり、彼女に情けをかけたりすれば、彼女は死の瞬間まで僕への未練と絶望に引き裂かれることになる。
ならば、せめて。
僕が彼女を裏切り、切り捨てた「非道な敵」としてそこに立つことで、彼女の意識を僕への「怒り」と「軽蔑」だけで埋め尽くしてやりたかった。
恐怖ではなく、僕への憎しみで、彼女の心を麻痺させたかったんだ。
刃が落ちる瞬間まで、僕は一度も瞬きをしなかった。
僕を見つめる彼女の瞳から、光が消えるその瞬間を、この呪われた目に焼き付けるのが、救えなかった僕に課された唯一の刑罰だと思ったから。
彼女が死んだ夜。
僕は、自分の中の「正しさ」をすべて殺した。
関わった貴族、司教、裏切り者。そのすべてを、一晩でこの手で始末した。
返り血で金髪が赤く染まる中、僕は彼女のいない世界で生きる意味を見失い、自らも彼女を追った。
――そして。
目が覚めると、僕は十二歳の春にいた。
前世の記憶なんて、どこにもない。
ただ、胸の奥に、焼けつくような「欠落感」と、耐え難い「焦燥」だけが残っていた。
ルミナの姿をひと目見た瞬間、僕の魂が叫んだ。
『二度と、あんな顔をさせるな』
『二度と、僕の手を離させるな』
なぜそう思うのか、自分でも分からない。
ただ、彼女の白い首筋を見るだけで、心臓が握りつぶされるように痛む。
「……司教。君は、また僕から彼女を奪おうとするのかい?」
教会の懺悔室で、司教を壁に叩きつけた時、僕の脳裏には不思議な光景が浮かんでいた。
泣き叫ぶ群衆と、血に濡れた断頭台。
そして、冷たく横たわる、瑠璃色の瞳の少女。
僕は笑った。
前世の僕が選んだ「合理的な諦め」なんて、もう二度と選ばない。
たとえ世界を敵に回しても、彼女が僕を化け物だと蔑んでも構わない。
僕は彼女の首を、この手で、鎖で、愛で、永遠に縛り付けておく。それが、記憶を失くした僕が、無意識に導き出した唯一の「生存戦略」なのだから。
「ルミナ……次は、どんなリボンが欲しい? 君の首を飾るのは、血の色以外なら何でもいいよ」
血まみれの剣を捨て、僕は震える彼女を抱きしめる。
僕の腕の中で怯える彼女の鼓動だけが、僕の狂った世界を辛うじて繋ぎ止めていた。
だが、僕が彼女に注いでいたのは、今の僕のような剥き出しの執着ではなく、もっと「正しい」と信じていた、形ばかりの穏やかな愛だった。
それが、僕の最大の過ちだったのだ。
隣国の王女毒殺未遂。教会と保守派の貴族たちが仕組んだその完璧な罠は、僕が気づいた時には、すでにルミナの首に刃を突き立てていた。
「アリスター様……私は、やっていません」
牢獄の格子越しに、彼女は震える声で僕に訴えた。僕は彼女の手を握り、「分かっている。必ず僕が助ける」と誓った。その時までは、まだ自分の力を信じていたんだ。
そこからの僕は、文字通り泥水をすするような日々を送った。
王位継承権を盾に政敵を脅し、教会の弱みを握るために裏社会の連中とも手を組んだ。寝る間も惜しんで証拠を捏造し返し、ルミナを救うための「最適解」を模索し続けた。
けれど、最後の一手で、僕は負けた。
僕が用意した潔白の証拠は、身内にいた裏切り者によってすべて焼かれた。それどころか、僕が彼女を救おうと動いた痕跡さえもが、彼女の「共犯者」としての証拠にすり替えられた。
僕がこれ以上動けば、ルミナだけでなく、彼女の家族すべてが処刑される――そんな最悪の選択肢を突きつけられたんだ。
処刑当日。
僕は、震える足で処刑台の前に立った。
群衆の罵声の中、ルミナが引きずられてくる。
彼女は僕を探していた。助けを求めて、縋るように僕を見つめていた。
(……ごめん、ルミナ。君一人さえ、僕は救えなかった)
その時、僕にできた唯一のことは、「冷徹な仮面」を被ることだけだった。
僕がここで泣き叫んだり、彼女に情けをかけたりすれば、彼女は死の瞬間まで僕への未練と絶望に引き裂かれることになる。
ならば、せめて。
僕が彼女を裏切り、切り捨てた「非道な敵」としてそこに立つことで、彼女の意識を僕への「怒り」と「軽蔑」だけで埋め尽くしてやりたかった。
恐怖ではなく、僕への憎しみで、彼女の心を麻痺させたかったんだ。
刃が落ちる瞬間まで、僕は一度も瞬きをしなかった。
僕を見つめる彼女の瞳から、光が消えるその瞬間を、この呪われた目に焼き付けるのが、救えなかった僕に課された唯一の刑罰だと思ったから。
彼女が死んだ夜。
僕は、自分の中の「正しさ」をすべて殺した。
関わった貴族、司教、裏切り者。そのすべてを、一晩でこの手で始末した。
返り血で金髪が赤く染まる中、僕は彼女のいない世界で生きる意味を見失い、自らも彼女を追った。
――そして。
目が覚めると、僕は十二歳の春にいた。
前世の記憶なんて、どこにもない。
ただ、胸の奥に、焼けつくような「欠落感」と、耐え難い「焦燥」だけが残っていた。
ルミナの姿をひと目見た瞬間、僕の魂が叫んだ。
『二度と、あんな顔をさせるな』
『二度と、僕の手を離させるな』
なぜそう思うのか、自分でも分からない。
ただ、彼女の白い首筋を見るだけで、心臓が握りつぶされるように痛む。
「……司教。君は、また僕から彼女を奪おうとするのかい?」
教会の懺悔室で、司教を壁に叩きつけた時、僕の脳裏には不思議な光景が浮かんでいた。
泣き叫ぶ群衆と、血に濡れた断頭台。
そして、冷たく横たわる、瑠璃色の瞳の少女。
僕は笑った。
前世の僕が選んだ「合理的な諦め」なんて、もう二度と選ばない。
たとえ世界を敵に回しても、彼女が僕を化け物だと蔑んでも構わない。
僕は彼女の首を、この手で、鎖で、愛で、永遠に縛り付けておく。それが、記憶を失くした僕が、無意識に導き出した唯一の「生存戦略」なのだから。
「ルミナ……次は、どんなリボンが欲しい? 君の首を飾るのは、血の色以外なら何でもいいよ」
血まみれの剣を捨て、僕は震える彼女を抱きしめる。
僕の腕の中で怯える彼女の鼓動だけが、僕の狂った世界を辛うじて繋ぎ止めていた。
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