蒼氓の月・タイガとラストドラゴン/(絶滅の危機にあるドラゴンを救えるのか。王位をめぐる陰謀と後宮の思惑。タイガとリリスの恋の行方は)

むとう けい(武藤 径)

文字の大きさ
22 / 44
リオン城

貴族たちの思惑

しおりを挟む
 
 一夜明けたカナトス渓谷におだやかな日差しが降り注いでいた。サー・ブルーはリオン城の大理石を敷き詰めた回廊を通り、議事堂に向かっていた。二本のサーベル差し、青に銀糸を使ったナイトの正装を纏った騎士は、重い装備をもろともせず歩く。すれ違う役人らが敬意を表し一礼した。サー・ブルーは議事堂の大扉を通り過ぎ、横手にある教皇の執務室の戸を叩いた。
「失礼します。外遊の報告にあがりました」
「サー・ブルー殿、長旅ご苦労だった」
 貴族院の議長であるオルレアン大公が立ち上がるとサー・ブルーは胸に腕をあてて一礼する。大公と一緒に座していたのは、カナトスの泉信仰の最高顧問である枢機卿だった。
「皇子の護衛ご苦労であった」年老いた枢機卿はゆっくりとした口調で言った。
「して、長旅の間の、皇子のご様子はいかがであった?」オルレアン大公は話を進めた。
「タイガ様バルトニアの軍港にいたく感動されておいででした。ただ、通り過ぎたどの国も貧富の差は甚だしいと感じたご様子でござました」
 サー・ブルーは王の密命であるマリーのことは一言も触れずに外遊の報告をする。それから、風車小屋での出来事を避けながら刺客の話に触れた。
「ニセ皇子に、黒装束の仮面の集団だと?  タイガ様に大事はなかったのか?」
「はい。タイガ様の剣術は、それは見事なもので、勇ましく戦っておられました」
 オルレアン公は渋い顔をした。
「これは由々しき事態。王様のご病気に紛れてタイガ皇子のお命を狙ったのだ」枢機卿は白銀の髭をなでながら重々しく口を開いた。
 平時ならサー・ブルーはタイガ皇子と共に王様に目通りし、皇子の護衛の任を解かれて、元いた騎士団に戻るのが慣例であった。サー・ブルーは皇太子よりも先に、貴族院の長と枢機卿に呼び出された形となった。というのも、オルレアン大公の一族は貴重な赤硝子工房を所有し、諸外国に硝子製品を売ることで財をなした、別名赤の貴族と呼ばれる家柄だった。王妃の実家であるユリウス公爵家もまた学者らで組織される元老院と手を結んでいる。二つの名家は勢力を二分していた。中立の立場をとる騎士団と手を結びたい意図も見え隠れする。王の不在で勢力争いが表面化したと思われた。
「オルレアン、この度の一件でタイガ様の足固めのためにも、ご結婚を速めていただいたほうがよいと思うが、そなたに娘がいないのが実に残念である」
 サー・ブルーは沈黙するオルレアン大公から表情を読み取ることができなかった。 

 議事堂を退出するとサー・ブルーは城の中庭にある騎士団の宿舎に立ち寄るため向かった。
 東塔から王妃クレアが侍女たちを従えて南塔からやってきた。この先にある王様の寝所に向かおうとしている模様だった。サー・ブルーは立ち止まり頭を下げる。王妃はしずしずと通り過ぎるも、サー・ブルーと見て判ると、歩みを止めた。
「そなたは、タイガの外遊の護衛を務めた者ではないか?」
 サー・ブルーは名を名乗ると、外遊から戻った旨を報告した。
「お役目ご苦労であったな。今後は本来の任に戻られ、王様に誠心誠意お仕えなさるがよい」
 いくら王妃がそう言っても、これは正式の命令ではなかった。そのことを問いただしても仕方がないため、サー・ブルーは無言で頭を下げた。この時サー・ブルーは侍女たちの後ろで控える不審な黒装束の女に目を留めた。女はベールで顔を隠していた。サー・ブルーの視線を気にした侍女の一人が咳払いをした。女人をじろじろ見るのは騎士にあるまじき行いだからだ。
「失礼いたしました。ですが、見知らぬ者を王様の寝所に通すのはいかがなものかと存じますが」
 サー・ブルーは騎士団に所属するナイトの立場から言った。
「心配するでない。この娘は王様の回復のために闇祓いを行う者。素性は調べた上で連れてきた」
 王妃一行は歩き出す。黒装束の女とすれ違うときに微かに薬草の香りが漂った。サー・ブルーは匂いに覚えがあると眉をひそめた。レース越しでは容姿にはっきりしないが、女を知っているような気がした。


「おお戻ってきたな」
 宿舎に戻ったサー・ブルーは“王の騎士団”の団長、師匠である叔父と仲間から手荒い歓迎を受けた。その後は刺客の件で話は持ち切りになった。
「団長、お願いの儀があります。タイガ様の護衛を引き続きできるよう、皇太子様に話をつけていただけませんでしょうか?」サー・ブルーは切なる願いを告げた。
 







 
 










 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...