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沈鬱の対面
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マツは、慣れない衣装に着心地の悪さを感じていた。袖は長いし、衣を重ねているから動きにくい。首飾りやいろいろな装飾品も着けられているから、かなり動きが制限されている。
同じ衣装に初めて袖を通した日のアサギが、重いとボヤいていたことを思い出す。
(まさか私が、アサギちゃんと同じ衣装に袖を通す日が来るなんて……)
そんな日は、来なくてよかったのに。
隣に座るチヨは、マツと同じ衣装を身につけているのに涼しい顔をしている。表情は凛としていて、貫禄のようなものが備わっているみたいだ。
(同じだけの日数を経ているのに、だいぶ差ができちゃった……)
これが、覚悟をした者とそうじゃない者の違いだろうか。
マツとチヨのために新たな屋敷が建てられることになり、建築中の間は妻木の里に留まっていた。その間に自分の中で踏ん切りがつくかと思ったけれど、いまだに気持ちの整理はつかないでいる。
こんなにウジウジ考える性格だとは、自分でも思っていなかった。
もう、ただ流されているだけ。自分の意思を無くして流れに身を任せるがままにしてみたら、楽になれるだろうか。
(私の個を消せば、感情が無になれば、これからをやり過ごせるかしら……)
もう、心が徐々に死んでいく。
アサギと皇子の住まう宮殿に設けられている謁見の間。新たな屋敷が完成したと知らせを受け、今日は挨拶のためにやって来た。
皇子に会うのは、数ヶ月ぶりとなる。頭領から側室の話をされてから、今日に至るまで皇子の正妻であるアサギも会えていない。
隙を見て宮殿の使用人にアサギの様子を聞いてみたところ、腹が大きくなるにつれて、いろいろと不調が生じ始めているそうだ。
大丈夫かしらと心配する気持ちと、それなら会えないと理由を付けて避けようとする感情が、マツの中に共存していた。
しかし、そんな煮え切らない想いとも、今日でさよならだ。
目の前に設けられている皇子が座る一段高い場所には、席が二つ設けられている。きっと、あそこに座るのは正妻になった幼馴染みだろう。
入ってきたアサギが、どんな表情を浮かべているのか……想像するだけで、恐ろしい。怖くて逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
今日という日まで、側室という役目から逃れる手段を考えていたけれど、名案はなにひとつとして思い浮かばなかった。
逃れられない使命。定めか運命か。白羽の矢を立てた頭領を呪いたい気分だ。
(あぁ、嫌だな……)
遠くから、何人もの足音が近づいてくる。いよいよ、そのときがやってくるようだ。
(逃げたい……消えてしまいたいよ)
痛みを伴い、胃がキュッと縮こまる。
皇子とアサギに、会いたくない。会ってしまったら、本格的に新しく全てが始まり、築き上げてきた今までが壊れてしまう。
回避は、無理だ。
隣に座るチヨは、どんな気持ちでいるのだろう。前に話をしたときは、きっちり気持ちを切り替えていたもう一人の幼馴染み。ホワホワしているようで、実は芯がしっかりしている頑固者だというふうに、チヨに対する認識を改めた。
多分、三人の中でチヨが一番したたかだ。順応性があると言うか、計算高いのだろう。
(私は、自分がこんなに意気地無しだなんて知らなかった……)
チヨと動きを揃えるように両手を床に添え、飾りに注意を払いながら慎重に頭を下げる。
颯爽と前を通り過ぎる男性の足と、静々と擦れる衣の音。
「面を挙げよ」
久しぶりに聞く皇子の声に命じられ、ゆっくり頭を持ち上げる。
目の前には、つまらなさそうな表情で頬杖を突く皇子と、大きくなったお腹に手を添える無表情の幼馴染みが座っていた。
同じ衣装に初めて袖を通した日のアサギが、重いとボヤいていたことを思い出す。
(まさか私が、アサギちゃんと同じ衣装に袖を通す日が来るなんて……)
そんな日は、来なくてよかったのに。
隣に座るチヨは、マツと同じ衣装を身につけているのに涼しい顔をしている。表情は凛としていて、貫禄のようなものが備わっているみたいだ。
(同じだけの日数を経ているのに、だいぶ差ができちゃった……)
これが、覚悟をした者とそうじゃない者の違いだろうか。
マツとチヨのために新たな屋敷が建てられることになり、建築中の間は妻木の里に留まっていた。その間に自分の中で踏ん切りがつくかと思ったけれど、いまだに気持ちの整理はつかないでいる。
こんなにウジウジ考える性格だとは、自分でも思っていなかった。
もう、ただ流されているだけ。自分の意思を無くして流れに身を任せるがままにしてみたら、楽になれるだろうか。
(私の個を消せば、感情が無になれば、これからをやり過ごせるかしら……)
もう、心が徐々に死んでいく。
アサギと皇子の住まう宮殿に設けられている謁見の間。新たな屋敷が完成したと知らせを受け、今日は挨拶のためにやって来た。
皇子に会うのは、数ヶ月ぶりとなる。頭領から側室の話をされてから、今日に至るまで皇子の正妻であるアサギも会えていない。
隙を見て宮殿の使用人にアサギの様子を聞いてみたところ、腹が大きくなるにつれて、いろいろと不調が生じ始めているそうだ。
大丈夫かしらと心配する気持ちと、それなら会えないと理由を付けて避けようとする感情が、マツの中に共存していた。
しかし、そんな煮え切らない想いとも、今日でさよならだ。
目の前に設けられている皇子が座る一段高い場所には、席が二つ設けられている。きっと、あそこに座るのは正妻になった幼馴染みだろう。
入ってきたアサギが、どんな表情を浮かべているのか……想像するだけで、恐ろしい。怖くて逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
今日という日まで、側室という役目から逃れる手段を考えていたけれど、名案はなにひとつとして思い浮かばなかった。
逃れられない使命。定めか運命か。白羽の矢を立てた頭領を呪いたい気分だ。
(あぁ、嫌だな……)
遠くから、何人もの足音が近づいてくる。いよいよ、そのときがやってくるようだ。
(逃げたい……消えてしまいたいよ)
痛みを伴い、胃がキュッと縮こまる。
皇子とアサギに、会いたくない。会ってしまったら、本格的に新しく全てが始まり、築き上げてきた今までが壊れてしまう。
回避は、無理だ。
隣に座るチヨは、どんな気持ちでいるのだろう。前に話をしたときは、きっちり気持ちを切り替えていたもう一人の幼馴染み。ホワホワしているようで、実は芯がしっかりしている頑固者だというふうに、チヨに対する認識を改めた。
多分、三人の中でチヨが一番したたかだ。順応性があると言うか、計算高いのだろう。
(私は、自分がこんなに意気地無しだなんて知らなかった……)
チヨと動きを揃えるように両手を床に添え、飾りに注意を払いながら慎重に頭を下げる。
颯爽と前を通り過ぎる男性の足と、静々と擦れる衣の音。
「面を挙げよ」
久しぶりに聞く皇子の声に命じられ、ゆっくり頭を持ち上げる。
目の前には、つまらなさそうな表情で頬杖を突く皇子と、大きくなったお腹に手を添える無表情の幼馴染みが座っていた。
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