梯の皇子と夢語り

佐木 呉羽

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マツの自問自答

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 マツはチヨと別れ、重たい足取りで家路についていた。
 血を残すことに愛情が必要か? と問うた頭領の言葉が、頭から離れない。

(腹が立つ……。女性は、子供を産むための道具じゃないわよ!)

 ムカムカと心が落ち着かず、奥歯をキツく噛み締めた。
 血を残すことが目的だったとしても、マツは過程が大事だと思っている。
 双方の同意が必要だろうし、覚悟も必要だろう。愛情を確認し、結果として子を授かるための神聖な儀式と捉えてもいいくらいだ。
 それぞれ主観で思うところはあるだろうけれど……愛情は必要ないと、男は思うものなのだろうか。
 そんな男ばかりではないと分かってはいても、我が身に降りかかった出来事を思うと、悔しさが込み上げてくる。

(私の人生は……なに? 都合のいい駒かなにか? ふざけないでよ!)

 生を授かって、たったの十数年。婚期でいえば、確かに適齢期だろう。しかも相手は、ヤマト族の皇子という立場にある人物。そして皇子の正妻は、幼馴染み。
 頭領はチヨと共に皇子の側室……第二夫人、第三夫人になれと命令してきたが、快諾できるはずもない。

 でも、断る余地が無かった。

 頭領の放つ圧が、選択の自由を奪ったのだ。
 断った場合、妻木の里と皇子の間で諍いが起きたときに責任が取れるのかと脅されたが、こんな小娘に責任など取れるはずもない。考えるまでもなく、分かりきっていることだ。それなのに、そんな脅し文句を口にするのだから、大人気ないにもほどがある。

(責任もなにも……私なんかが政治的なあれこれに影響するとは思えないんだけどな)

 あの皇子ならば、辞退しても「そうか」とアッサリしていそうなものなのに……と、アサギと共に過ごす穏やかな皇子を知るマツは思ってしまう。

(なにより……皇子は、アサギちゃんにベタ惚れなのよね)

  そして、最初は皇子に興味も関心も示さなかったアサギも、今では心を寄せている。
 仲睦まじく、放っておけば数年がかりで何人でも子供を産みそうな雰囲気だ。
 本来ならば、マツやチヨの出る幕など無い。
 その事実が、余計に虚しさを増長させていた。

(私だって……好いた人と夫婦になりたいわよ)

 かと言って、意中の人が居るわけでもない。

(そもそも、こんなツンケンした真面目で面白みもない女なんか、男は敬遠するでしょうよ)

 しっかりしている、という評価を得ることがほとんどだけれど……いつの頃からか、自らそのように振る舞わねばと意識してしまっていた。
 弱い部分を見せられない。先の先まで予測を立てて、幾筋も計画を立て、不測の事態にも瞬時に対応できるように心がけていた。そうした対応が身についていたから、アサギの侍女としても働けていたのだ。
 アサギから、みんなから……頼りにされることは、素直に嬉しい。生き甲斐にもなっていたけれど、甘えられる……心許せる男性は欲しかったのも事実。

(でも、そういう相手は……伴侶として与えられる相手は、なにも皇子じゃなくたってよかったのに)

 アサギが甘える男性に、マツは甘えたくない。アサギに見せる表情を向けてもらえなかったら、どうしても比較して落ち込んでしまう。私には、あの表情を向けてくれないのね……と、嫉妬心を激しくしてしまうに決まっている。

(頭領が言うように、機械的にこなせばいいのかしら?)

 夫婦の営みも、なにもかも。

(いや……でも、それはやっぱり虚しい)

 以前、里の女衆だけで集まって話していたときに、ただ楽しんで快楽に溺れればよいという人も居たけれど……マツは、心が伴わない行為は嫌だと思ってしまう。
 やっぱりマツには、血を繋ぐことに愛情が必要だ。
 妊娠中のアサギを見ていて、思うのだ。愛が無ければ、ツワリも大きく重たくなる腹も、なにもかもが耐えられない。
 腹に宿った子に対する愛情だけで、妊娠期間を乗り越えていけるだろうか。そこから先も続いていく子育てをやり遂げられるだろうか。
 分からない。

(皇子から、私に愛情を向けられる日が来るのかしら?)

 それも、分からない。恋の駆け引きが苦手なマツには、きっとそんな日は来ないだろう。

(あぁ……嫌だなぁ)

 なんとか逃げるすべはないだろうか。

(チヨちゃんは、どう思ってるんだろう)

 ろくに話もせず、二人とも帰路に着いた。

(ちょっと、話しに行ってみよう)

 悶々と答えの出ない自問自答を繰り返すよりも、有意義な時間の使い方ができるかもしれない。それに、アサギになんと伝えたらよいのか、相談もしたかった。
 物心がついた頃からの友情に、ヒビを入れたくない。
 マツは踵を返し、急ぎチヨの家へと向かうことにした。
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