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風鈴の音
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『僕は決意したよ。外の世界に出てみようと思う。でも正直、まだ完璧に人間不信が治ったわけじゃないんだけど、ただ僕は君が観せてくれた世界を、今度は君と一緒に観たいと思ったんだ。だから、この前言っていた隣町でやるお祭りに僕も連れて行ってくれないかな?』僕は決意を固めたままに、机に向かってそう書き出し、紙飛行機に折って飛ばした。
『本当に……?本当の、本当に?』余程、僕が自分から外に行くと言ったことに驚いたのだろう。手紙に綴られた文字の乱れ方や、情緒の安定しないような殴り書きから彼女の驚きようが滲んでいた。
『本当だよ。少しだけ勇気が必要だったけどね』
『そっか……よかった。それじゃあ、楽しみにしてるね!』やはり彼女は僕が外に出ることに驚いているようだ。なぜなら、彼女から送られてきたその手紙に綴られた文字の所々が小さく円形に滲んでいたからだ。
そして、それを見た僕の頬にも一筋の光が伝う。だが、その涙はかつて、僕が虐められ、流した時の涙のように冷たくはなかった。今はただ、優しく、温かい涙だった。
僕はこの涙に感化されるように、もう1つの決意を立てた。夕食時になり、家族で食卓を囲み、しばらく経って僕はそれを両親に打ち明けた。
『僕、この夏休みが明けたら、学校に行こうと思う』僕の言葉を受けたとき、母は唖然とし、父は口に運ぼうとしていたお酒を溢した。
それから、母は僕に抱きついて泣き始め、父は何か言いたげな顔でお酒を呷った。なんとなく、この冷えかけた家に少しだけど熱が灯った気がした。僕はしばらく忘れていた家族の温かさというものに当てられて、自然と涙が出た。本当に今日は良く泣いてしまう。
お祭り当日、僕は朝早くに起床し、朝食を摂ると部屋に戻り、片隅に置かれている扇風機を稼働させるとガタガタと動き始めた。
僕は騒音を立てる扇風機を他所に、机に向かい手紙をしたためた。恐らく僕らが逢うことになったとしてもこの文通は続くのだろう。しかし、僕らの関係はこの文通から始まったのだ。ならば、新たな物語が始まる今日という日を境に進んでいこう。僕らの関係が深まるとしたら、それを伝える手段は手紙でなくてはならない。僕らの関係を深めるのに多くの言葉は必要ない。
ただ一言『君が好きだ』この想いを紙飛行機に乗せて、僕は飛ばした。
その手紙が彼女の部屋へと届くと、あの日僕を導いた風鈴はカラカラという音を最後に、壊れた。
太陽が西に傾き始めてから、僕は外出の準備を始めた。いつも同じような格好で日々を送っている僕にとって、久しぶりに着る外出用の服装はどうしようもないほどに覚束なく感じた。
もうそろそろかと思い、荷物と重たい腰を持ち上げ、玄関に向かう。震える手をドアノブに掛け、そのまま開けた。
そして、彼女が住んでいるだろう家の正面に出ると、僕は荷物を地面に落とし、ただ呆然とした。
そこには本来あるべきものが、何もなかったのだ。難しいことを言っているようだが、言葉通りの意味だ。その家には表札もなく、庭の雑草は伸びきっていて、玄関は硬く閉ざされ、売地とされていた。そして何より、その家からは人の気配が、生活の灯が消えていた。
僕は藁にもすがる思いで自宅に駆けて行き、母に問い詰めた。
「なんでこの家の隣の家には誰もいないんだ?!」
「何?どうしたの急に。なんでも何も、隣の家には私たちが引っ越してきた時から誰もいないでしょう」僕の知らない事実淡々と母は伝えた。
「そんな……だって、僕は……確かに彼女と……」何がどうなっているのか全く理解が及ばなかった。
「そもそも空人はこの家に越してきた時逃げ込むように自分の部屋に籠ったからねえ、隣の家が明らかに空き家でも、その時のあんたには見えていなかったと思うよ」
この時の僕の耳には母の言葉は一切届いていなかった。目の前が真っ暗になり、耳が遠くなった気がした。
そしてそれから一度も、僕と彼女を繋げた風鈴の音は聞こえなくなった。
『本当に……?本当の、本当に?』余程、僕が自分から外に行くと言ったことに驚いたのだろう。手紙に綴られた文字の乱れ方や、情緒の安定しないような殴り書きから彼女の驚きようが滲んでいた。
『本当だよ。少しだけ勇気が必要だったけどね』
『そっか……よかった。それじゃあ、楽しみにしてるね!』やはり彼女は僕が外に出ることに驚いているようだ。なぜなら、彼女から送られてきたその手紙に綴られた文字の所々が小さく円形に滲んでいたからだ。
そして、それを見た僕の頬にも一筋の光が伝う。だが、その涙はかつて、僕が虐められ、流した時の涙のように冷たくはなかった。今はただ、優しく、温かい涙だった。
僕はこの涙に感化されるように、もう1つの決意を立てた。夕食時になり、家族で食卓を囲み、しばらく経って僕はそれを両親に打ち明けた。
『僕、この夏休みが明けたら、学校に行こうと思う』僕の言葉を受けたとき、母は唖然とし、父は口に運ぼうとしていたお酒を溢した。
それから、母は僕に抱きついて泣き始め、父は何か言いたげな顔でお酒を呷った。なんとなく、この冷えかけた家に少しだけど熱が灯った気がした。僕はしばらく忘れていた家族の温かさというものに当てられて、自然と涙が出た。本当に今日は良く泣いてしまう。
お祭り当日、僕は朝早くに起床し、朝食を摂ると部屋に戻り、片隅に置かれている扇風機を稼働させるとガタガタと動き始めた。
僕は騒音を立てる扇風機を他所に、机に向かい手紙をしたためた。恐らく僕らが逢うことになったとしてもこの文通は続くのだろう。しかし、僕らの関係はこの文通から始まったのだ。ならば、新たな物語が始まる今日という日を境に進んでいこう。僕らの関係が深まるとしたら、それを伝える手段は手紙でなくてはならない。僕らの関係を深めるのに多くの言葉は必要ない。
ただ一言『君が好きだ』この想いを紙飛行機に乗せて、僕は飛ばした。
その手紙が彼女の部屋へと届くと、あの日僕を導いた風鈴はカラカラという音を最後に、壊れた。
太陽が西に傾き始めてから、僕は外出の準備を始めた。いつも同じような格好で日々を送っている僕にとって、久しぶりに着る外出用の服装はどうしようもないほどに覚束なく感じた。
もうそろそろかと思い、荷物と重たい腰を持ち上げ、玄関に向かう。震える手をドアノブに掛け、そのまま開けた。
そして、彼女が住んでいるだろう家の正面に出ると、僕は荷物を地面に落とし、ただ呆然とした。
そこには本来あるべきものが、何もなかったのだ。難しいことを言っているようだが、言葉通りの意味だ。その家には表札もなく、庭の雑草は伸びきっていて、玄関は硬く閉ざされ、売地とされていた。そして何より、その家からは人の気配が、生活の灯が消えていた。
僕は藁にもすがる思いで自宅に駆けて行き、母に問い詰めた。
「なんでこの家の隣の家には誰もいないんだ?!」
「何?どうしたの急に。なんでも何も、隣の家には私たちが引っ越してきた時から誰もいないでしょう」僕の知らない事実淡々と母は伝えた。
「そんな……だって、僕は……確かに彼女と……」何がどうなっているのか全く理解が及ばなかった。
「そもそも空人はこの家に越してきた時逃げ込むように自分の部屋に籠ったからねえ、隣の家が明らかに空き家でも、その時のあんたには見えていなかったと思うよ」
この時の僕の耳には母の言葉は一切届いていなかった。目の前が真っ暗になり、耳が遠くなった気がした。
そしてそれから一度も、僕と彼女を繋げた風鈴の音は聞こえなくなった。
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