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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。
69.あなたの探偵は、あなたの友達でも知り合いでも家族でもないのが強み。漆葉の妹、柚葉の言う、家族皆が可哀想の意味を考えた漆葉は?
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漆葉の持つ一筆箋に、文字が浮かぶ。
『引き受ける。ただし、解決策は、依頼人の希望に全部そうものになるとは限らない。』
漆葉、えっ、と小さく非難する声を漏らした。
探偵は、私を助けてくれるんじゃないの?
漆葉の不満を読み取ったかのように、一筆箋の文字は変わった。
『外的要因は変えられても、内的要因を変えるのは、探偵ではない。』
内的要因って、何?
どれのこと?
漆葉が見つめていると、一筆箋の文字はまた変わった。
『依頼人となったあなたが、探偵と相談しながら能動的に動くならば、内的要因が変化するかもしれない。』
漆葉は、一筆箋に浮かんだ文字を繰り返し読む。
探偵に全部お任せにはできない、ということだ、と漆葉は思った。
自分でも動かないと、漆葉の抱える問題が解決しないという意味なら。
自分だけで動くんじゃなく、探偵と相談しながら動けば、解決するということ?
漆葉は、一人で考えた。
漆葉にとって幸いなことに、妹の柚葉は部屋にいない。
瑠璃と玻璃の姉妹が引っ越していった後、漆葉と柚葉は、別々の部屋に引きこもった。
一人になる必要があった漆葉には、ちょうど良かった。
柚葉は言っていた。
父と母と柚葉で話が通じ合っている、と。
漆葉の助けてほしいというSOSは、両親にも妹にも鬱陶しがられていた。
両親からではなく、妹から聞かされるとは思ってもみなかっただけに、漆葉への打撃となった。
妹は、漆葉と同じ気持ちだと漆葉は思っていた。
漆葉を人身御供にする両親と一緒になって、人身御供にされた漆葉を観察し、漆葉の二の舞を演じることがないようにしようと妹の柚葉が考えていたなんて。
今、柚葉の部屋からは、柚葉の生活音しかしない。
漆葉は、妹の柚葉が、両親と漆葉の話に興じていないことにほっとした。
両親が、牡丹の庭中学校の校区に引っ越したのは。
多少、駅から遠くても、自分達の家を戸建てで買いたかったからだ、と漆葉は聞いたことがある。
漆葉の父は、家を買って庭作りをしたかったそうだ。
引っ越してきて最初に行ったのは、ホームセンター。
園芸のための道具を揃えにいったらしい。
いい加減、新しい道具に買い替えたい。
父がそう言わなくなったのは、いつからだろう?
ある日、父は、大切に育てていた庭の木の枝をばっさ、ばっさと落とした。
父は何も言わない。
母も、何も触れない。
妹も、何も。
漆葉は、気にしたことがなかった。
父に、母に、何かあったのかもしれない。
漆葉の知らないところで、誰かが何かをしていたのかもしれない。
妹は、漆葉だけが可哀想じゃないと言っていた。
漆葉の両親も、妹も可哀想だと妹は話していた。
そういえば、と漆葉は振り返る。
お隣の瑠璃とはよく話をしていたけれど、妹の柚葉とは、どうだっただろう?
漆葉は、妹の言うことに耳を傾けてきただろうか。
漆葉自身に迫るタイムリミットだけが、漆葉の頭の中を占めていた。
家族をどうこう言っている漆葉自身が、家族に向き合ってこなかった、ということはないか?
漆葉は、考えた末に、二枚の一筆箋の一枚に文字を書いた。
『家族と話をしてみて、追加の情報や依頼になったら、引き受けてくれますか?』
慎重に一筆箋に書いた文字は、一筆箋に吸い込まれていった。
探偵に読まれない可能性を漆葉は考えた。
「もしも、探偵が今書いた文字を読むことがなくても。」
漆葉は、依頼人との一筆箋でのやり取りを思い返す。
「依頼は受けてもらえている。
依頼人は私。
外的要因は、探偵にお任せして。
内的要因は、私が相談したら、相談にのってくれることになっている。」
漆葉の小さい声は、芯の通ったものになっていく。
「私は一人じゃない。」
漆葉は、全開にしていた部屋の窓を四分の三閉めた。
「私は、もう、一人で悩んでいなくてもいい。」
だって、漆葉には、探偵がついている。
「一人で悩まなくてもいいのは、私だけじゃない。」
漆葉は、拳を握りしめた。
漆葉が、伸ばして助けを求めた手は、無駄ではなかった。
漆葉は、味方を見つけた。
家族、友人でも、知人でもない、顔も知らない探偵。
探し求めてきた味方が、漆葉にはいる。
「親も柚葉も、どうにもできないことを一人で考え込まなくてもいい。」
漆葉と漆葉の家族だけでは、解決出来なかったことも。
漆葉が探偵に相談したら、もしかして?
漆葉は、部屋の扉を開ける。
「柚葉。柚葉の悩みを私にも共有させて。
私、柚葉の言葉の意味を考えて目が覚めた。」
漆葉は、妹の柚葉が引きこもっている部屋の前に立った。
「柚葉だけじゃなく、これからお父さんとお母さんの悩みも聞いていく。」
妹の部屋からは、音がしない。
「私は、ずっと私のことしか考えてこなかったけれど、今からは家族四人で、考えたい。」
漆葉が、部屋の前で立っていると。
「本気?」
柚葉が、扉を開けた。
「うん。今まで、自分のことばかりで、ごめんね。」
「本当だよ。私も言い過ぎたけれど。
お姉ちゃんは、周りが見えていなかった。」
漆葉が謝ると、柚葉は、部屋に入って、と漆葉を誘った。
「お父さんとお母さんと話をするのは、私の話と私が知っている話を聞いてからにして。」
『引き受ける。ただし、解決策は、依頼人の希望に全部そうものになるとは限らない。』
漆葉、えっ、と小さく非難する声を漏らした。
探偵は、私を助けてくれるんじゃないの?
漆葉の不満を読み取ったかのように、一筆箋の文字は変わった。
『外的要因は変えられても、内的要因を変えるのは、探偵ではない。』
内的要因って、何?
どれのこと?
漆葉が見つめていると、一筆箋の文字はまた変わった。
『依頼人となったあなたが、探偵と相談しながら能動的に動くならば、内的要因が変化するかもしれない。』
漆葉は、一筆箋に浮かんだ文字を繰り返し読む。
探偵に全部お任せにはできない、ということだ、と漆葉は思った。
自分でも動かないと、漆葉の抱える問題が解決しないという意味なら。
自分だけで動くんじゃなく、探偵と相談しながら動けば、解決するということ?
漆葉は、一人で考えた。
漆葉にとって幸いなことに、妹の柚葉は部屋にいない。
瑠璃と玻璃の姉妹が引っ越していった後、漆葉と柚葉は、別々の部屋に引きこもった。
一人になる必要があった漆葉には、ちょうど良かった。
柚葉は言っていた。
父と母と柚葉で話が通じ合っている、と。
漆葉の助けてほしいというSOSは、両親にも妹にも鬱陶しがられていた。
両親からではなく、妹から聞かされるとは思ってもみなかっただけに、漆葉への打撃となった。
妹は、漆葉と同じ気持ちだと漆葉は思っていた。
漆葉を人身御供にする両親と一緒になって、人身御供にされた漆葉を観察し、漆葉の二の舞を演じることがないようにしようと妹の柚葉が考えていたなんて。
今、柚葉の部屋からは、柚葉の生活音しかしない。
漆葉は、妹の柚葉が、両親と漆葉の話に興じていないことにほっとした。
両親が、牡丹の庭中学校の校区に引っ越したのは。
多少、駅から遠くても、自分達の家を戸建てで買いたかったからだ、と漆葉は聞いたことがある。
漆葉の父は、家を買って庭作りをしたかったそうだ。
引っ越してきて最初に行ったのは、ホームセンター。
園芸のための道具を揃えにいったらしい。
いい加減、新しい道具に買い替えたい。
父がそう言わなくなったのは、いつからだろう?
ある日、父は、大切に育てていた庭の木の枝をばっさ、ばっさと落とした。
父は何も言わない。
母も、何も触れない。
妹も、何も。
漆葉は、気にしたことがなかった。
父に、母に、何かあったのかもしれない。
漆葉の知らないところで、誰かが何かをしていたのかもしれない。
妹は、漆葉だけが可哀想じゃないと言っていた。
漆葉の両親も、妹も可哀想だと妹は話していた。
そういえば、と漆葉は振り返る。
お隣の瑠璃とはよく話をしていたけれど、妹の柚葉とは、どうだっただろう?
漆葉は、妹の言うことに耳を傾けてきただろうか。
漆葉自身に迫るタイムリミットだけが、漆葉の頭の中を占めていた。
家族をどうこう言っている漆葉自身が、家族に向き合ってこなかった、ということはないか?
漆葉は、考えた末に、二枚の一筆箋の一枚に文字を書いた。
『家族と話をしてみて、追加の情報や依頼になったら、引き受けてくれますか?』
慎重に一筆箋に書いた文字は、一筆箋に吸い込まれていった。
探偵に読まれない可能性を漆葉は考えた。
「もしも、探偵が今書いた文字を読むことがなくても。」
漆葉は、依頼人との一筆箋でのやり取りを思い返す。
「依頼は受けてもらえている。
依頼人は私。
外的要因は、探偵にお任せして。
内的要因は、私が相談したら、相談にのってくれることになっている。」
漆葉の小さい声は、芯の通ったものになっていく。
「私は一人じゃない。」
漆葉は、全開にしていた部屋の窓を四分の三閉めた。
「私は、もう、一人で悩んでいなくてもいい。」
だって、漆葉には、探偵がついている。
「一人で悩まなくてもいいのは、私だけじゃない。」
漆葉は、拳を握りしめた。
漆葉が、伸ばして助けを求めた手は、無駄ではなかった。
漆葉は、味方を見つけた。
家族、友人でも、知人でもない、顔も知らない探偵。
探し求めてきた味方が、漆葉にはいる。
「親も柚葉も、どうにもできないことを一人で考え込まなくてもいい。」
漆葉と漆葉の家族だけでは、解決出来なかったことも。
漆葉が探偵に相談したら、もしかして?
漆葉は、部屋の扉を開ける。
「柚葉。柚葉の悩みを私にも共有させて。
私、柚葉の言葉の意味を考えて目が覚めた。」
漆葉は、妹の柚葉が引きこもっている部屋の前に立った。
「柚葉だけじゃなく、これからお父さんとお母さんの悩みも聞いていく。」
妹の部屋からは、音がしない。
「私は、ずっと私のことしか考えてこなかったけれど、今からは家族四人で、考えたい。」
漆葉が、部屋の前で立っていると。
「本気?」
柚葉が、扉を開けた。
「うん。今まで、自分のことばかりで、ごめんね。」
「本当だよ。私も言い過ぎたけれど。
お姉ちゃんは、周りが見えていなかった。」
漆葉が謝ると、柚葉は、部屋に入って、と漆葉を誘った。
「お父さんとお母さんと話をするのは、私の話と私が知っている話を聞いてからにして。」
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