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第3章 神様に、さようなら、と、ありがとう

11.神様と、マグロ。父さんと母さんには、俺を含まない家族がある。父さんも母さんも、俺には、同じことを言うんだ。

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俺と神様は、水槽を遊泳するマグロが、銀色に光っているのを見ている。

神様は、俺の肩に座っている。

「マグロは、生きている間、ずっと泳ぎ続けるんだって。」

俺は、神様に豆知識を披露する。

「マグロは、生きることが、泳ぐことなのだろう。」
と神様。

「マグロが、ぴかぴかしているって知らなかった。
山のふもとに住んでから、魚は干物オンリー。
町中にいたときに食べる刺し身のマグロは、赤身だし。」

「マグロが気に入ったのか、連れて帰るか?」
と神様。

「俺、就職が決まらないまま卒業したら、四月から、無収入なんだ。

生き物は飼えないよ。

自分の生活の見通しさえ立っていないのに、他の命の責任までは持てない。」

「広さはあるが?」
と神様。

「マグロが泳げるだけの土地があっても、水槽を作って、マグロを泳がせる水槽の環境を維持する技術と費用が、必要なんだ。」

「小童は、さとくなると、諦めがよくなる。」
と神様。

なあ、神様、最後だから、言ってもいい?

もう会うことがないなら、迷惑にならない?

「神様、俺は、手を伸ばして、いらないと言われるのが、怖い。

今の俺を欲しがってくれる人は、どこにもいない。

自転車に乗る練習をしていたときは、父さんも母さんも、俺のことを欲しがってくれていたのに。

父さんと母さんは、いつから、俺が欲しくなくなったのか、俺には、全然分からない。

父さんと母さんと三人で暮らしていたときも、一人暮らしを始めてからも、全然。

俺、会いにいったけど、父さんも母さんも、俺じゃない我が子は大事にしているんだ。

俺より、小さくて、手がかかるから?

そうじゃないんだ。

家族の中に必要とされているか、いないか。

小さい子は、我が子なんだ。

俺は、何なんだろう?

父さんも母さんも、俺が会いにいっても、喜ばない。

俺が会いにいくと、俺の用事を済ませて、家族の元に戻りたがっている。

『用事は済んだ?』
『他には、何かない?』
二人が、俺に聞いてくるときは、解散の前触れ。

我が子がうちで待っているから、と、いそいそと帰り支度を始めている。

『まだ、もうちょっといたい。』
と俺が言うと、迷わず、伝票だけ持って店を出ていくんだ、父さんも母さんも。

『払っておくから、満足したら帰りなさい。』
って、台詞まで同じ。

父さんも母さんも、そっくりな行動をするのに、どうして、仲良しじゃなくなったんだろう。

父さんのことも、母さんのことも、俺には、全然分からない。

二人とも、よく知っているはずなのに、知らない人みたい。

父さんと母さんの、それぞれの家族の中に、俺は入っていないから、家族のいる家には、あげてもらえない。

いつも、ファミレスで待ち合わせ。

父さんも母さんも、時間ぎりぎりに来て、用事が済んだら、振り返らずに、家族の元へ帰っていく。

父さんと母さんは、恋愛結婚だって聞いたんだ。

恋心が無くなったから、家族だった全部を壊して、全部なかったことにした?

俺のことは、壊せないから、ハブにした?

卒業が決まっているのに、就職先が決まらない。

友達からは、連絡が来ない。

友達には、俺からも連絡していないから、お互い様だけど。

誰にも欲しがられない俺は、どうしたらいい?

神様がいなくなったら、俺、誰と、どんな話をしたらいいのか、分からないんだ。

こんな話をされて、神様、びっくりしたよな、ごめんな。

神様は友達だから、最後まで、楽しい思い出を作りたいと、思ったのに。

神様にしか話せない話だから、聞いて欲しかった。

いきなりでごめん、ありがとう。

よし、神様、観覧車だ!
観覧車に乗りにいこう!」
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