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第二章
第四十五話 巨大サソリの関節へ
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木々をなぎ倒す轟音の先へ意識を集中させるヒイラギ。
地面に何かを突き刺す音。それが繰り返され、近づいてきていた。
パンッ! と3度目の爆発が空中で起きた。
その直後に、森の中から人影が飛び出してきた。
「あ! ヒイラギじゃない! あんたも来たのね!」
「……! スクイフさん!」
以前共闘した”瞬きの舞姫”、スクイフとの再会に、ヒイラギは一瞬嬉しそうにするが、続いて森から飛び出してきた巨大な姿に表情をこわばらせた。
巨大サソリ、”タイター”。
村に残っていた跡やラージンの話を聞いて想像はしていたが、実際に目視するとあまりの巨大さに恐怖を抱かずにはいられなかった。
漆黒の鎧のような外殻に、生物を一瞬で挟みつぶせそうなハサミ。
その巨体を支える8本の支柱のような足。
突き殺すことだけを突き詰めた形状の針が付いた長い長い尾。
まだ距離があるにもかかわらず、間近にいるかのような錯覚を起こす巨大さに、ヒイラギは無意識に一歩退いた。
そんなヒイラギの横を、スクイフが通り過ぎる。
その一瞬のすれ違いざまに、ヒイラギの肩に手を置いて諭すようにささやいた。
「ちゃんと周りを見なさいよ」
その言葉を追ってヒイラギが振り返ると、今度は乱雑に背中を叩かれた。
「さあ! さあ! やらいでか! 巨大サソリと力比べよ!」
「ただ巨大なだけの害獣だからな。ビビる必要もない」
大剣を構えてヒイラギの前に陣取るドームとデッパフ。
「俺たちでやるぞ。ヒイラギ」
ジョンはヒイラギの横に立って、サソリを見据えたままそう言った。
そして、大盾を手持ちの斧で打ち付け、響く音へ集中するために目を閉じた。
ひとつ息を吐いた後にゆっくりと目を開けて、ヒイラギの前に移動、ドームとデッパフの横にどっしり構えた。
「皆さん……!」
頼もしい背中と温かい言葉を脳裏に刻み、ヒイラギは一歩前に出る。
穢れのない白銀の剣を抜き放ち、いつもの体勢に整えた。
そこまでの様子を後ろから見ていたラージンが、再び開戦の咆哮をあげた。
「討伐を開始する!」
巨大サソリ”タイター”は、その速度をまったく落とすことなく、ジョンたちが待ち構えている正面へと突っ込んできた。
その凶悪な前ハサミが、ジョンの大盾とドーム、デッパフの大剣と衝突した。
3人は吹き飛ばされはしなかったが、地面をえぐりながらどんどん後退していく。
ヒイラギは一度その直線上から逃れ、”タイター”の側面に回り込んだ。
「ぐっ……! っはあ!!」
一層気合いを入れた掛け声とともに、ドームがより重心を低くした。
デッパフも全体重をかけて勢いを殺しにかかる。
ジョンは角度をつけて盾で受けることで、勢いを逃がそうとしていた。
「まずは……! 俺らがこいつの動きを止めないと……! 何も、始まらねえ……!!」
3人の全力によって、地面をえぐる速度が徐々にではあるが落ちてきた。
それが気に食わなかったのか、”タイター”は前ハサミを払いのけた。
まるで、人が羽虫を手ではらうかのような軽い動作だった。
「うおおおお!!」
体を宙に舞わせた3人だったが、着地を完璧にこなすと、結果的に動きを止めた”タイター”を見上げた。
「さあさ! 足止めと言わずに、そのハサミを叩き壊してやろうか!」
「またラージンに怒られても知らないんだからな。だが、そのつもりでいくぞ」
ドームとデッパフは防御体勢を解き、攻撃体勢へと移行した。
「それくらいしないと、足止めにならんだろうな」
ジョンは手斧の状態を確認すると、構えを取って”タイター”をにらみつけた。
”タイター”の猛烈な前進が止まったことを確認して、ヒイラギはタイターの足元へと駆け出した。
(あの外殻と外殻の間。関節の部分を狙う……!)
最初に狙いを定めたのは、足の1本の関節だった。
再び動き出さないようにというヒイラギの考えだった。
足にたどりついたヒイラギは、表面にある凹凸を利用して軽快に”タイター”の足を登っていく。
そして難なく目標の関節に到着すると、全体重を乗せて白銀の剣を突き立てた。
「……っ!」
全身が震えるほど力を入れるが、剣の先端すら入っていかない。
いったん構え直し、今度は上段から渾身の力で振り下ろすが、甲高い音を立てて弾かれてしまった。
「くそっ! 僕がこの剣を突き刺さないと、何も始まらないのに!」
やけくそ気味に何度も何度も振り下ろし、突き刺そうとするが、どれもあっけなく失敗に終わった。
「はぁ、はぁ……」
無駄に上がってしまった息を整えようと息を吸ったとき、ヒイラギの耳が鋭く風を切る音を捉えた。
反射的に音がした方向へと剣を構えると、次の瞬間にはその剣に鋭利な針がぶつかっていた。
それが”タイター”の尾だと気づいた時には、地面へと叩き落されていた。
「がっ……」
背中を強打したヒイラギだったが、歯を食いしばって素早く立ち上がった。
どうにか構えたときにはもう、次の尾の攻撃が眼前に迫っていた。
それを受け止めるまでの一瞬。その一瞬でヒイラギは勢いを受け流す姿勢に変え、その針先を地面へと突き刺した。
突き刺さった隙に、太い木の幹ほどある尾に向けて、白銀の剣を振った。
「ここもこんなに硬いのか……!」
的確に関節へ直撃させたものの、やはり傷ひとつ付けることができなかった。
「どこだったら刺さるんだ!」
怒りに任せてもう一振りしたが、ただただカキンと弾き返されるだけだった。
――ドン!!!!
額の汗をぬぐったとき、大きな爆発音が”タイター”の正面付近で聞こえた。
土埃が晴れると、そこには倒れているジョンたちの姿があった。
ヒイラギは考えるより先に体がそこへと向かっていた。
地面に何かを突き刺す音。それが繰り返され、近づいてきていた。
パンッ! と3度目の爆発が空中で起きた。
その直後に、森の中から人影が飛び出してきた。
「あ! ヒイラギじゃない! あんたも来たのね!」
「……! スクイフさん!」
以前共闘した”瞬きの舞姫”、スクイフとの再会に、ヒイラギは一瞬嬉しそうにするが、続いて森から飛び出してきた巨大な姿に表情をこわばらせた。
巨大サソリ、”タイター”。
村に残っていた跡やラージンの話を聞いて想像はしていたが、実際に目視するとあまりの巨大さに恐怖を抱かずにはいられなかった。
漆黒の鎧のような外殻に、生物を一瞬で挟みつぶせそうなハサミ。
その巨体を支える8本の支柱のような足。
突き殺すことだけを突き詰めた形状の針が付いた長い長い尾。
まだ距離があるにもかかわらず、間近にいるかのような錯覚を起こす巨大さに、ヒイラギは無意識に一歩退いた。
そんなヒイラギの横を、スクイフが通り過ぎる。
その一瞬のすれ違いざまに、ヒイラギの肩に手を置いて諭すようにささやいた。
「ちゃんと周りを見なさいよ」
その言葉を追ってヒイラギが振り返ると、今度は乱雑に背中を叩かれた。
「さあ! さあ! やらいでか! 巨大サソリと力比べよ!」
「ただ巨大なだけの害獣だからな。ビビる必要もない」
大剣を構えてヒイラギの前に陣取るドームとデッパフ。
「俺たちでやるぞ。ヒイラギ」
ジョンはヒイラギの横に立って、サソリを見据えたままそう言った。
そして、大盾を手持ちの斧で打ち付け、響く音へ集中するために目を閉じた。
ひとつ息を吐いた後にゆっくりと目を開けて、ヒイラギの前に移動、ドームとデッパフの横にどっしり構えた。
「皆さん……!」
頼もしい背中と温かい言葉を脳裏に刻み、ヒイラギは一歩前に出る。
穢れのない白銀の剣を抜き放ち、いつもの体勢に整えた。
そこまでの様子を後ろから見ていたラージンが、再び開戦の咆哮をあげた。
「討伐を開始する!」
巨大サソリ”タイター”は、その速度をまったく落とすことなく、ジョンたちが待ち構えている正面へと突っ込んできた。
その凶悪な前ハサミが、ジョンの大盾とドーム、デッパフの大剣と衝突した。
3人は吹き飛ばされはしなかったが、地面をえぐりながらどんどん後退していく。
ヒイラギは一度その直線上から逃れ、”タイター”の側面に回り込んだ。
「ぐっ……! っはあ!!」
一層気合いを入れた掛け声とともに、ドームがより重心を低くした。
デッパフも全体重をかけて勢いを殺しにかかる。
ジョンは角度をつけて盾で受けることで、勢いを逃がそうとしていた。
「まずは……! 俺らがこいつの動きを止めないと……! 何も、始まらねえ……!!」
3人の全力によって、地面をえぐる速度が徐々にではあるが落ちてきた。
それが気に食わなかったのか、”タイター”は前ハサミを払いのけた。
まるで、人が羽虫を手ではらうかのような軽い動作だった。
「うおおおお!!」
体を宙に舞わせた3人だったが、着地を完璧にこなすと、結果的に動きを止めた”タイター”を見上げた。
「さあさ! 足止めと言わずに、そのハサミを叩き壊してやろうか!」
「またラージンに怒られても知らないんだからな。だが、そのつもりでいくぞ」
ドームとデッパフは防御体勢を解き、攻撃体勢へと移行した。
「それくらいしないと、足止めにならんだろうな」
ジョンは手斧の状態を確認すると、構えを取って”タイター”をにらみつけた。
”タイター”の猛烈な前進が止まったことを確認して、ヒイラギはタイターの足元へと駆け出した。
(あの外殻と外殻の間。関節の部分を狙う……!)
最初に狙いを定めたのは、足の1本の関節だった。
再び動き出さないようにというヒイラギの考えだった。
足にたどりついたヒイラギは、表面にある凹凸を利用して軽快に”タイター”の足を登っていく。
そして難なく目標の関節に到着すると、全体重を乗せて白銀の剣を突き立てた。
「……っ!」
全身が震えるほど力を入れるが、剣の先端すら入っていかない。
いったん構え直し、今度は上段から渾身の力で振り下ろすが、甲高い音を立てて弾かれてしまった。
「くそっ! 僕がこの剣を突き刺さないと、何も始まらないのに!」
やけくそ気味に何度も何度も振り下ろし、突き刺そうとするが、どれもあっけなく失敗に終わった。
「はぁ、はぁ……」
無駄に上がってしまった息を整えようと息を吸ったとき、ヒイラギの耳が鋭く風を切る音を捉えた。
反射的に音がした方向へと剣を構えると、次の瞬間にはその剣に鋭利な針がぶつかっていた。
それが”タイター”の尾だと気づいた時には、地面へと叩き落されていた。
「がっ……」
背中を強打したヒイラギだったが、歯を食いしばって素早く立ち上がった。
どうにか構えたときにはもう、次の尾の攻撃が眼前に迫っていた。
それを受け止めるまでの一瞬。その一瞬でヒイラギは勢いを受け流す姿勢に変え、その針先を地面へと突き刺した。
突き刺さった隙に、太い木の幹ほどある尾に向けて、白銀の剣を振った。
「ここもこんなに硬いのか……!」
的確に関節へ直撃させたものの、やはり傷ひとつ付けることができなかった。
「どこだったら刺さるんだ!」
怒りに任せてもう一振りしたが、ただただカキンと弾き返されるだけだった。
――ドン!!!!
額の汗をぬぐったとき、大きな爆発音が”タイター”の正面付近で聞こえた。
土埃が晴れると、そこには倒れているジョンたちの姿があった。
ヒイラギは考えるより先に体がそこへと向かっていた。
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