若き日の晴明、山中にて語らう妖。

佐木 呉羽

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人と狐の子

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 狐の子だと陰口を言われて育った。

 初めの頃は意味が分からなかったけれど、よわいを重ねるに連れ、それが除け者にされる理由であると理解する。

 晴明はるあきは、人間の父親と、人間に化けた葛の葉という名の狐との間に生まれた子であると、皆が言う。
 母が居らず、父も否定しないとなれば、その陰口を信じるしかなくなる。
 子供の頃から鬼を視るのも、人ならざる存在を視るのも、人間に化けることができた母から授かった力の賜物だろう。

 でも、人と人間に化けた動物の間に生まれた子は、晴明だけではない。
 神代によれば、豊玉姫とよたまひめサメである。山幸彦と結婚し、子供を授かり産んでいる。子の名は鵜葺草葺不合命うがやふきあえずのみこと。豊玉姫の妹である玉依姫たまよりひめと結婚し、神武天皇の父となった。

 狐の子と貶す輩に、神武天皇の父も鰐の子だと言ってやったら、どんな顔をするだろう。

 でもそれは、虎の威を借るなんとやら。見返してやるには、晴明も自分でなにか偉業を成し遂げねばならない。

(俺にできることは、妖を視るくらいか)

 そして、星を見ることくらいだ。
 ただ星を見るといっても、ただ眺めているだけではない。
 星にはそれぞれ役割がある。
 星の動きを知れば、天意を知れるのだ。
 天意を知るということは、この国の命運を左右する事象を読み解くということ。手にした情報から誤った解釈をすれば、帝のみではなく民の暮らしにまで影響を及ぼすのだ。

 星を読み、天意を読み解き、指針を示す。
 それが、中務省の陰陽寮に配される陰陽師の役目。
 幼い頃は、賀茂忠行を師と仰ぎ、陰陽道の修行に励んでいた。目指していたのは天文博士。それが今は、大舎人。
 中務省の大舎人寮に属する下級役人だ。主に、宮中での宿直や供奉を司る。
 陰陽寮は研究生も含め、かなりの狭き門。いつかは試験に合格して、陰陽師として活躍できるようになりたいものだ。

 若くから才を発揮できる人間が、羨ましい。

 晴明は、家路に向かう足を止めた。宿直からの帰路は、いつもより道のりが長く感じる。

 なんだか今日は、帰る前に寄り道がしたい。
 ほんの少し、気の向くまま、足が進むに任せて歩いてみることにした。
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