40 / 44
赤硝子の城
目覚めの朝(1)
しおりを挟む床の相手がすり替わっていたことに大公は絶句した。
「どこの馬の骨だ!」
夫人はさめざめと泣きながら「皇子の護衛官だというではありませんか」
「サー・ブルーか?」
「いいえ、歳は皇子とよりも若い男でございます。でも、あなた。それは美しい青年で、クローディアはとても幸せそうなんですの」
「幸せそうだと? 皇子はどこにおられるのだ」苦虫を嚙み潰したように言いう。
「リオン城に帰られたとのことです」
「コンラッドにしてやられたか‥‥‥」
怒りが収まらない大公は若い二人のいる閨を訪れた。
着替えを済ませたエリックとクローディアが大公を跪いて出迎えた。
「大公殿下、リオン騎士団所属、故カーンズ伯爵の五男、エリック・カーンズと申します。クローディア様とこのようなことになり、私はいかなる処分も甘んじて受ける覚悟でございます。ですが、これだけは申し上げたい。私はクローディアを愛しています」
「いいえ、大公様、悪いのは私でございます。皇子様ではないと知りながら、エリック様を受け入れました。ですが、ここへ参る前から私は彼を愛しておりました。養女になるに当り、一度は諦めた恋でしたが、これはカナトス神のお導きによるものと確信いたしました」
よりによってカーンズ家の男だった。オルレアン家とカーンズ家は数世代前から私有地を巡って争うほど仲が悪かったからだ。コンラッドは全てを知りながら、夫となる人物をすり替えたのだった。
「これではそなたを養女に迎えた意味がないではないか!夫人、なぜもっと慎重に、確かめなかったのだ」
「申し訳ございません。ですが、まさか、入れ替わるなど思いもよりませんでした……」
大公夫人はふらふらと倒れそうになるのを使用人たちが慌てて支えた。
「詰めが甘い!」
怒り心頭の大公は声を荒らげる。そこにテレサが現れた。
「母上!」
「何も話さずともよい。今朝方、話をしました。皇子は毒見の女官を処分するそうです」
テレサの処分の言葉に、大公は唸り、眠り薬を持たせた夫人が青ざめた。
「心配には及ぶません。処分は女官だけにとどめ、我々は不問にするとも。条件は、カーンズを養子に迎えること。そして、長年の家同士の争いを和解するようにと仰せでした。タイガ様は、二人の婚約を皇太子に報告するそうです」
テレサは面白くなさそうにする息子を諭すように話を続けた。
「聞けば、この若者は城に上がったばかりだが、騎士団も認めるほど優秀だというではないか。それにカーンズ家と手を結べばユリウスに十分対抗できます。これに、もっと早く気づくべきだったのです」
「なるほど……、タイガ様は、我々が思っていた以上に思慮深く、欲をお隠しになるのがうまいとみえる。相手が一枚上手だったというわけか」
涙を流すクローディアをエリックは抱きしめた。
「二人ともそこで抱き合っていないで、お立ちなさい。ーー元をただせば私が悪いのです。あのクロノムとやらにすっかり焚きつけられました」
「母上、私も、どうもあの者はどうも胡散臭いと思っておりました」オルレアン大公は傍に仕える従者に銀狐に罰を与え追放するよう申し伝えた。
テレサはエリックの手を取った。
「カーンズ殿、オルレアン城によくいらしてくださった。これより両家の雪解けの朝食といたしましょう」
右にクローディア、左にエリックをエスコートさせると、二人を従えて食事の間へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる