隣の席の老奥様〜「可愛い絵の御本をよんでいるのね。」漫画をご存知ない老奥様と私の電車時間

かざみはら まなか

文字の大きさ
48 / 113

48.家族だからルール、の家には住まない。でも、お父さんとお母さんが変わってくれるなら。

しおりを挟む
「葵さん。他にはどんな理由がありますか?」
と清雅さん。

「この家の見せる収納です。」

「お母さんも、収納のあるべき姿に到達するまでは、試行錯誤したわよ。

葵は、まだ収納初心者だから、分からないことばかりでしょう?

収納が得意なお母さんが、葵の代わりに手直しをしてあげるから。」
と母。

父とは別のベクトルで、母は私を追い詰めてくる。

見る限り、母に、私を追い詰める自覚はなさそう。

母は、自分の得意分野で、物を知らない娘を助けるのだと考えている。

私への悪意はない。

でも、理解もない。

母は、最初から、私に対する理解に乏しかったかも。

母の私を理解しようとする意欲が、兄に対するときよりも低かった。

兄は、定規の件で図に乗った。

「お母さんは、私の家を変えようという考えは持たないで、お母さんが住んでいるこの家で満足して。

お母さんの得意な見せる収納は、私には暮らしにくいの。」

「葵は、整理整頓が苦手だったものね。」
と母。

私の話を聞いていない?

それとも、私の話したことだから、母の理解が追いついていない?

「私のものを、私の部屋以外で散らかしていたのはお兄ちゃんだよ。」

「葵、お兄ちゃんには、使ったものを片付けなさいとよく言っておく。」
と父。

トンチンカンな気遣いを見せる父は、私のことを見てはいる。

「お兄ちゃんには、私のものを触らないことをよく言っておいて。」

どれだけ通るか分からないけれど、今日は、私の要望を伝えることを諦めないでいよう。

清雅さんのアシストは無駄にしない。

「家族なのに、それは無理があるわよ。」
と母。

この家では、家族だから、が免罪符になるんだよ。

免罪符にしようとするんだよ、お父さんとお母さんが。

「家族だからルールがあるから、この家で、私の希望を叶えるのは無理なんだと分かっているよ。」

「家族だからルールなんて。そんな言い方は良くないわ。

家族には、家族としての思いやりを持って。」
と母。

「家族としての思いやりは、私に発揮されなかったと私は感じているの。

お父さんとお母さんとお兄ちゃんに快適な家族ルールは、私の生活を著しく悪いものにしたよ。」

「自分が思い通りにならないから、皆もいらないものだと決めつけていたら生きていけないわよ。」
と母。

「だから、私はもう、この家では生きていかないよ。

私に悪知恵を働かせるお兄ちゃんとも会わない。

お父さんとお母さんとも、必要最低限の付き合いで済ませると決めた、という話をさっきしたの。」

「結婚の挨拶に来たんじゃないのか?」
と父。

「私と清雅さんは、結婚の挨拶に来たの。

私の知らないところで、お兄ちゃんの彼女を同席させるなんて、失礼千万なことをしでかしてくれたから、腹をくくって、今後の話し合いをしているの。」

「葵は、どうしたいんだ?」
と父。

「今後、お父さんとお母さんが、私の話を聞いて、私の考えや感情をなかったことにしないのなら、細々とでも、関係を無くさないでいる。

私の話を聞いて確認することが、お父さんとお母さんには難易度が高いなら、もう、近寄らないでいる。」

「娘なのに、親に近寄らないだなんて。」
と母。

「今は、離れた地で元気にしていてと思える。

でも、今のお父さんとお母さんとお兄ちゃんが近くにいたら、一刻も早いお別れを願うようになるかもしれない。」

「親に向かってなんてことを言うの。」
と母。

「娘にそう言われるような親だという自覚を持って。

自覚をもとに変われるなら、変わっていってよ。」

「いつから、そんなことを考えていたの?」
と母。

「結婚を考えて、家庭を持つことを考えてから。

お父さんとお母さんが変わるところを想像できなかったときは、お父さんとお母さんとは、今生の別れまで会わないつもりでいたけれど、結婚を機に、一度は、家族と向き合おうと思ったの。」

「葵は、結婚を意識してから変わったのね?」
と母。

「結婚を意識したときに、私は、お父さんとお母さんの子どもから、一人の大人であることを自覚したの。」

「そうなの。」
と母。

そこから、父と母は、清雅さんの手土産を話題に出したり、清雅さんの仕事や家族について清雅さんに聞き始めた。

お父さんとお母さんへの説得は、うまくいったのかな?

私は、清雅さんの横で、ほっとして、お茶で喉を潤す。

「お茶が冷めたわ。たくさん喋って喉も渇いたでしょう。

葵、お茶を淹れなおすから手伝って。」
と母。

話すことは話したと思うけれど、親がお茶のお代わりを言い出したときは、断らない方が良かったんだったかな。

私は、母と共に席を立った。

「清雅さん、主人とゆっくりしていてください。

葵と少々、席を外します。」
と母。

台所に着くまで無言でニコニコしていた母は、台所に入るなり、笑顔を消した。

「葵は、あの人がいいの?」
と母。

これは、恋バナが始まる予感?

「うん。私のことを一番に考えてくれる素敵で優しい人だよ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...