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第6章 神様が棲むネットショップ〈神棚〉、営業中

79.母さんにとって、俺との関わりは、内側から身を蝕む甘美な毒だった。同級生だった人といて気づいた。同級生だった人と母さんは、似ていて違う。

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「今回の十人のうち、一部でも、全部でも、深川さんが使える人はいましたか?
情報をいただいたお礼に、お譲りします。」

「それは、お礼なのかい?」
と深川さん。

「特徴を確認された中で、深川さんの役に立つ人は、ゼロでしたか?」

ふっふっ、と深川さんは面白がった。

「いらない、と言ったら、志春(しはる)社長は、どうするんだい?」
と深川さん。

「何もしません。通りすがりの親切な人が見つけなければ、そのままになります。」

俺は、いらないから。

「親切な人は、そのへんにいるのかい?」
と深川さん。

「私は見たことがありません。」

山を挟んで反対側。

俺が立っている場所からは、打ち捨てられた民家しか見当たらない。

「一部、引き受けよう。」
と深川さん。

毎度、ありがとうございます。

深川さんがピックアップしたのは、ナイフ使い、他、数名。

下っ端じゃない人達。

どこぞとの交渉に使うのかもしれない。

神様が、お礼をするなら、と勧めてくれた。

『志春(しはる)が、直接送り返すよりも、間に一人挟むとよい。』

「お渡しする人は、車に積んでおきます。車ごと、とりにくる手配をお願いします。

残りは、自首を勧めている人に、途中まで運転して運んでもらいます。

運転手を二人、ご用意ください。」

「車があるのかい?」
と深川さん。

「二台の車で乗り付けてきました。
私は運転しません。
運転の仕方を知りません。

運転代行に頼みたくても、行き先に問題があります。」

犯罪に関わる団体さんのところまで、車を届ける仕事を依頼するのは、支障がある。

「手配しておくよ。」
と深川さん。

「ありがとうございます。」

人事不省に陥った八名と、同級生だった人を車に乗せるなら。
山の怪(け)にお願いして、我が家のある側へと、山の中をもう一度移動しないと。

外傷なしの同級生だった人に、人事不省の八名を車に乗せるから、全員で山の中を移動すると伝えたら、また元気がなくなった。

明るくなる前に移動は完了。

同級生だった人が、我が家の庭に停めてある車まで、一人一人運んで、乗せていく。

「その人は、こっち。」

どっちの車に誰を乗せるか、振り分けをしていると。

「まとめないほうが。」
と、同級生だった人。

下っ端と下っ端じゃない方に分けているのが、心配になった様子。

「そちらが運転する車は、下っ端オンリー。」
と安心させてみた。

「もう一台は?」
と怪訝そうにする同級生だった人。

なんと説明しよう。

「出荷するから。」

「出荷?」

出荷は、イマイチ?

「出荷というより、リサイクル?
俺は、いらないけれど、無駄にはしないで、資源として使うんだ。」

婉曲的に言い過ぎたのかもしれない。

言葉通りに受け取って、ドン引きされた。

説明を足すことにする。

「俺がいらないから、と、このまま放置するよりは、必要とされている人のところにもらわれていく方が、この人達の命を無駄にしない。

エコだと思う。」

さらにドン引きされた。

説明で、意図を正確に伝えるのって、難しい。

「そちらの運転する車は、運転手が途中で交代するから、そのタイミングで自首すれば?」

同級生だった人は、うーん、と悩む素振りを見せた。

まだ、腹をくくっていなかったんだ?

「自首しなかったら?」
と同級生だった人が聞いてきた。

自分だけが無事だったことで、この程度なら問題ない、という考え方になると、これからのやり直しは難しいと思う。

そういうことを、俺が話しても、伝わる?

伝わらなくてもいい。

最後だから、俺がすっきりするために言ってしまうことにする。

「どんなことにも、二度目はない。

俺は、そちらの人生に関心がない。

はっきり言うと、そちらが自首しても、自首しなくても、俺には関係ない。

自首した後の苦労は、そちらの都合だ。

自首しなかったら、俺みたいに探し出されて、どうにかされることになるかもしれないけど、そちらだけの話。

そちらは深みに足を突っ込んでいる状態だから、逃げ出したら、逃亡生活になると俺は思う。

今後、そちらがどうなっても、そちら自身の行動のツケと責任。

今の俺が言えることは、二度と俺には関わるな、ということ。」

母さんと同級生だった人は、傾向が似ている。

同級生だった人を見ていると、母さんをだめにしていったのは、俺だったんじゃないか、という気がしてくる。

母さんが、どんどんだめになっていったのは、俺との関わりを断たなかったからかもしれない。

俺との関わりは、母さんにとって、内側を蝕む甘美な毒だった。

俺は、大学に入ってからの四年間。

母さんのご機嫌を気にして、母さんに振り向いてほしくて、母さんの言うなりだった。

父さんに対しても、俺は、同じ反応だったけど、父さんと母さんは、違うから。

母さんにとって、俺という存在は、ある時点から、母さんが楽に生きるために好きにしていいものになっていったんだと思う。

最初は、母さんの味方にならない俺が嫌いという感情から始まった。

そのうち。
俺のことは嫌いだから、何をしても許される、と変化して。

最終的に、母さんが苦労しないための便利なもの、に俺はなっていったんだと思う。

母さんの中で。

気づきたくなかったけど、気づいてしまった。

俺の存在が、母さんの生活圏に入ることは、母さんにとっても、俺にとっても、良い結果にならないということに。

もっと早く気づけていたら、心に穴をあけないで済んだ?

隙間風じゃなくて、冷風が吹き込んでくる。

問題が大きくなって、こじれて、元に戻れなくなってからじゃないと、俺は気づくことができない。

いつも。

気づくのが、今じゃなくても良かったのに。

母さんと会わないと決めたことは間違いじゃないんだ、と自分で自分の背中を押せるほど、俺は大人になれない。


深川さんが手配してくれた運転手の人が、到着したので、後はお任せ。

車が出る前に。

同級生だった人は、目をうろうろさせながら、俺の前に立った。

「お母さんを利用して、お母さんとの関係を修復できなくしたのは、悪かった。

親子だから、口が悪くてもどうせ、口だけだと思っていた。

絶縁までいくとは思っていなかった。

ごめん。

あんたのことは、簡単に言うことを聞きそうな奴としか見てなかった。

人を見る目がなくて、視野が狭かった。」
と同級生だった人。

この人は、俺に、謝れるんだ。

びっくりした。

母さんには、俺に謝る発想がなかったから。

「謝りたかったら、好きなだけ謝っていけ。
そちらが、俺にできることなんか、他にない。」

俺が許すことは、ないけれど。

同級生だった人が、俺にしたことを申し訳なく思ったことは、嬉しい。

母さんもいつか、俺に、申し訳なく思える日が来る?

母さんには、難しい?

何年後でも、何十年後でも、待っている。

待っている、待っているから。

いつか。

母さんと会わないと決めた心は、変わらない。

変わらないけれど、じくじくするんだ。

きっと、このじくじくに終わりはない。

これから神様と一緒に楽しく過ごしていても。

ふとしたときに、心のじくじくはやってくると思う。

母さんとは、会わないままでいる。

でも、何かの偶然で。

『あのときは、志春(しはる)に悪いことをして、ごめんね』
と母さんから、俺に謝るの日がきたら。

許しはしなくても、母さんからの謝罪を聞く準備をしておく。

多分、これから、ずっと。

だから、母さんには元気でいてほしい。

いつかの日まで。

もう、母さんとはこれっきり、だとは言いたくないんだ。

会わない方がいいと分かっていて、会うことはないと思っているけれど。

どうしても。
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