《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか

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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。

674.オレ、秘書、ヤグルマさん、文官達、職人達のやり取りは、ケレメイン家内での中立派とシガラキノ王女殿下を大公妃に派への前フリでした。

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オレは、今日のオレの気づきを口に出すことはしない。

祝言に参加している全員が、胸の内に秘め続けたものは、秘めておく必要があったから秘められていた。

今日、秘めていた胸の内を覗かせるように零してくれたのは。

オレが、気づいたように、オレ以外に気づかせたい人が、同じ部屋の中、声の届く範囲で話を聞いていたから。

オレが、ケレメイン大公国の大公妃になって、ケレメイン公爵家から持ち越したり、増えたりした諸々の課題を解決する過程で、大公妃になったオレと仕事をするようになった人達。

中立派の家人だったり文官だったり、サーバル王国のシガラキノ王女殿下の輿入れに前向きに取り組んできた商人や職人や、農家の人。

クロードの伴侶をオレと定めた少数派だけで、ケレメイン大公国を回そうとすると、できないこともないかもしれない。

でも、一人一人の仕事量がいや増す。

親ヒサツグ派だけで仕事を回した場合。

一人あたりの仕事量よりも問題視することがあった。

仕事にあぶれたり、閑職に回されたりして、収入が途絶えたり、減収になる人が、ケレメイン大公家の家人の中から大量に出てしまう。

好景気の中だったら、人の入れ替えが進むだけかもしれないけれど。

魔王による消失から二年経ったくらいで、経済は復興していない。

魔王による消失だけでなく、マウンテン王国から独立したことによって、ケレメイン公爵時代より節約できる、ということにはならない。

クビにしたら、再就職先が見つからない人も多数。

大公の伴侶に、一介の国民が不満をあらわにして、別の伴侶を用意する準備に加担するなんて、階級社会でよくできたなー、とは常々思っていた。

別の伴侶をすえることに失敗した後に、失敗した側に加担したんだから、罰を与えられて殺されるか、財産没収されるかもしれない、という覚悟がないとできないよな。

信じがたいことに。

サーバル王国のシガラキノ王女殿下を伴侶にと推していた商人や職人は、自分達は間違っていなかった、敗れた側にかたんしたけれど、自分達が罰を受けることはない、と考えていた。

自分達が悪かったとは露ほども考えない人達に、経済的な締め付けや罰を与えて、ケレメイン大公クロードと大公妃であるオレにどれだけの益があるか、と考えて試算してみたら。

悔しいことに、マイナスになることばかりだった。

オレに反発する勢力をケレメイン大公国内に多数抱えることになるからだ。

だから、オレとクロードは、罰を与えて苦しめるよりも、取り込んで手足のように使うようにした。

反発から始まったものの、利益を出して、自身や周りの生活が上向けば、オレに対する反発は弱まってくる。

大公妃であるオレを排除しようとした臣下に協力したことで、罰を与えようとした場合に。

オレが大公妃でいることは、仕事上の利益に繋がることを実感させた上で。

オレを大公妃から退けようとしたことが悪手だった、まずいことをした、と当人に自覚させる効果を狙ってもいる。

ヤグルマさんも、秘書も、文官達も職人達も。

オレを大公妃から引きずり下ろそうとした動きが、ケレメイン家の内部にもケレメイン大公国の国民にもあったことをよく思っていない。

侵略の危機だったから、仕事が大変になったことは勿論のこと。

文官達は、大義名分に酔いたいだけの売国奴め、大切なお方を傷つけて、うまい汁を吸うだけでは生きていけないのだと思い知るまでは、長生きしろと息巻いていた。

職人達は、親身になって助けてくれたのはどなたかを知っているから、不義理なことはいたしません、とオレの力になる約束をくれた。

秘書は、連日のハードワークにも負けずにオレについてきてくれた。

ヤグルマさんは、マウンテン王国にいながら、静かに手を回してくれていた。

オレには、誠実で力強い味方がいる。

今から、オレは、サーバル王国のシガラキノ王女殿下を大公妃にしようとした勢力ではない中立派にも、中立派でいたことを反省させる。

『ケレメイン家に仕えながら、中立派という存在を、声高に名乗って自分達だけで保身を図るとは、ケレメイン家の家人の風上にも置けません、ヒサツグ様がクロード様の伴侶になってくださったありがたみを骨の髄まで分からせます。』
と秘書達は、ずっと機会をうかがっていた。

分からせないとダメなんだと、オレはしみじみ思うようになっていた。

クロードの伴侶がオレだと不安だ、という人達は、オレがいつまでも日本に帰りたがっていた、という事実を蒸し返してくる。

『クロード様のために命をかけて尽くす気がない、しかも、クロード様と同じ男など、クロード様の伴侶には相応しくない、と当時は思わずにはいられませんでした。

ヒサツグ様は、故郷にお帰りになられるご予定だったではありませんか。

いくらも経たないうちに心変わりされるなんて、信じられません。』

ヒサツグ派以外は、自分達が不利になると、ケレメイン公爵領に尽くしてくれたシガラキノ王女殿下をクロード様の伴侶にと思うことに咎はないのだ、臣下を不安にさせるような大公妃の言うことだから、と主張して、問題点のすり替えを試みる。

オレが日本へ帰るつもりでいたことをケレメイン公爵領で知らない家人はいないんだと思う。

オレの秘書が眉をひそめている理由は、中立派のいけしゃあしゃあさだ。

『いつかいなくなる心づもりでいらっしゃったなら、クロード様の伴侶には相応しくないと下々が不安を覚えるのは止むを得ません。』

『下々に不安を覚えさせる言動をなかなか改められなかったヒサツグ様こそ、反省されてしかるべきでしょう。』

『我々は、大々的に反対こそいたしませんでしたが、ヒサツグ様を無条件でお仕えする主人とするこてには、危うさを覚えたものです。』
そんな風に中立派はしたり顔で言ってくる。

生きて日本に帰りたい、というオレの強い思いは、クロードに会う前も結婚してからも一貫して、オレの原動力になっていた。

日本に帰りたいと思うオレの思いの強さが、オレ自身を強くした。

日本に帰りたいという思いが、オレのど真ん中を貫いていたからこそ。

オレは、ブレなかった。

迷わなかった。

何が何でも、五体満足で日本に帰るという強い思いが胸の内にあったから、オレはクロードの横に立っていられるだけの強さを持ち得た。

日本へ帰りたかったオレは、どんなときも、用心深さを忘れなかった。

日本に帰るまでは、油断しないと決めていた。

オレを受け入れようとした人もいたけれど、その人数以上にオレを排除したがる人がいた。

オレの用心深さは、オレを助けてきた。

だから、オレは。

クロードと一生ともに、女神様の世界で生きて死ぬと決めてからも。

日本へ帰りたいと願ってやまなかったころのオレを否定しない。

日本へ帰りたがったオレの言動を誰かに謝罪したりしない。

そのオレ自身の気持ちの変化は、オレが女神様の世界でクロードと生きていくと決意を固めるまでの時間は、オレが女神様の世界で生きたいと自然に思えるようになるまでに必要な時間だった。

クロードの伴侶になってからも日本へ帰りたいと願い続けたことは、今のオレの弱みとして足を引っ張られる原因になっているけれど。

弱みになったことも含めて、オレの生き様だと思う。

日本へ帰りたいと願っていた当時のオレは。

いつでも日本に帰ることができる状態でいようとしていた。

帰りたいときに傷つけられて帰れないという状態にならないために。

明らかな悪意には、怯まずに立ち向かうことを徹底した。

向けられる敵意の原因を探り、オレが原因かどうかを見極め、その敵意はオレに向けるべきものかを、敵意を向けてくる相手に事実を突きつけ、再考を促してきた。

そうやって、傷を負わないようにハリネズミのようにハリだらけになって警戒していたオレだけど。

クロードにだけは、きつい態度をとれなかったなー。

クロードの説明のなさに腹を立てたりしても。

クロードのことは、嫌いにならなかった。

なんで、オレに説明しないのかと腹を立てたりして。

クロードのことは気になっていた。

多分。

出会ったときから。

オレは、クロードから目が離せなかったんだな。

オレは、クロードのことを最初から。

気になっていたんだ。

振り返ると、オレがクロードを好きになるのは、時間の問題だったんだなー。

オレ、クロードに捕まって気球に乗せられて、連れてこられて良かったんだな、としみじみ思う。

クロードがオレを連れて行った先が、ケレメイン公爵家の王都邸じゃなかったら?

オレは、ヤグルマさんに最初に目をかけてもらえなかった。

オレは、クロードがオレをヤグルマさんに引き合わせたことに、万歳だぞ?

「さあ、顔を上げて、飲んで食べろ。

酒は濃くはないが、飲むのと食べるのをバランスよくいけ。」

オレは、文官達と職人達に顔をあげさせて、食事を促す。

文官達と職人達が、食事を取りに行っている間に。

オレは、ヤグルマさんと秘書3人をつれて、ケレメイン大公妃になってからのオレとやり取りを始めた人達の元へ向かった。

オレがケレメイン大公妃になってからオレとやり取りを始めた人達は。

先ほどまでのオレと文官と職人のやり取りを最初から最後まで見ていた。

オレとヤグルマさんと秘書と文官と職人の会話も聞こえていたよな?

互いに固くならずに、気心の知れた話し合いといくのはどうかな?

祝言の部屋の話し声に耳を澄ましている人達も、さぞや楽しみにしているだろうからな。
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