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ピカピカ
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異世界三日目。遠藤マコトは、目の前にそびえ立つ王都近郊の街「ベルン」の巨大な門を見上げていた。
本来なら、女騎士を救った英雄として華々しく凱旋するはずだった。だが、今のマコトの姿は、昨日の蜂の毒で顔がパンパンに腫れ上がり、泥と魚の脂にまみれた、どう見ても「野盗の成れの果て」だった。
「止まれ! 貴様、何者だ。……うわっ、なんだその顔は。新種の魔物か?」
門番の兵士が、露骨に嫌そうな顔で槍を向けてくる。マコトは必死に笑みを作った。腫れた頬のせいで、それは不気味な薄笑いにしかならなかったが。
「怪しいもんじゃありません。昨日、ステラさんっていう騎士を助けた者で……」
「ステラ様を? 嘘をつけ。あのお方は今朝、意気揚々と帰還された。貴様のような腫れ物に助けられたなどという報告は受けていないぞ!」
(あいつ、俺を置いて自分だけカッコよく報告しやがったな!?)
ステラは「少し気になる人」リストにマコトを入れたはずだが、おそらく「毒に耐性のある不気味な男」として、彼女のプライドが事実を捻じ曲げたのだろう。
結局、マコトは門前払いどころか、衛兵たちに追い払われ、街の外壁沿いにあるスラムへと追いやられた。
「……腹減った。女神、見てるか。これ、全然楽しくないぞ」
マコトは力なく座り込み、懐から『異世界日記』を取り出した。
『第三日目:街に入ろうとしたら化け物扱いされた。助けたはずの騎士はシカト。この世界の民度はどうなってるんだ。』
指でなぞると、日記が鈍く光り、お馴染みの理不尽な報酬が浮かび上がった。
【報酬:『空腹』の状態を3時間無視できる『鋼の胃袋』を獲得しました。代わりに、次に口にするものは、見た目が最悪になります。】
「……もう、驚かないぞ。どうせそんなことだろうと思ったよ」
マコトが溜息をついたその時、スラムの広場から賑やかな声が聞こえてきた。
そこでは、白い法衣を纏った美しい少女が、貧しい人々に向けて炊き出しを行っていた。
「さあ、皆さん。女神様の恵みです。遠慮せずに召し上がってくださいね」
彼女はこの界隈で「聖女」と慕われている教会派の少女・エルナだった。その微笑みは慈愛に満ち、マコトのような薄汚れた男にも平等に向けられた。
「そこのあなた。顔が酷いですね……さあ、これを食べて元気を出してください」
エルナが差し出したのは、大きな鍋から掬い上げられた、紫色のドロドロとした物体だった。表面からは緑色の泡が弾け、時折「ピチャッ」という生存確認のような音が聞こえる。
「……これ、食べ物ですか?」
「失礼ですね。教会の伝統料理『精霊の恩恵シチュー』ですよ」
聖女の瞳には一切の悪意がない。だが、日記の報酬である【見た目が最悪】という効果が、エルナの絶望的な料理センスと奇跡的に合流してしまったらしい。
マコトは覚悟を決め、それを一口流し込んだ。
「…………ッ!?」
美味い。見た目に反して、信じられないほど深いコクと旨みが広がる。
しかし、同時にマコトの全身に激しい衝撃が走った。
【追記報酬:『聖女の隠れた才能(メシマズ)』を初めて完食した者として、称号『毒味の探求者』を獲得しました。代わりに――】
日記の文字が激しく点滅する。
【代わりに、あなたの体は一時間だけ、目も眩むような黄金色に発光します。】
「は……?」
直後、マコトの体から強烈な光が放たれた。スラムの暗がりを一瞬で昼間のように照らし出す黄金の輝き。
「光った……!? 聖女様の料理を食べて、この男が光り出したぞ!」
「奇跡だ! 女神様の奇跡だ!」
スラムの人々がひれ伏し、聖女エルナも驚きで目を見開いている。
「まあ……! 私の料理で、聖なる加護が具現化するなんて……!」
感動的なBGMが流れそうな空気の中、マコトだけは絶望していた。黄金に輝く全身は、「ここに不審者がいます」と宣伝しているようなものだ。
「違う、これは事故だ! 奇跡なんかじゃねぇ!」
マコトが叫びながら逃げ出そうとすると、その光に誘われるように、昨日別れたはずの女騎士ステラが部下を引き連れて現れた。
「何事だ、この騒ぎは! ……むっ、あの黄金の光を放つ不審者は……昨日、私を突き飛ばした無礼者ではないか!」
「ステラさん! 助けてくれ、これ、あんたのせいでもあるんだからな!」
「黙れ! 聖女エルナの前でそのような輝きを放つとは、さては邪教の術士か! 出合え、者共! あの黄金の男を捕らえよ!」
こうしてマコトは、聖女に拝まれ、騎士に追われ、黄金に輝きながらベルンの街を爆走する羽目になった。
逃げる途中、マコトは必死に日記を指でなぞった。
『追記:もう嫌だ。目立ちたくない。普通の人生を返してくれ。』
【報酬:ステラとエルナが、あなたの『正体』に強い関心を持ちました。代わりに、次回の更新まで、あなたのくしゃみは『爆発音』になります。】
「……ハ、ハクションッ!!」
ドォォォォォン!!
マコトの背後で街のゴミ箱が吹き飛び、追っ手の兵士たちがパニックに陥る。
遠藤マコト、異世界三日目。
彼はまだ知らない。この「不運」の積み重ねが、やがて世界を救う「偽りの叙事詩」として語り継がれることになるのを。
本来なら、女騎士を救った英雄として華々しく凱旋するはずだった。だが、今のマコトの姿は、昨日の蜂の毒で顔がパンパンに腫れ上がり、泥と魚の脂にまみれた、どう見ても「野盗の成れの果て」だった。
「止まれ! 貴様、何者だ。……うわっ、なんだその顔は。新種の魔物か?」
門番の兵士が、露骨に嫌そうな顔で槍を向けてくる。マコトは必死に笑みを作った。腫れた頬のせいで、それは不気味な薄笑いにしかならなかったが。
「怪しいもんじゃありません。昨日、ステラさんっていう騎士を助けた者で……」
「ステラ様を? 嘘をつけ。あのお方は今朝、意気揚々と帰還された。貴様のような腫れ物に助けられたなどという報告は受けていないぞ!」
(あいつ、俺を置いて自分だけカッコよく報告しやがったな!?)
ステラは「少し気になる人」リストにマコトを入れたはずだが、おそらく「毒に耐性のある不気味な男」として、彼女のプライドが事実を捻じ曲げたのだろう。
結局、マコトは門前払いどころか、衛兵たちに追い払われ、街の外壁沿いにあるスラムへと追いやられた。
「……腹減った。女神、見てるか。これ、全然楽しくないぞ」
マコトは力なく座り込み、懐から『異世界日記』を取り出した。
『第三日目:街に入ろうとしたら化け物扱いされた。助けたはずの騎士はシカト。この世界の民度はどうなってるんだ。』
指でなぞると、日記が鈍く光り、お馴染みの理不尽な報酬が浮かび上がった。
【報酬:『空腹』の状態を3時間無視できる『鋼の胃袋』を獲得しました。代わりに、次に口にするものは、見た目が最悪になります。】
「……もう、驚かないぞ。どうせそんなことだろうと思ったよ」
マコトが溜息をついたその時、スラムの広場から賑やかな声が聞こえてきた。
そこでは、白い法衣を纏った美しい少女が、貧しい人々に向けて炊き出しを行っていた。
「さあ、皆さん。女神様の恵みです。遠慮せずに召し上がってくださいね」
彼女はこの界隈で「聖女」と慕われている教会派の少女・エルナだった。その微笑みは慈愛に満ち、マコトのような薄汚れた男にも平等に向けられた。
「そこのあなた。顔が酷いですね……さあ、これを食べて元気を出してください」
エルナが差し出したのは、大きな鍋から掬い上げられた、紫色のドロドロとした物体だった。表面からは緑色の泡が弾け、時折「ピチャッ」という生存確認のような音が聞こえる。
「……これ、食べ物ですか?」
「失礼ですね。教会の伝統料理『精霊の恩恵シチュー』ですよ」
聖女の瞳には一切の悪意がない。だが、日記の報酬である【見た目が最悪】という効果が、エルナの絶望的な料理センスと奇跡的に合流してしまったらしい。
マコトは覚悟を決め、それを一口流し込んだ。
「…………ッ!?」
美味い。見た目に反して、信じられないほど深いコクと旨みが広がる。
しかし、同時にマコトの全身に激しい衝撃が走った。
【追記報酬:『聖女の隠れた才能(メシマズ)』を初めて完食した者として、称号『毒味の探求者』を獲得しました。代わりに――】
日記の文字が激しく点滅する。
【代わりに、あなたの体は一時間だけ、目も眩むような黄金色に発光します。】
「は……?」
直後、マコトの体から強烈な光が放たれた。スラムの暗がりを一瞬で昼間のように照らし出す黄金の輝き。
「光った……!? 聖女様の料理を食べて、この男が光り出したぞ!」
「奇跡だ! 女神様の奇跡だ!」
スラムの人々がひれ伏し、聖女エルナも驚きで目を見開いている。
「まあ……! 私の料理で、聖なる加護が具現化するなんて……!」
感動的なBGMが流れそうな空気の中、マコトだけは絶望していた。黄金に輝く全身は、「ここに不審者がいます」と宣伝しているようなものだ。
「違う、これは事故だ! 奇跡なんかじゃねぇ!」
マコトが叫びながら逃げ出そうとすると、その光に誘われるように、昨日別れたはずの女騎士ステラが部下を引き連れて現れた。
「何事だ、この騒ぎは! ……むっ、あの黄金の光を放つ不審者は……昨日、私を突き飛ばした無礼者ではないか!」
「ステラさん! 助けてくれ、これ、あんたのせいでもあるんだからな!」
「黙れ! 聖女エルナの前でそのような輝きを放つとは、さては邪教の術士か! 出合え、者共! あの黄金の男を捕らえよ!」
こうしてマコトは、聖女に拝まれ、騎士に追われ、黄金に輝きながらベルンの街を爆走する羽目になった。
逃げる途中、マコトは必死に日記を指でなぞった。
『追記:もう嫌だ。目立ちたくない。普通の人生を返してくれ。』
【報酬:ステラとエルナが、あなたの『正体』に強い関心を持ちました。代わりに、次回の更新まで、あなたのくしゃみは『爆発音』になります。】
「……ハ、ハクションッ!!」
ドォォォォォン!!
マコトの背後で街のゴミ箱が吹き飛び、追っ手の兵士たちがパニックに陥る。
遠藤マコト、異世界三日目。
彼はまだ知らない。この「不運」の積み重ねが、やがて世界を救う「偽りの叙事詩」として語り継がれることになるのを。
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……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
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