言霊の手記

かざみはら まなか

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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。

72.『私達を最後まで助けてくれる人なんていた?』

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立ち止まった少女は、戻ってきた少女と一緒に行くことを拒否した。

「一人でなんて行けるわけないじゃない!

自分が何を言っているか、分かっている?

行くよ!」

戻ってきた少女は、立ち止まる少女に、手に抱えているスケートボードをゴンゴンぶつける。

「止めてよ。

私は、勇輝ゆうきを助けたいの。」

「そんなの。

私達には無理だって分かっているじゃない!」

「無理かどうかなんて、まだ分からない。」

「分かっているのに、分からないフリをしないで!」

「分からないフリじゃない。

今、助けられる方法があると分かった。」

戻ってきた少女は、立ち止まって動かない少女に苛立ちを募らせていく。

かえで、どうして急に馬鹿になったのよ!」

「急に馬鹿になったんじゃない。

私は、何か助かる方法がないかとずっと考えていた。」

立ち止まった少女は、戻ってきた少女に苛立ちをぶつけられても、負けずに言い返している。

「散々話し合って決めた、四人の約束を勝手に破る気?」

戻ってきた少女の声は、怒りに震えている。

「それは。うん、ごめんね。」

立ち止まった少女の謝罪は、すぐに謝罪の言葉を口にした。

「謝っても許さない。

迷惑をかけても謝ったら許されるとか、自分本位に考えるのは止めて。」

戻ってきた少女には、立ち止まった少女の謝罪ごときに価値はない。

あごで、行くよ、と進行方向を示す。

「本当にごめんね。」

立ち止まった少女は、歩き出さない。

「ごめんで済むと思っているなんて、どれだけオメデタイの!」

明佳めいかは、勇輝ゆうき武流たけるを助けたいと思わないの?」

かえで。悪い癖よ。

かえでの希望を確定した未来のように言わないで。

助かるかどうかも分からないものに、私達全員の運命をかえでの勝手で賭けないで。」

「私が何もしなかったら、勇輝ゆうき武流たけるも、このまま放置されるだけ。

あんな怪我したまま放置したら、どうなるか。」

「どうなるか、なんて。そんなことは、最初から分かりきっていた!

こういうことをするなら、怪我の可能性がないわけじゃないことは、十分承知の上だった!

グダグダ言っているのは、かえでだけ。」

「説明されて分かりました、そうでしたね、聞いていますから分かっています、なんていうのは、怪我していないときだから言えたの!」

「怪我するリスクがあるから、と、二人は、今まで大目に見てもらえた。

怪我した分で、今までのプラスがなくなったから、人生はプラマイゼロ。」

「二人のあの怪我を見ているのに、明佳めいかは、よくもそんなことを。」

「怪我する日がきたときのことまで織り込み済みだったから、色々と免除されてきた事実が二人にはある。」

「そうは言っても、痛がっているんだから。

私達は、勇輝ゆうき武流たけるを見捨てたら駄目。」

「怪我をしたから、やっぱり説明された件に了承したのはなしにしてください、免除されていた分はそのままにしてください、が通ったら。

怪我するリスクを考えて、怪我する可能性がない方を選んだ人に不公平。」

「怪我した勇輝ゆうき武流たけるの分は、私達と皆で支え合えばいいじゃない。」

「支え合うなんて、これ以上無理なことが、分からない?

自分の足で立っているのがギリギリなのに、誰かを支える余力が残っている人なんていない。」

「私は大丈夫。私は支える。」

「私は大丈夫じゃない。かえでが動くと私も一緒に動くことになるんだから、一人で飛び出さないで。

どうして、急に物分かりが悪い人になったの!」

スケートボードを抱える少女の会話はどんどんヒートアップしていく。

「私は、物分かりの良い人になんてなりたくなかった!」

「だから、かえでは自分勝手にやるって?

私は絶対にかえでの自分勝手を阻止するから。」

「私は自分勝手じゃない。

この人達の話を聞いていた?

私達も助かるんだから、大丈夫だって。」

立ち止まった少女は、奈美と萃を見て、ねえ、と同意を求めてきた。

奈美と萃は、少女二人の様子を見守るに徹した。

少女二人には、互いに自分の思いを吐き出す必要がある。 

鬱屈した思いを抱えたままでは、全力で走り抜けない。

「まだ助かっていないのに、大丈夫なんていう言葉は、気休めにもならない!」

立ち止まった少女は、奈美と萃が同意してこなかったことに、ムッとしている。

明佳めいかは、人の言うことを否定するのが楽しいの?」

「嫌味のつもり?」

「いつもいい子ちゃんで、分かったフリして、他の誰かを見殺しにしていれば、自分だけが安全でいられる、と考えている明佳めいかのそういうところ。

透けて見えているから。」

かえで!」

「そんな風にずるいことばかり考えているから、誰も助けてくれなくなるの!」

「私をずるいと言うことで良い人ぶったかえでが、一人で、地獄に落ちれば世話ないけれど。」

「ほら、本音が出た。」

かえでに本音を隠す意味なんかある?」

「私相手だと、明佳めいかは、取り繕う必要がないと言いたいの?」

かえでが何かするときは、私を巻き込むんだから、いちいち取り繕っていられないの。

巻き込まれないようにしようとすると、私は、かえでを止めないわけにはいかないの。」

明佳めいかが勝手についてきているだけなのに?」

かえでが何かしたら、私にかえでちゃんがやらかしたから、と報告がくるの。

私がかえでを回収に行くまで。」

「来なければいいじゃない。」

かえでが、かえでママに、一人じゃ無理と言うから、かえでママが明佳めいかちゃんにお願いすると言い出したの。」

明佳めいかは、なんでうちのママの言いなりになっているの?」

「私は、かえでママの言いなりじゃない。

私はかえでママの娘じゃないから。」

「当たり前のことを。」

かえでは、助けてもらおうとしていることを帰ったらかえでママに話すよね?」

「話すよ。明佳めいかは、話さないの?」

「私は、これからの状況次第。

この機会しかないから、今言っておく。

かえでママの言う通りに生きたら、かえでは詰むよ?」
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