紙飛行機に乗せて

Abel - エイベル

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内緒です

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 『今日は町にある大きな神社で夏祭り!友達とも回る約束をしているので、私は一足先にきています!1週間後に隣の街でもお祭りがやるみたいだから、もしかしたら一緒に行けるかな?なんて』この日届いた彼女からの手紙にはそう綴ってあり、今日は一段と写真の量が多かった。かき氷の屋台、りんご飴の屋台、綿菓子の屋台、闇夜に咲き誇る大きな花火、そして彼女が自分で撮ったであろう顔の写っていない浴衣姿。

 その写真群に自分自身を反映させて、ここにいるべき僕と彼女の姿を夢想した。夏の夜特有の蒸し暑い気温に、屋台や人の熱、それを冷ますようにかき氷を体に吸収させ、時折熱帯夜を凪ぐ気持ちの良い風や祭りの会場に溢れかえった人の流れに身を任せる。

 そんなことを考えていると、まるでこの場に自分がいたかのように錯覚する。

 『まず、浴衣が綺麗だった。他の写真も相乗して僕がその場所にいるかのように錯覚したよ』
 『それはよかった。私の思惑通りだ!ただ、私を褒めたところでこの代行以外何もできないよ?』
 『いや、何もできないのは僕の方だ。本当にありがとう』
 『そういうことなら仕方ないかあ、ふふ、でも大人しい青春もつまらないので、次は悪いことでもしようかな』
 『次は一体何をするつもりだい?』
 『内緒です』

 家の中にも自分の殻にも引きこもっていた僕は彼女が観せてくれる外の世界や彼女の暖かさに触れることによって少しずつ人間不信を回復させつつあって、最近は親ともまともに会話できるようになり、食事も毎回一緒に摂ることができていた。

 翌る日、僕は窓の下に眠っている紙飛行機を拾うと、机の上に丁寧に置き、そのまま机には向かわずに顔を洗い、両親と一緒に朝食を摂った。

 そして、仕事に向かう父を送ると自分の部屋に戻り、手紙を確認する。

 『どうでしょう、学校のプールに侵入してしちゃった!今は夏休みで見回りをしている人がほとんどいないから、忍び込んでそのまま泳いじゃった』僕は手紙に取り付けられた写真を見遣る。そこに写っていたのは彼女の透明で繊細そうな脚が夜のプールに浸っている写真だった。

 『まさか夜のプールに忍び込むとは……度胸とかじゃなくてちょっと狂ってるね。正直、ちょっと見直した。今度僕にも侵入の方法教えてよ』
 『いやあ、見つかったらどうなるか分からないから、いろんな意味で涼しくなったよ。そして君は侵入ではなくまず進出をがんばろう』
 『それもそうだね。そのためにもう少しだけ僕の代行をしてもらおうかな。それで次はどこに連れて行ってくれるのかな』

 それから彼女は僕に多くのものを観せてくれた。子どもたちで賑わう駄菓子屋の風景、広大な土地を覆い尽くすひまわり畑、僕がほとんど行ったことのない都会の遊園地、落ちゆく太陽によって紅に染まる水平線が望める海、無数の蛍によって煌びやかに照らされた小川と田園風景。彼女が僕に世界の美しさを教えてくれる度、僕は彼女に惹かれていった。

 僕は前に彼女の言っていたお祭りが3日後に迫っているのを確認すると、1つの決意を固めた。それは、外に出て彼女と逢い、お祭りへ一緒に行くということだ。たったそれだけの決意に、僕は途方もない緊張と動悸を要した。
 そして、彼女とやりとりを重ねる度に、あの日僕を彼女と引き合わせてくれた風鈴が変な音を立て始めていることに僕は全く気付いていなかった。もし、僕がこの妙な風鈴の存在に注視し、近所付き合いについて両親に訊ねていたら、僕は彼女と逢うことができていたのかも知れない。
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