隣の席の老奥様〜「可愛い絵の御本をよんでいるのね。」漫画をご存知ない老奥様と私の電車時間

かざみはら まなか

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36.私は用心深く、清雅さんは用意周到。清雅さんは、清雅さんの役に立たなければ、結婚相手として見ないような人だとあなたは言っているよ?

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バスの車内で喋っているのは、清雅さんが女を見る目がないと言われていると私に告げた女の人と私だけ。

他の乗客は、誰も喋らない。

物音も立てない。

動かない。

風景と一体化しようとしている?

まだ誰も押していない降車ボタン。

バス車内の変化は、電光掲示板に表示されているバス停名が一個ずつ進んでいくのみ。

双六で、サイコロふったら一の目が連続して出ている状況?

私がバスを降りるまで、誰もバス停双六からあがらなかったりして。

「清雅さんのことは、一旦おいておいて、あなたのことを聞きましょう。」

「あなた、私に興味があるの?」
とその人。

「ここにいない清雅さんの話題で私と同じくらい盛り上がれる人なので。」

「あなたと私が同じだと言うの?」
とその人。

同じではないよ?

「清雅さんにかける熱量は伝わりますよ。」

「私の方が清雅さんに詳しいわ。

何も分かっていないくせに態度だけデカいあなたと違って、私は清雅さんを助けられる。」
とその人。

この人の立ち位置がつかめてきた気がする。

「清雅さんにそう打診しては?」

「あなたがいたら、清雅さんの手が塞がるのよ。」
とその人。

清雅さんの手が塞がるのは、私の立ち位置が、清雅さんの婚約者だから。

情報が早いのは、この人自身が清雅さんの近くにいた?

それとも、清雅さん関係の正確な情報を集められる立ち位置にいた?

清雅さんが私を婚約者にしたのは、ここ最近の話。

情報発信源は、の一人として考えられるのは、清雅さん本人。

もしくは、清雅さんの情報を知っていても、清雅さん自身が気にしない人。

清雅さんの婚約者の立ち位置に私がいることが受け付けない。

清雅さんの評価は、私を婚約者に据えたことで落ちた。

私にどうするんだ、と絡んできた目的は、私に婚約辞退を言い出させたいからかな?

清雅さんに悪評がつきまとうのを苦にした私が婚約辞退を申し出た、という形に持ち込みたい?

はっきりと言葉に出さないのは、婚約辞退を強要した証拠を残したくないから?

清雅さんのため、を理由にしているけれど。

本気で清雅さんのためを考えている?

大義名分に使っている?

いずれにしても、そのワードは、私には効かないよ。

清雅さんの奥さんの役割やら仕事やら、大変さについても重圧についても、私は知らないから。

今の私に何の説明もしていないのは、清雅さんの計画通りかもしれない。

清雅さんは、私が用心深いと認識している。

清雅さんの奥さんというポジションは、大変さを知らないから飛び込める、知っていたら尻込みしたくなる。

清雅さんがそう認識しているなら、私には知らせないように、大変さを減らしてくれそう。

私は、冒険心よりも、リスク管理を優先してきた。

負担が多くなるなら撤退もやむなし。

清雅さんとの結婚は、私の人生のゴールにはならない。

私自身を見ていた清雅さんは、知っている。

私との結婚を最優先事項にして、私との結婚の障害になるようなものの解決には素早く動く。

それが清雅さん。

私と清雅さんの結婚の一番の障害が何になるか、清雅さんも私も知っている。

それは、私自身の決断。

私が、清雅さんとの結婚を止めると決めてしまったら、清雅さんは覆せない。

私が頑固だから、だけじゃない。

自分の意思を貫き通すために何をすればよいかを考える頭が、私にはある。

意思を貫き通すために、何をして何をしないかを決めてから実行に移し、計画を達成するまで待てるだけの辛抱強さも、私にはある。

バスの車内で私と会話するこの人は、清雅さんを待てなかったのかもしれない。

もしくは、待たせてもらえなかっのかも。

私が本気で拒めば、清雅さんは退く。

清雅さんが嫌がることは私もしない。

私と清雅さんの関係は、寄らば大樹の陰にならない者同士だからうまくいっているんじゃない?

清雅さんは、目的達成の障害になるようなことを自らはしない。

惚れた欲目で私を見る時期は、今じゃない。

私と清雅さんは、私を過小評価しても、過大評価しても、私との結婚が遠ざかると知っている。

「清雅さんの隣で清雅さんと手を繋いでいないと、清雅さんを助けられないんですか?」

清雅さんが私と結婚する意思があり、私も清雅さんと結婚したいと思った。

私と清雅さんはうまくいっているのは、清雅さんの意思の強さと私の思いの強さが同じくらいで拮抗しているから。

どちらかの負担になるようなことには、なっていない。

「あなたは、清雅さんの隣にいていい女じゃない。

清雅さんを助けるためには、あなたがいてはいけないの。」
とその人。

清雅さんの私に対するスタンスまでは知らないんだ。

教えられていない?

推し測るものなのに、推し測れていない?

「そのアイディアでの助け方を清雅さんが望んでいなかったら、清雅さんには採用されませんよ。」

良かれと思ってしたことを本人に気付かれるときの法則。

やったことが、本人に良く思われていないから気付かれる。

「清雅さんのためを思うなら、清雅さんが道を踏み外そうとする前に、止めてこそ、でしょ。」
とその人。

清雅さんサイドに自分がいると思い込んで、疑っていないけれど。

その確信は、どこから?

希望的観測?

それとも、信じたい誰かから言われた?

「清雅さんの隣にいることを、清雅さんのために働くことの功労賞と位置付けているんですか?」

嫁選びの基準が功績の有無なら、清雅さんは私を求めていない。

「清雅さんへの真心があるからこそ、役に立とうとしているの。」
とその人。

清雅さんの役に立ってから、清雅さんの隣に行きたい、という願いが清雅さんと自分を遠ざける。

そのことに、まだ気付いていないんだ。

「結婚を考える相手に、自分の役に立つことを清雅さんは求めましたか?」

役に立たないと一緒にいられない、とあなたが思うような相手の隣に、役に立ったあなた立って、あなたは望むものが手に入れられる?

隣に立ったあなたが、愛してほしい相手から愛されるところを想像できる?

役に立っても、役に立ったことを当然だと思われる結婚生活が待っていない?

役に立ったことへの報償が、清雅さんとの結婚なら、あなたが清雅さんの役に立たなくなったときにその結婚生活は終わらない?
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