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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。
111.コトリバコという都市伝説を牡丹の庭中学校に持ち込んだのは?
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奈美は、セーラー服の少女の幽霊に問いかける。
「あのね。
コトリバコの都市伝説を現実にしようとした理由は?」
コトリバコは、都市伝説だ。
都市伝説は、どこか遠くの街で起きたことが、自分の近くでも起きるかもしれない、というゾクゾクをわくわくしながら楽しむもの。
都市伝説が、怪談よりも一捻りしてあるのは、整合性を重視しているからだと奈美は考えていた。
クネクネにしても、キサラギ駅にしても、不条理に見えて、原因と結果が示されているのは、そういうタイプの娯楽だから。
幽霊を知る奈美からすれば、コトリバコを製作する労力が実を結んだことが意外だった。
コトリバコの材料になった女子生徒は、娯楽の一つとして楽しむのではなく、現実にしようと考えて、実行に移し、成功した。
コトリバコが、作りたいからと作って、誰もが完成させられるものならば。
もはや、遠くにありて楽しむ都市伝説ではない。
都市伝説は、凶器を作りたいときに役に立つ資料の側面が出てくるのではないか。
奈美の中で、警鐘がなっている。
見逃してはいけない何かがある、と。
「牡丹の庭中学校には、幽霊がいてもおかしくない。
牡丹の庭中学校を恨まない人はいないから、怨念は溜まっている。
皆、そう思っていた。」
セーラー服の少女の幽霊は、思い出を語るような表情をした。
「私達は、百物語をするために怪談を集めた。
幽霊が牡丹の庭中学校を支配したら、人に支配された牡丹の庭中学校を変えてくれるんじゃないかと思ったから。」
「怨念だけ?
百物語をしようと思いついたのは、死者が霊となって校舎内を彷徨ったという目撃証言があるわけじゃなかった?」
萃は小首を傾げる。
「その頃は、まだ、牡丹の庭中学校内での死者が出ていなかったのかもしれない。」
確認しよう、と奈美は幽霊に尋ねた。
「あのね。
百物語をやりたいと考えていた頃より前に、牡丹の庭中学校の生徒は死んでいる?」
「いいえ。一人も死んでいない。」
「あのね。毎年のように女子生徒が亡くなるようになったのは、いったい、いつから?」
「私達の前は、まだ誰も亡くなっていなかった。」
「あのね。
牡丹の庭中学校の中では、誰も亡くなっていない。
牡丹の庭中学校の外では?」
「外の話は、詳しく知らないけれど。
卒業生が亡くなったという話なら、私は聞いていない。」
奈美と萃は考え込んだ。
あっ、コトリバコ、と奈美は閃きを口に出す。
「コトリバコがどうかした?」
奈美は、萃の疑問に答える。
「コトリバコの製作が始まってから、牡丹の庭中学校の女子生徒が亡くなるようになったんじゃない?」
「コトリバコの製作と実録スナッフムービーの製作は、同時だった?」
奈美は、セーラー服の少女の幽霊に百物語の話題の続きを促した。
「あのね、百物語は成功した?」
「いいえ。
百物語を学校行事にしなくても良かったのに。
放課後の数時間でも、自由な時間があれば、私達は良かった。
学校で百物語をする自由さえ、牡丹の庭中学校の生徒にはなかった。」
奈美と萃は、当時の生徒と牡丹の庭中学校の動きの理由が手に取るように分かった。
「牡丹の庭中学校は、百物語という集会を生徒に開かせないようにした。」
「百物語をしたいという生徒の内側にある思いを嗅ぎ取り、百物語を開かせなかった。」
奈美は、セーラー服の少女の幽霊に尋ねる。
「あのね。コトリバコの都市伝説を生徒に伝えたのは、誰?」
「事務員。」
「あのね。
コトリバコを教えたのは、牡丹の庭中学校の女子生徒の体を切り取る事務員?」
「その事務員よ。
コトリバコの逸話だけじゃなく、製作手順まで、とても詳しかった。」
「切り刻むのに物足りなくなってきた事務員が、生徒を誘導したんじゃない?」
萃の呟きに、奈美は黙って頷く。
「私達は、私達を踏みにじって嘲笑う大人をどうすることも出来なかった。
私達を助けられる人は、私達には現れなかった。
家族も近所の人も。
役所にかけあっても、無視された。
だから。
私達は、踏みにじられて苦しむ時間を長引かせない方法を編み出した。」
セーラー服の少女の幽霊の輪郭は、生前の姿をとる。
「コトリバコに呪い殺されれば、生きている限り続く苦しみを早く終わらせられる、と生徒を誘導し、体を切り取られることを女子生徒に受け入れさせた。
事務員による洗脳じゃない?」
萃は、奈美に囁く。
「女子生徒の体を切り取っていた事務員は、思考力と体力が落ちたところに、救いに見せかけた罠を仕掛けて、自ら選び取らせた。
牡丹の庭中学校以外に働く場所がないからと牡丹の庭中学校で働いていた事務員に、そんな知恵が回る?」
「あのね。
コトリバコの都市伝説を現実にしようとした理由は?」
コトリバコは、都市伝説だ。
都市伝説は、どこか遠くの街で起きたことが、自分の近くでも起きるかもしれない、というゾクゾクをわくわくしながら楽しむもの。
都市伝説が、怪談よりも一捻りしてあるのは、整合性を重視しているからだと奈美は考えていた。
クネクネにしても、キサラギ駅にしても、不条理に見えて、原因と結果が示されているのは、そういうタイプの娯楽だから。
幽霊を知る奈美からすれば、コトリバコを製作する労力が実を結んだことが意外だった。
コトリバコの材料になった女子生徒は、娯楽の一つとして楽しむのではなく、現実にしようと考えて、実行に移し、成功した。
コトリバコが、作りたいからと作って、誰もが完成させられるものならば。
もはや、遠くにありて楽しむ都市伝説ではない。
都市伝説は、凶器を作りたいときに役に立つ資料の側面が出てくるのではないか。
奈美の中で、警鐘がなっている。
見逃してはいけない何かがある、と。
「牡丹の庭中学校には、幽霊がいてもおかしくない。
牡丹の庭中学校を恨まない人はいないから、怨念は溜まっている。
皆、そう思っていた。」
セーラー服の少女の幽霊は、思い出を語るような表情をした。
「私達は、百物語をするために怪談を集めた。
幽霊が牡丹の庭中学校を支配したら、人に支配された牡丹の庭中学校を変えてくれるんじゃないかと思ったから。」
「怨念だけ?
百物語をしようと思いついたのは、死者が霊となって校舎内を彷徨ったという目撃証言があるわけじゃなかった?」
萃は小首を傾げる。
「その頃は、まだ、牡丹の庭中学校内での死者が出ていなかったのかもしれない。」
確認しよう、と奈美は幽霊に尋ねた。
「あのね。
百物語をやりたいと考えていた頃より前に、牡丹の庭中学校の生徒は死んでいる?」
「いいえ。一人も死んでいない。」
「あのね。毎年のように女子生徒が亡くなるようになったのは、いったい、いつから?」
「私達の前は、まだ誰も亡くなっていなかった。」
「あのね。
牡丹の庭中学校の中では、誰も亡くなっていない。
牡丹の庭中学校の外では?」
「外の話は、詳しく知らないけれど。
卒業生が亡くなったという話なら、私は聞いていない。」
奈美と萃は考え込んだ。
あっ、コトリバコ、と奈美は閃きを口に出す。
「コトリバコがどうかした?」
奈美は、萃の疑問に答える。
「コトリバコの製作が始まってから、牡丹の庭中学校の女子生徒が亡くなるようになったんじゃない?」
「コトリバコの製作と実録スナッフムービーの製作は、同時だった?」
奈美は、セーラー服の少女の幽霊に百物語の話題の続きを促した。
「あのね、百物語は成功した?」
「いいえ。
百物語を学校行事にしなくても良かったのに。
放課後の数時間でも、自由な時間があれば、私達は良かった。
学校で百物語をする自由さえ、牡丹の庭中学校の生徒にはなかった。」
奈美と萃は、当時の生徒と牡丹の庭中学校の動きの理由が手に取るように分かった。
「牡丹の庭中学校は、百物語という集会を生徒に開かせないようにした。」
「百物語をしたいという生徒の内側にある思いを嗅ぎ取り、百物語を開かせなかった。」
奈美は、セーラー服の少女の幽霊に尋ねる。
「あのね。コトリバコの都市伝説を生徒に伝えたのは、誰?」
「事務員。」
「あのね。
コトリバコを教えたのは、牡丹の庭中学校の女子生徒の体を切り取る事務員?」
「その事務員よ。
コトリバコの逸話だけじゃなく、製作手順まで、とても詳しかった。」
「切り刻むのに物足りなくなってきた事務員が、生徒を誘導したんじゃない?」
萃の呟きに、奈美は黙って頷く。
「私達は、私達を踏みにじって嘲笑う大人をどうすることも出来なかった。
私達を助けられる人は、私達には現れなかった。
家族も近所の人も。
役所にかけあっても、無視された。
だから。
私達は、踏みにじられて苦しむ時間を長引かせない方法を編み出した。」
セーラー服の少女の幽霊の輪郭は、生前の姿をとる。
「コトリバコに呪い殺されれば、生きている限り続く苦しみを早く終わらせられる、と生徒を誘導し、体を切り取られることを女子生徒に受け入れさせた。
事務員による洗脳じゃない?」
萃は、奈美に囁く。
「女子生徒の体を切り取っていた事務員は、思考力と体力が落ちたところに、救いに見せかけた罠を仕掛けて、自ら選び取らせた。
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