《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

第8章 29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、英雄公爵に溺愛されています。

233.『こちらには、大事なものが一つ、私のみ。元の世界には、大事なものがたくさん。どちらが、より大きな力で、ヒサツグを繋ぎとめる？』

クロードは、オレに若干、体重をかけた。

どうした？

甘えん坊モードか？

「そういうことだ、ヒサツグ。」
とクロード。

「へ？」
オレは、意味が分からなくて、クロードの顔を覗き込んだ。

「ヒサツグ、元の世界には、ヒサツグが大事にしてきたものがたくさんある。」
とクロード。

「おう、あるぞ。」
オレは、クロードが、オレの言いたいことを理解しているのが分かって嬉しかった。

良かった、クロードにちゃんと通じている。

オレは、安心していた。

クロードが、オレの言い分を理解したことで、オレが不意打ちをくらうことになるなんて、想像していなかった。

「一方、ヒサツグが、こちらで大事にしているのは、私のみ。」
と話すクロードの声はかたかった。

なんで？

クロードは、何が引っかかったんだ？

何もおかしな点はなかったよな？

オレは、クロードが続けるのを待った。

「ヒサツグの大事にしているものが、私しかないなら、私には勝ち目がない。」
とクロード。

「勝ち目？」
何の勝負？

「ヒサツグにとって、元の世界は、魅力的だ。ヒサツグを引き止めるものはたくさんある。
こちらには、私のみ。
ヒサツグが、私を諦めたら、ヒサツグは、もう、私の元に帰ってこない。」
とクロード。

「クロード。それは、ない。オレが、帰りたいのは、クロードと生きたいからだ。」

「ヒサツグが、私の元に帰る気持ちでいても、ヒサツグの大事にしているたくさんのものが、ヒサツグを引き止める。」
とクロード。

「それは、そういう可能性もあるだろうけれど。」

異世界で男と結婚した、などと聞いたら、正気を取り戻すように、こんこんと諭されたりするかもしれない。

「ヒサツグは、ヒサツグのたくさんの大事なものが、ヒサツグを引き止めたときに、その大事なものを振り切って、私の元に帰ることを選ぶか？」
とクロード。

オレは、目を見張った。

オレが、異世界人であることに不安を感じているように、クロードも、オレが異世界人であることを不安に感じている。

オレとクロードは、どうしてこんなに複雑な関係なんだ。

オレとクロードは、愛し合っているのに、愛だけじゃ、生きられない。

互いの愛が、愛に生きたいという願いが、相手を苦しめることになるのか？

オレは、やっと、クロードの思考に理解が追いついた。

「クロードは、オレが、日本に帰ったら、オレを日本に帰したら、もう、オレがこちらに、クロードの隣に戻ってこないと考えているんだな？」