紙飛行機に乗せて

Abel - エイベル

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エピローグ

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 遠くからチャイムが鳴っているのに気がつき、僕は目を覚ました。辺りを見回すと、太陽は本格的に沈み出していて、部室中を紫色に染め上げていた。

 「そうだ。僕は小説を書いていたんだ」明瞭になりつつある意識を覚醒させるように、僕はそう呟く。

 たしか、僕が先輩にこの話をするところまでは書いたはずだ。そして、僕はこれから、実は先輩の正体があの夏の初恋の相手だと知るという話を書き始めようとしていた。そこで眠ってしまったのか。

 だが、これからやっと、僕と彼女が本来出逢っていたという未来を、出逢っているべきだった未来を書き始めることができる。

 あの夏、確かにあった僕と彼女との物語を無くさないように、忘れてしまわないように、僕は彼女との物語を書き続ける。きっと僕らの関係はこれからもっと深くなっていくのだろう。友情が深まるかも知れないし、恋人になるかも知れない、もしかしたら家族になるかも知れない。

 僕は彼女と歩むはずだった未来を夢想して書き途中の小説を鞄の中に大切にしまった。まるで、あの日の彼女との思い出を頭の中に仕舞い込むように。

 僕は帰宅の準備を終わらせると、部室を後にしたところで、教室に宿題のプリントを忘れていたことを思い出して急いで教室に向かった。

 教室に辿り着き、ドアを開けて中に入ると、談笑して盛り上がっていたグループは姿を消していたが、ただ一人、帰りの準備を行っている友人がいた。

 「おう、空人、忘れ物か?」友人は僕の姿を認めると悪戯に笑って見せた。その笑顔を見て、僕は彼に伝えなければならないことを思い出した。

 「僕と先輩の関係、発展したよ」僕が笑顔でそういうと友人は僕を確かめるような表情になる。
 「そっか。どの先輩のことかわからんけど、恋バナなら興味あるぜ。俺でよかったら話してくれよ」そう言い放つと、やはりこの友人は僕に対して悪戯な笑顔を見せた。

 「ああ」

 僕は確かに彼女と共に過ごす未来を望んでやまないが、彼女が僕の心の病を治してくれた今なら、一人でも生きていけそうな気がする。友人と足並みを揃えて教室を出ると後ろの方で、あの日と同じ風鈴が涼しげな音を立てた気がしたが、僕の足は自然と止まらなかった。
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