永久不変の剣を手に、人々の命の守護者となる

なで鯨

文字の大きさ
31 / 66
第一章 白銀成長編

第三十一話 私兵長との戦いへ

しおりを挟む
 ヒイラギの抜剣と同時に、スクイフは暴れて自身を捕まえている私兵たちに一瞬の隙を作った。
 ヒイラギは回転して飛び掛かってきていた私兵をまとめて弾き飛ばすと、スクイフの両腕を拘束している私兵の1人へとぶつけた。

「本当に! 痛かったわよ!」

 片腕が解放されたスクイフは、舞うようにしてもう片腕を掴んでいる私兵を投げ飛ばした。
 そして腰からやや短めの2本の剣を抜くと、私兵たちをものすごい速さの斬撃でまとめて傷だらけにした。

 あっという間に形勢逆転されたダリーは、怒りに顔を歪め、笛を取り出して強く吹いた。
 吹かれた後にヒイラギはそれを手から弾き落とすと、睨め付けてくるダリーに切っ先を向けた。
 
「お前! 依頼主に刃を向けて! 傭兵としてこれからやっていけると思うなよ!」

 ヒイラギに唾を飛ばし叫ぶ。
 苦し紛れのように聞こえるが、傭兵の禁止事項の1つに、依頼主に危害を加えてはいけないという項目が確かにあった。
 ダリーは今までもそれらを利用して傭兵たちを手なずけていた。

「僕にとって傭兵は、あくまでより多くの命を守るための手段にすぎません。
 あなたを捕らえることでそれが叶うなら、僕1人の立場なんかどうだっていいんです」

 白銀色の刃はぶれることなく、真っすぐにダリーに向けられている。
 自分の立場などどうでもよいというヒイラギの考えがダリーによく伝わった。
 今まで相手にしてきた傭兵とは根本的に何かが違うことに気付いて、ダリーの全身から血の気が引いていった。

「な、なんだお前は!!
 くそっ!! ガルナク!! こいつらを殺せ!!!」

 半狂乱になって騒ぐと、ヒイラギの背後から私兵長ガルナクがやってきた。
 背中に背負った大剣を引き抜くと、両手に持って構えた。
 
 ヒイラギはダリーに突きつけていた剣を引いて振り返る。
 
 そうして向き合ったガルナクとヒイラギの隣を走り去り、笛に呼ばれた賊たちが野営中の傭兵たちに襲い掛かった。

「スクイフさん! ここは僕が! あなたはあちらをお願いします!」
「まだ助けてもらったお礼言えてないから、死ぬんじゃないわよ!」

 了承を伝える代わりに、激励のような言葉を残してあっという間に向かっていった。
 ガルナクはその様子をニタニタ笑ったまま見ていた。
 
「ガルナクッ! こいつを殺したら報酬を今までの倍、いや3倍にしてやろう!!」

 完全に腰が抜けてしまったダリーはわめいた。

「そういうことらしい。金のために死んでくれよなあ!!!」

 ガルナクはそう吠えると、身の丈ほどもある大きな剣を容易く振り回す。
 それをヒイラギが剣で受けるたびに、火花が散って辺りを一瞬照らし出した。
 ヒイラギは重たい斬撃をこともなげに受け続けると、剣を大きく振り、ガルナクから距離を取った。

「噂ほどじゃねえなあ”白銀の守護者”とやらも。
 俺の攻撃を受け続けるだけじゃねえか!」

 無造作に2歩前に詰めると、ヒイラギの頭上から大剣を振り下ろす。
 大剣へ勢いが乗った瞬間に、ヒイラギは左半身を引いて大剣の側面にまわると、そこに向けて剣を振りきった。
 金属がぶつかる大きな音とさっきよりも大きく散った火花。
 大剣は元の軌道を大きくそれて地面へと突き刺さる。
 それを持っていたガルナクは体がひねられて前につんのめった。
 
「何だっ!?」

 筋骨隆々な肉体を無様にさらしながら倒れる。
 そこにすかさずヒイラギの斬撃が放たれ、ガルナクの両手は動かなくなった。

「うおおおおおおおおお!!! がああああああああ!!」

 今度は激痛に吠えるガルナク。
 
 ヒイラギは背を向けると、しりもちをついているダリーに向き直った。

「待て待て待て!! お前が何を吹き込まれたか知らないが、俺は何もやってないぞ!!」

 取りつくろっていた富豪の面が完全にはがれ、一人称も変わっていた。

「むしろ! 若手の傭兵たちの身の丈に合わないくらいの大金を出して、支援してやってんだぞ!!」

 そのダリーの目線は目の前にいるヒイラギではなく、ふらふらと立ち上がったガルナクに向けられていた。
 ガルナクの気配にヒイラギが気づかないよう、ダリーはさらに騒ぎ立てた。

「そんな善良な人間を守護者と名乗るお前は痛めつけるってのか!!?
 そんなのは到底とうてい守護者とは呼べんなあ!
 しかも! 前にも賊たちの手足を使いものにならなくしたじゃないか!
 生き地獄を与えるだけの鬼がよ!!!」

 白銀の剣を握る手にぐっと力がこもる。
 まだ腰が抜けているダリーを睨め付けると、右腕を大きく振り上げた。

「今だ蹴り殺せガルナクウウウウウウウウ!!!!!」

 ヒイラギの背後では、両手をだらんと下げているガルナクが、足を中段にあげていた。
 それに気づいていたヒイラギは振り返って、振り上げた剣をガルナクの軸足へと下ろした。
 血がほとばしると、立っていられなくなったガルナクは再び大地へと沈んだ。

 蹴られてゴミのように跳ねるヒイラギの姿を想像していたダリーは、そうならなかった現実を受け止めきれずに呆然としていた。

「守護者として僕は命を守ります。どんな形になろうと命は取らないと決めたのです。
 ただ……。あなたの言葉に怒りを覚えてしまうということは、心のどこかでは覚悟を決め切れていないのかもしれませんね」
 
 口をパクパクさせているダリーに自身の未熟さを吐露とろすると、混戦になっているであろう野営地へと走っていった。

 
 
「ヒイラギ、無事でよかったよ。これでようやくお礼が言えるわ。あのときはありがとう。助かったわ」

 賊たちを全員で協力して無力化、拘束をして落ち着いたころ。
 スクイフは夜空を眺めていたヒイラギに近づいてお礼を言った。

「どういたしまして。正直なところ、捕まっているのを見たときにはかなり焦りましたけどね」
「本当に悪かったわ。でも、言葉もなしに私を信じてくれて嬉しかった」

 手で首をなでながら言った。
 ヒイラギはふふっと笑って、少し大げさに仕切る。

「皆さんに状況は分かってもらえましたし、結果的にはうまくまとまったので、よしってことにしましょうか」
「終わりよければ全てよしね! 前向きにいかないとしょうがないわよね!」

 少しらしくなかった彼女に元のハキハキとした調子が戻った。

 
 
「許さん……許さんぞ……白銀のガキが……」

 野営のすみで賊たちやガルナクと一緒に縛られているダリーは、ぶつぶつと恨み言をつぶやいていた。

「今すぐ殺してやるからな……今すぐ……」

 それを見張っている傭兵は彼の言葉を聞き飽きていた。
 
「お前さあ、いい加減黙れないわけ……」

 傭兵の首に黒い矢が突き刺さった。
 音もなくその場に崩れ落ちる。

「よくやったぞ……! さあ、縄を解け! 報酬は望むがままに与えてやろう……!」

 真っ黒い姿のその人物は、短剣を抜いてダリーの縄を切った。
 そしてそのまま闇へと消えていく。

「見ておれよ白銀……!!」

 自身の肉の下から何かを取り出して――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...