1 / 4
人と狐の子
しおりを挟む
狐の子だと陰口を言われて育った。
初めの頃は意味が分からなかったけれど、齢を重ねるに連れ、それが除け者にされる理由であると理解する。
晴明は、人間の父親と、人間に化けた葛の葉という名の狐との間に生まれた子であると、皆が言う。
母が居らず、父も否定しないとなれば、その陰口を信じるしかなくなる。
子供の頃から鬼を視るのも、人ならざる存在を視るのも、人間に化けることができた母から授かった力の賜物だろう。
でも、人と人間に化けた動物の間に生まれた子は、晴明だけではない。
神代によれば、豊玉姫は鰐である。山幸彦と結婚し、子供を授かり産んでいる。子の名は鵜葺草葺不合命。豊玉姫の妹である玉依姫と結婚し、神武天皇の父となった。
狐の子と貶す輩に、神武天皇の父も鰐の子だと言ってやったら、どんな顔をするだろう。
でもそれは、虎の威を借るなんとやら。見返してやるには、晴明も自分でなにか偉業を成し遂げねばならない。
(俺にできることは、妖を視るくらいか)
そして、星を見ることくらいだ。
ただ星を見るといっても、ただ眺めているだけではない。
星にはそれぞれ役割がある。
星の動きを知れば、天意を知れるのだ。
天意を知るということは、この国の命運を左右する事象を読み解くということ。手にした情報から誤った解釈をすれば、帝のみではなく民の暮らしにまで影響を及ぼすのだ。
星を読み、天意を読み解き、指針を示す。
それが、中務省の陰陽寮に配される陰陽師の役目。
幼い頃は、賀茂忠行を師と仰ぎ、陰陽道の修行に励んでいた。目指していたのは天文博士。それが今は、大舎人。
中務省の大舎人寮に属する下級役人だ。主に、宮中での宿直や供奉を司る。
陰陽寮は研究生も含め、かなりの狭き門。いつかは試験に合格して、陰陽師として活躍できるようになりたいものだ。
若くから才を発揮できる人間が、羨ましい。
晴明は、家路に向かう足を止めた。宿直からの帰路は、いつもより道のりが長く感じる。
なんだか今日は、帰る前に寄り道がしたい。
ほんの少し、気の向くまま、足が進むに任せて歩いてみることにした。
初めの頃は意味が分からなかったけれど、齢を重ねるに連れ、それが除け者にされる理由であると理解する。
晴明は、人間の父親と、人間に化けた葛の葉という名の狐との間に生まれた子であると、皆が言う。
母が居らず、父も否定しないとなれば、その陰口を信じるしかなくなる。
子供の頃から鬼を視るのも、人ならざる存在を視るのも、人間に化けることができた母から授かった力の賜物だろう。
でも、人と人間に化けた動物の間に生まれた子は、晴明だけではない。
神代によれば、豊玉姫は鰐である。山幸彦と結婚し、子供を授かり産んでいる。子の名は鵜葺草葺不合命。豊玉姫の妹である玉依姫と結婚し、神武天皇の父となった。
狐の子と貶す輩に、神武天皇の父も鰐の子だと言ってやったら、どんな顔をするだろう。
でもそれは、虎の威を借るなんとやら。見返してやるには、晴明も自分でなにか偉業を成し遂げねばならない。
(俺にできることは、妖を視るくらいか)
そして、星を見ることくらいだ。
ただ星を見るといっても、ただ眺めているだけではない。
星にはそれぞれ役割がある。
星の動きを知れば、天意を知れるのだ。
天意を知るということは、この国の命運を左右する事象を読み解くということ。手にした情報から誤った解釈をすれば、帝のみではなく民の暮らしにまで影響を及ぼすのだ。
星を読み、天意を読み解き、指針を示す。
それが、中務省の陰陽寮に配される陰陽師の役目。
幼い頃は、賀茂忠行を師と仰ぎ、陰陽道の修行に励んでいた。目指していたのは天文博士。それが今は、大舎人。
中務省の大舎人寮に属する下級役人だ。主に、宮中での宿直や供奉を司る。
陰陽寮は研究生も含め、かなりの狭き門。いつかは試験に合格して、陰陽師として活躍できるようになりたいものだ。
若くから才を発揮できる人間が、羨ましい。
晴明は、家路に向かう足を止めた。宿直からの帰路は、いつもより道のりが長く感じる。
なんだか今日は、帰る前に寄り道がしたい。
ほんの少し、気の向くまま、足が進むに任せて歩いてみることにした。
0
あなたにおすすめの小説
後宮に棲むは、人か、あやかしか
由香
キャラ文芸
後宮で消える妃たち。
それは、あやかしの仕業か――人の罪か。
怪異の声を聞く下級女官・鈴華と、
怪異を否定する監察官・凌玄。
二人が辿り着いたのは、
“怪物”を必要とした人間たちの真実だった。
奪われた名、歪められた記録、
そして灯籠に宿るあやかしの沈黙。
――後宮に棲むのは、本当に人ならざるものなのか。
光と闇が交差する、哀切の後宮あやかし譚。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜
草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、
毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。
ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。
「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると……
生えてきたのは植物ではなく、人間!?
咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。
人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、
家族、別れ、再生。
ほんのり不思議で、少しだけ怖く、
それでも最後には、どこかあたたかい。
人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。
あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか?
またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる