永久不変の剣を手に、人々の命の守護者となる

なで鯨

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第二章

第五十六話 宣戦布告へ

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 ドドドドドドドドドド!
 深夜の街に、豪快な足音が響く。
 人間を3人その身に乗せているとは思えないほど、その足音の発生源はどんどん移動していく。

「乗り心地は決していいものとは言えないと思うけど! その分、早く確実に届けるよ……ぜ!」
「よ、よく聞こえないけど、ありがとうございますーーー!」
 
 風を切る音のせいでレンティスとフォグにはほとんどナーランの言葉は聞こえなかった。
 おそらくお礼を言った方がいいと判断したフォグは、どうにか返事をする。
 返事のために顔を動かしたとき、自分とは反対側に担がれているヒイラギの姿が改めて目に入った。

 ナーランが走る振動に逆らうことなく、ゆらゆらとヒイラギの両腕は揺れている。
 ナーランに担がれたときには何か掛け合いをしていたが、そこからはヒイラギの声を聞いていない。

「…………」

 ぎゅっと、ナーランは自分の服が強く握られたのを感じた。
 落ちないようにするためか、あるいは。

「さあ! もう少し飛ばすぜー!」

 人間と様々な気持ちを乗せたまま、宣言通り、速度の段階がもうひとつ上がった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ドドドドドドドドドド!

「さあ! 第一関門にして最終関門! ここを抜ければシーナリーム王国へまっしぐらだぜ!」

 包囲を突破してからしばらくして、あんなに遠く感じていた国外への門が、ついに目視できる範囲に入ってきた。
 その門は、当然、厳重に閉じられており、門番の姿もある。

「ここをどうやって突破するんですか?」
「もちろん、正面突破! 止まっている時間はないから!」
「その方法を聞いたつもりだったんですがー!」

 フォグの言葉だけを置き去りにして、その門へと突っ込んでいく。

「な、何者だお前ら! 止まれ!!」
「止まるぜ!」

 ナーランは石畳に亀裂が入るほど強く踏ん張ると、門番の攻撃範囲より外で急停止した。
 慣性によってすっぽ抜けたフォグの兜が、門番の顔面に直撃する。

「襲撃だ! 戦闘態勢!!」
「ちょっと揺れるから、しっかりつかまってね!」
「言うの遅くないですか!」

 一気に殺気立った門番たちをしり目に、ナーランはその健脚にタメを作る。

「この不審者たちを取り押さえろ!」
「”健脚”のこのナーラン・ハイズ! これくらいの悪路なんて、なんてことないぜー!」

 次の瞬間から、フォグは人生で初めて世界が紙芝居のように見えた。
 瞬きをするたびに、目の前の景色が変わっていった。
 
 ――瞬き。門番たちの間。剣の切っ先。
 
 ――瞬き。門番たちの詰所の中。飲みかけのお酒。
 
 ――瞬き。破壊音。粉砕された木の扉。
 
 ――瞬き。平和を満喫している草食動物。広々とした原っぱ。

「ようやく国外へ出られたぜ! さて! ここからが本領発揮だぜ! まだまだ飛ばすよー!」
「お、お願いします……」

 フォグはヒイラギのことで心をいっぱいにしながらも、ナーランの背中につかまって一言も発さずにいる自分の父親を、改めて尊敬したのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 日の出とともに国が揺れた。
 
 まず、グルーマス王国からシーナリーム王国へ宣戦布告がなされた。
 曰く、シーナリーム王国がグルーマス王国へ傭兵を派遣し、騎士団を襲撃したというのである。

「あれは間違いなく”白銀の守護者”でした。私は彼に突然襲われ、抵抗もできずにこの通りです」

 松葉杖をついている自身の状況を、その騎士団員はグルーマス王国民に説明したのだった。

 この報復として、傭兵会支部を焼き払い、国内にいた傭兵はすべて捕らえたと宣言。
 寝耳に水な出来事に事態の把握を急いでいるところへ、ナーランたちが帰還し、情報を伝えた。

「突然襲われたのはこっちだぜ。証拠はないけど、”白銀の守護者”はご覧のありさまだぜ。今すぐ、医者の所に行ってくるぜ」

 この情報をもとに反論を行うも、グルーマス王国は宣戦布告を取り下げなかった。
 それどころか、事実を認めようとしない卑劣な国だと非難を加速させた。

 国の重鎮たちが頭を抱えながら協議していると、ここで朗報が飛び込む。

 知見を広げるために国外へ出ていた王子が、危機を察知し、南から軍勢を率いて帰還しているとのことだった。
 
 援軍の存在によって一気に強気になったシーナリーム王国は、迎撃を決意。
 ――戦争が始まることとなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「傭兵会は、基本的には依頼がない限り自発的に戦争に加担しない。……いつも通りならば、そう言っていただろう」
 
 傭兵会会長のオルドウスが、群れる傭兵たちへ重低音を響かせる。

「ことの発端の真偽はどうであれ、実際、やつらは傭兵会支部を焼き払い、傭兵を一方的に捕縛している」

 たくましい右腕を空へと掲げる。

「戦え傭兵! 各人がそれぞれの方法で戦え! ここに、傭兵会は! グルーマス王国への徹底抗戦を宣言する!」

 うおおおおおおおおおおおおおおお!!!
 士気高く、声の限り叫ぶ傭兵たち。
 
 その様子を見ていた受付の少女イルは、目を閉じて祈るのだった。
 ――どうか、誰も傷つかず、命を落としませんように。
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