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序章-廃病院-
1-1.廃病院と少女のナイト-目覚めた場所は-
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僕は夢を見ている。
僕は体を動かせず、浮遊感だけを感じ取れる。
こんな夢がもうどれくらい続いているかわからない。
ただ、ひたすら明るい部屋で、何も聞こえず、体も動かせず。
空腹感も倦怠感も感じない。
気が狂いそうだ。いや、もう気が狂っているのかもしれない。
...そんな時間が続いたとき、それは現れた。
まるで暗闇にやってきた影。ひたすらに続く暗黒は、ただひたすらに明るい部屋を塗りつぶそうと広がり続ける。
だが、まるで光は、影を許さないといわんばかりに、影を食らいつくす。
僕はそれが、嫌で、気が狂いそうな光から脱出したくて、
動かないはずの左手を影のほうに伸ばした。
それが、僕の始まりだった。
______________________________
「はっ...はっ...」
僕は目を覚ます。心臓の音がうるさい。それに体がだるい、まるで海に溺れて、救出されたあとのような...
気持ち悪い。
僕はあたりを見渡す。どうやらここは病院の病室のようだ。
僕が寝ているベッドの横にある花瓶の中の花が枯れている。
どうやら、かなり長くここで寝てしまっていたらしい。
僕は体を起き上がらせる。長らく寝ていたのだから、体が動かせないかと思ったが、体は走れる程度には無事のようだ。
僕は立ち上がり、体全体を確認する。体が所々が針で縫られている部分がある。しかも肌の色が白いまるでゾンビみたいだ。...ん
「なんだ...これ」
思わず声が出る。自分の左手の甲に鍵穴のようなものがついている。
左手を動かしてみる。ちゃんと動く、義手ではないようだ。ただ、手に鍵穴だけがついているような...
気色が悪いが、僕の昏睡状態を治すために特殊な手術でもしたのか...?
今はそれで納得しておこう。気味が悪すぎる。
僕は次に病室を見渡す。ガラスは割れて、扉は何かで閉じられている。
...床には木くずや埃がたまっており、俺のベッドの下には魔法陣のようなものが...
...もしかして、僕は気色悪い儀式の材料として使われたのだろうか。
それにこんな状況でも冷静に考えることができている。感情が希薄になっているのか?
いや、鍵穴を見たとき、思わず声に出ていた。
感情が希薄になっているのではなく、自分の事以外には興味がなくなっているのか?
「何が起きている...」
...いややめよう、ひとまずは細かく病室を確認してみよう。残していったものがないか、食料や水は残っていないか...話はそれからだ
_________________
病室を確認して、様々なことが確認できた。
まずは、ここは『国立病院機構 池夕医療センター』僕が昔通っていた病院ということが判明した。
どうやら、月日が続いただけで、知らない場所に送られたり、異世界に転生したわけではないらしい。
そして、魔法陣、あれは、クレヨンを使って書かれていた。正直、それ以外はわからなかった。
こんなファンタジーなもの、確認のしようがない。
扉をふさいでいたのは掃除用具入れのロッカーだった。だが、中を確認すると、服や靴が用意されていた。
...上は赤のジャージで下は黒いジーンズ、靴は黒いスニーカーという何とも言えない組み合わせだったが、この際文句は言ってられない。すぐに着替え、探索を再開した。
次に、病室にあるほかのベットの上で雑誌を発見した。この雑誌は何の変哲もないただのファッション雑誌だったが、問題なのはそこに書かれていた発行日は『2045年6月』と書かれていた。
僕がいた時代は2023年、それからもう22年以上の時が経過していることだ。
それなのに、僕の体は当時と同じように動かせている。トイレの鏡を確認すると、僕は肌が白い以外は外見の変化が全く変わっていない。
この荒れ具合と病室が放置されていることを確認するに、2045年からもずいぶんの月日がたっているだろう。
この状況から察するに、僕は何かの儀式でよみがえらされたのは違いがないのだが、それでも疑問がかなり残っている。
疑問1-なぜ僕を蘇らせた?-
そもそもとして、僕はただの18歳の専門学生、頭も悪く、習っていたのは介護職、特別な才能があるわけでもなく、勉強が得意なわけでもない。なのになぜ僕を蘇らせたのか。
疑問2-僕の体がそのままで復活したのか?-
僕には死んだときの記憶はない、だが、僕はただ平凡に生きていた。何かの実験や研究に協力していた記憶がない。なのになぜ、22年以上たっているこの世界で、体は腐らずそのままの状態で蘇生されたのか。
ここ、日本の埋葬方法は火葬、普通なら骨だけになった後に、骨は粉々に砕かれて、神棚に置かれる。
なのに、なぜ、僕の体は無事だったのか。
疑問3-この鍵穴の正体は?-
左手の甲にある鍵穴、これの正体は何か、鍵穴と聞くとそれに合うカギのようなものがないといけないはずなのだが、この部屋にはそんなものはない。
...まあわからないことだらけだが、体が問題なく動くことは確認した。
まずは外に出よう。話はそれからだ。
僕は扉の前に移動する。扉をふさいでいたロッカーをどかし、扉を開ける。
すると、そこは病院の待合室だった。
ボロボロになったそこには、病室同様に木くずや割れたガラスが散らばっていた。
...いや待て、おかしい。俺は病室にいたはずだ。病室から出たら、まずは病室がたくさん並ぶ廊下に出るはず、なのになぜ待合室に出た?
「おはよう」
後ろから声が聞こえ、あわてて後ろを振り返る。来たはずの病室は見えず、後ろはあきっぱなしのエレベーターになっていた。そこに人形を持った少女が立っている。
「...色々聞きたいことがあるが、まずは聞かせてくれ、何が起きている」
僕は冷静に、あわてないように一番聞きたい疑問を少女に問いかける。少女は笑い、自分の首にぶら下げてあるネックレスをいじりながら、こちらに視線を向ける。
「君はね、生き返ったんだよ、私の手で」
「...やはりか」
「驚かないんだね」
「ああ、こんな白い体と左手の鍵穴を見たらな」
少女は僕の反応にけらけら笑い、人形を握りしめる。気味が悪いが、僕は少女の機嫌を害さないように、慎重に言葉を選ぶ。
「教えてくれ、なぜ僕を蘇らせたんだ?」
「私がこの病院から出るため」
「...この病院から?」
少女はまたけたけた笑うと、少女が握っていた人形を手で引き裂いた。綿がそこら中にばらまかれる。
少女は人形のおなかに手を入れると、中から鍵のようなものを取り出した。
ハリーポッターで出てきそうなアンティークなカギを持ち、少女は僕にそれを差し出す。
「これは、スケルトンキー、あなたがスカルデッドになるためのカギ」
「...スカルデッド?何を言って」
「ほら、来るよ...」
いきなり病院全体が揺れだす。その揺れはまるでご飯を待っていた子供がようやくご飯にたどり着き、歓喜しているような、激しい揺れ。
僕は立ち上がれずに、その場に倒れる。少女のほうに目をやると、少女はまるで起きてもいないかのように、その場に立っていた。
「来た来た。ケルベロスのお出ましだよ」
何を言って...そう考える暇もなく、空から何かが降ってきた。
それは、漫画で見たようなケルベロスのイメージとは大きく離れていた。
確かに首は三つに分かれている。よだれをたらし、白目をむいている。普通なら姿を見るだけで恐ろしいと感じるような見た目だろう。
だが、それは人くらいのサイズしかない。
もっと大きいものを想像していたが....とはいえ、対抗手段がないのも事実。
ここは逃げるしか、だが、逃げ切れるのか?
「もしかして、逃げようとしてる?」
少女の声が聞こえ、後ろを振り返る。そうだ、この子もいたんだ。どうやって逃げたら。
「...私のナイト、単語私を守って」
...そう少女に言われた瞬間、僕の体の自由が失われた。自分の意志で体を動かせず、体は少女にひざまずいている。
僕の体は少女から鍵を受け取ると、ケルベロスのほうへと向き直し、カギを左手の鍵穴へとさし、回した。
その瞬間、俺の体は崩れ始める。足、体、手、それらがまるで倒壊した建物のようにバラバラになる。
だが、痛みは感じない。
頭だけの状態になる。だが、頭は空中に浮き、唯一残った頭から体が生え始めた。
僕は少し安心する。だが、その安心とは裏腹に、僕の体から生えてきたのは、影だった。
僕の体の後ろをついてきていた影、それが、僕の体から生えてきたのだ。
何が起きている。怖い、怖い。
そんな意識とは逆に体は生えていく、足が生え終わった瞬間、体の自由が戻ってきた。
僕はあわてて体の状態を確認する。こぶしもあしもかげに切り替わり、服装も変わっている。前身は黒い鎧に覆われていた。いたるところにとげのような装飾が施されている。
俺は、手で顔を触る。どうやら、顔もちゃんと守られているらしい。だが、この感触は鎧というか、ヘルメットのような感触だ。
顔の部分がガラスのような感触、だから、外がちゃんと見えているのか。だが、頭の後ろは鎧のような感触が残っている。どういう風になっているのか、なぞだ。
「ほら、来るよ」
ケルベロスのことを思い出し、僕は前を向く、ケルベロスは、目の前まで迫ってきていた。
僕はケルベロスを殴りつける。ケルベロスは20mほど吹き飛び、壁にたたきつけられた。
...どうやら、鎧を着ただけではなく、身体能力も上がっているようだ。
全力で走り、ケルベロスを再度殴りつけようとする。だが、ケルベロスは体勢を立て直し、パンチを交わした。
振り上げたこぶしは壁にぶつかる。だが、壁は崩壊することなく、ゴンという音とともに建物全体を揺らした。
ケルベロスは咆哮を上げ、再度僕のほうへと突っ込んでくる。だが、今度は狙いが定まらないようにジグザグに移動しながら、
全力で精神を集中させ、ケルベロスが目の前に来た瞬間、また殴りつける。
だが、ケルベロスは空中に飛び出し、僕のこぶしは外れた。ケルベロスはそのまま僕の顔に突進する。
ケルベロスの顔は僕の顔にそのまま衝突し、僕はそのまま地面に倒れる。鎧兜が外れると思ったが、外れない。どうやら外れないようにできているらしい。
ケルベロスはそのまま、右腕にかみつく、僕の腕をかみちぎろうとそのまま力を入れた。
そこで、僕は気が付いた。痛みがある。この鎧は、僕の体を守るものじゃなく、僕の体が変質したものなのか。
僕は力を入れ、ケルベロスを払いのける。ケルベロスは10mほど飛んだが、次は壁にぶつからずに空中で姿勢を正し着地する。
「ほら、私のナイト、ケルベロスをやっつけて」
少女はエレベーターの中から声援を送る。ただ、目が笑っていない。
「日の中に溶け込んで、ナイト」
日の中に溶け込む...?何を言って...!?
ケルベロスのほうへ意識を向けていなかったせいで、僕はケルベロスの突進をもろに食らう。
激しい痛みとともに、吹き飛び、壁に衝突する。僕は急いで立ち上がる。天井の窓から日の光が入り、僕を照らす。
その時だった。立ち上がるために地面に手を乗せた瞬間、体が地面に飲まれる。
地面の中は海のようになっていた。上から見上げると、ケルベロスがぼくのほうをじっと見ている。
どうやら、これが日の中に溶け込むということらしい。ケルベロスに存在を認識されているということは。
影だけが僕の上にあるような状態になっているということか。使いずらい。
ケルベロスは僕の真上で吠えている。僕は大きく力を入れて、地面から出て、ケルベロスを殴りつけた。
ケルベロスは、真上に吹き飛ばされ、天井に当たった後、地面にたたきつけられた。
ケルベロスは弱った犬のような声を出すと、倒れこんだまま、粒子になって消滅した。
僕はしばらく、構えた後、ケルベロスが攻撃してこないことを確認し、少女の前に立つ。
「...何がどうなっているんだ」
そう僕が聞くと、少女はけたけたと笑い、エレベーターの中にある鏡を指さした。
鏡には、全身が鎧で包まれた僕が立っていた。顔の部分だけがミラーガラスになっていて、他が黒い鎧で構成されている。
僕は鏡に近づく、鏡の目の前に立った瞬間、僕は言葉を失った。
こんなに近いと、ミラーガラスでも多少は中の様子が見える。僕の顔は骸骨だけになっていた。
理解できない。理解したくない。これはつまり
「それがあなたの正体だよ、南戸 躯」
「...なんで、僕の名前を」
「あなたはスキー中に足を滑らせて亡くなった。あなたに残されたのは、その骸だけ」
...つまり、ぼくは
「それがあなたの本当の姿だよ」
...こんなこと理解したくないはずなのに、何も考えたくないはずなのに、頭は冷静なままで、
「ほら、ナイト、ケルベロスから私を守って」
「...ケルベロスなら、もう倒しただろ」
「...ほら、後ろを見て、私のナイト」
僕は待合室のほうへ顔を向ける。ケルベロスは、数えられないほどいた。
待合室の後ろの扉から9匹、病室へと続く廊下から14匹、出入り口のほうから40匹、彼らはまだまだ増えていく。
「さっきの咆哮は、仲間を呼ぶための合図」
何がどうなっている...これではまるで...いや...そうか、ここは、地獄なのか。
「だからね、私を守って、私のナイト」
たくさんの絶望に囲まれながら、僕の第二の人生が始まった。
僕は体を動かせず、浮遊感だけを感じ取れる。
こんな夢がもうどれくらい続いているかわからない。
ただ、ひたすら明るい部屋で、何も聞こえず、体も動かせず。
空腹感も倦怠感も感じない。
気が狂いそうだ。いや、もう気が狂っているのかもしれない。
...そんな時間が続いたとき、それは現れた。
まるで暗闇にやってきた影。ひたすらに続く暗黒は、ただひたすらに明るい部屋を塗りつぶそうと広がり続ける。
だが、まるで光は、影を許さないといわんばかりに、影を食らいつくす。
僕はそれが、嫌で、気が狂いそうな光から脱出したくて、
動かないはずの左手を影のほうに伸ばした。
それが、僕の始まりだった。
______________________________
「はっ...はっ...」
僕は目を覚ます。心臓の音がうるさい。それに体がだるい、まるで海に溺れて、救出されたあとのような...
気持ち悪い。
僕はあたりを見渡す。どうやらここは病院の病室のようだ。
僕が寝ているベッドの横にある花瓶の中の花が枯れている。
どうやら、かなり長くここで寝てしまっていたらしい。
僕は体を起き上がらせる。長らく寝ていたのだから、体が動かせないかと思ったが、体は走れる程度には無事のようだ。
僕は立ち上がり、体全体を確認する。体が所々が針で縫られている部分がある。しかも肌の色が白いまるでゾンビみたいだ。...ん
「なんだ...これ」
思わず声が出る。自分の左手の甲に鍵穴のようなものがついている。
左手を動かしてみる。ちゃんと動く、義手ではないようだ。ただ、手に鍵穴だけがついているような...
気色が悪いが、僕の昏睡状態を治すために特殊な手術でもしたのか...?
今はそれで納得しておこう。気味が悪すぎる。
僕は次に病室を見渡す。ガラスは割れて、扉は何かで閉じられている。
...床には木くずや埃がたまっており、俺のベッドの下には魔法陣のようなものが...
...もしかして、僕は気色悪い儀式の材料として使われたのだろうか。
それにこんな状況でも冷静に考えることができている。感情が希薄になっているのか?
いや、鍵穴を見たとき、思わず声に出ていた。
感情が希薄になっているのではなく、自分の事以外には興味がなくなっているのか?
「何が起きている...」
...いややめよう、ひとまずは細かく病室を確認してみよう。残していったものがないか、食料や水は残っていないか...話はそれからだ
_________________
病室を確認して、様々なことが確認できた。
まずは、ここは『国立病院機構 池夕医療センター』僕が昔通っていた病院ということが判明した。
どうやら、月日が続いただけで、知らない場所に送られたり、異世界に転生したわけではないらしい。
そして、魔法陣、あれは、クレヨンを使って書かれていた。正直、それ以外はわからなかった。
こんなファンタジーなもの、確認のしようがない。
扉をふさいでいたのは掃除用具入れのロッカーだった。だが、中を確認すると、服や靴が用意されていた。
...上は赤のジャージで下は黒いジーンズ、靴は黒いスニーカーという何とも言えない組み合わせだったが、この際文句は言ってられない。すぐに着替え、探索を再開した。
次に、病室にあるほかのベットの上で雑誌を発見した。この雑誌は何の変哲もないただのファッション雑誌だったが、問題なのはそこに書かれていた発行日は『2045年6月』と書かれていた。
僕がいた時代は2023年、それからもう22年以上の時が経過していることだ。
それなのに、僕の体は当時と同じように動かせている。トイレの鏡を確認すると、僕は肌が白い以外は外見の変化が全く変わっていない。
この荒れ具合と病室が放置されていることを確認するに、2045年からもずいぶんの月日がたっているだろう。
この状況から察するに、僕は何かの儀式でよみがえらされたのは違いがないのだが、それでも疑問がかなり残っている。
疑問1-なぜ僕を蘇らせた?-
そもそもとして、僕はただの18歳の専門学生、頭も悪く、習っていたのは介護職、特別な才能があるわけでもなく、勉強が得意なわけでもない。なのになぜ僕を蘇らせたのか。
疑問2-僕の体がそのままで復活したのか?-
僕には死んだときの記憶はない、だが、僕はただ平凡に生きていた。何かの実験や研究に協力していた記憶がない。なのになぜ、22年以上たっているこの世界で、体は腐らずそのままの状態で蘇生されたのか。
ここ、日本の埋葬方法は火葬、普通なら骨だけになった後に、骨は粉々に砕かれて、神棚に置かれる。
なのに、なぜ、僕の体は無事だったのか。
疑問3-この鍵穴の正体は?-
左手の甲にある鍵穴、これの正体は何か、鍵穴と聞くとそれに合うカギのようなものがないといけないはずなのだが、この部屋にはそんなものはない。
...まあわからないことだらけだが、体が問題なく動くことは確認した。
まずは外に出よう。話はそれからだ。
僕は扉の前に移動する。扉をふさいでいたロッカーをどかし、扉を開ける。
すると、そこは病院の待合室だった。
ボロボロになったそこには、病室同様に木くずや割れたガラスが散らばっていた。
...いや待て、おかしい。俺は病室にいたはずだ。病室から出たら、まずは病室がたくさん並ぶ廊下に出るはず、なのになぜ待合室に出た?
「おはよう」
後ろから声が聞こえ、あわてて後ろを振り返る。来たはずの病室は見えず、後ろはあきっぱなしのエレベーターになっていた。そこに人形を持った少女が立っている。
「...色々聞きたいことがあるが、まずは聞かせてくれ、何が起きている」
僕は冷静に、あわてないように一番聞きたい疑問を少女に問いかける。少女は笑い、自分の首にぶら下げてあるネックレスをいじりながら、こちらに視線を向ける。
「君はね、生き返ったんだよ、私の手で」
「...やはりか」
「驚かないんだね」
「ああ、こんな白い体と左手の鍵穴を見たらな」
少女は僕の反応にけらけら笑い、人形を握りしめる。気味が悪いが、僕は少女の機嫌を害さないように、慎重に言葉を選ぶ。
「教えてくれ、なぜ僕を蘇らせたんだ?」
「私がこの病院から出るため」
「...この病院から?」
少女はまたけたけた笑うと、少女が握っていた人形を手で引き裂いた。綿がそこら中にばらまかれる。
少女は人形のおなかに手を入れると、中から鍵のようなものを取り出した。
ハリーポッターで出てきそうなアンティークなカギを持ち、少女は僕にそれを差し出す。
「これは、スケルトンキー、あなたがスカルデッドになるためのカギ」
「...スカルデッド?何を言って」
「ほら、来るよ...」
いきなり病院全体が揺れだす。その揺れはまるでご飯を待っていた子供がようやくご飯にたどり着き、歓喜しているような、激しい揺れ。
僕は立ち上がれずに、その場に倒れる。少女のほうに目をやると、少女はまるで起きてもいないかのように、その場に立っていた。
「来た来た。ケルベロスのお出ましだよ」
何を言って...そう考える暇もなく、空から何かが降ってきた。
それは、漫画で見たようなケルベロスのイメージとは大きく離れていた。
確かに首は三つに分かれている。よだれをたらし、白目をむいている。普通なら姿を見るだけで恐ろしいと感じるような見た目だろう。
だが、それは人くらいのサイズしかない。
もっと大きいものを想像していたが....とはいえ、対抗手段がないのも事実。
ここは逃げるしか、だが、逃げ切れるのか?
「もしかして、逃げようとしてる?」
少女の声が聞こえ、後ろを振り返る。そうだ、この子もいたんだ。どうやって逃げたら。
「...私のナイト、単語私を守って」
...そう少女に言われた瞬間、僕の体の自由が失われた。自分の意志で体を動かせず、体は少女にひざまずいている。
僕の体は少女から鍵を受け取ると、ケルベロスのほうへと向き直し、カギを左手の鍵穴へとさし、回した。
その瞬間、俺の体は崩れ始める。足、体、手、それらがまるで倒壊した建物のようにバラバラになる。
だが、痛みは感じない。
頭だけの状態になる。だが、頭は空中に浮き、唯一残った頭から体が生え始めた。
僕は少し安心する。だが、その安心とは裏腹に、僕の体から生えてきたのは、影だった。
僕の体の後ろをついてきていた影、それが、僕の体から生えてきたのだ。
何が起きている。怖い、怖い。
そんな意識とは逆に体は生えていく、足が生え終わった瞬間、体の自由が戻ってきた。
僕はあわてて体の状態を確認する。こぶしもあしもかげに切り替わり、服装も変わっている。前身は黒い鎧に覆われていた。いたるところにとげのような装飾が施されている。
俺は、手で顔を触る。どうやら、顔もちゃんと守られているらしい。だが、この感触は鎧というか、ヘルメットのような感触だ。
顔の部分がガラスのような感触、だから、外がちゃんと見えているのか。だが、頭の後ろは鎧のような感触が残っている。どういう風になっているのか、なぞだ。
「ほら、来るよ」
ケルベロスのことを思い出し、僕は前を向く、ケルベロスは、目の前まで迫ってきていた。
僕はケルベロスを殴りつける。ケルベロスは20mほど吹き飛び、壁にたたきつけられた。
...どうやら、鎧を着ただけではなく、身体能力も上がっているようだ。
全力で走り、ケルベロスを再度殴りつけようとする。だが、ケルベロスは体勢を立て直し、パンチを交わした。
振り上げたこぶしは壁にぶつかる。だが、壁は崩壊することなく、ゴンという音とともに建物全体を揺らした。
ケルベロスは咆哮を上げ、再度僕のほうへと突っ込んでくる。だが、今度は狙いが定まらないようにジグザグに移動しながら、
全力で精神を集中させ、ケルベロスが目の前に来た瞬間、また殴りつける。
だが、ケルベロスは空中に飛び出し、僕のこぶしは外れた。ケルベロスはそのまま僕の顔に突進する。
ケルベロスの顔は僕の顔にそのまま衝突し、僕はそのまま地面に倒れる。鎧兜が外れると思ったが、外れない。どうやら外れないようにできているらしい。
ケルベロスはそのまま、右腕にかみつく、僕の腕をかみちぎろうとそのまま力を入れた。
そこで、僕は気が付いた。痛みがある。この鎧は、僕の体を守るものじゃなく、僕の体が変質したものなのか。
僕は力を入れ、ケルベロスを払いのける。ケルベロスは10mほど飛んだが、次は壁にぶつからずに空中で姿勢を正し着地する。
「ほら、私のナイト、ケルベロスをやっつけて」
少女はエレベーターの中から声援を送る。ただ、目が笑っていない。
「日の中に溶け込んで、ナイト」
日の中に溶け込む...?何を言って...!?
ケルベロスのほうへ意識を向けていなかったせいで、僕はケルベロスの突進をもろに食らう。
激しい痛みとともに、吹き飛び、壁に衝突する。僕は急いで立ち上がる。天井の窓から日の光が入り、僕を照らす。
その時だった。立ち上がるために地面に手を乗せた瞬間、体が地面に飲まれる。
地面の中は海のようになっていた。上から見上げると、ケルベロスがぼくのほうをじっと見ている。
どうやら、これが日の中に溶け込むということらしい。ケルベロスに存在を認識されているということは。
影だけが僕の上にあるような状態になっているということか。使いずらい。
ケルベロスは僕の真上で吠えている。僕は大きく力を入れて、地面から出て、ケルベロスを殴りつけた。
ケルベロスは、真上に吹き飛ばされ、天井に当たった後、地面にたたきつけられた。
ケルベロスは弱った犬のような声を出すと、倒れこんだまま、粒子になって消滅した。
僕はしばらく、構えた後、ケルベロスが攻撃してこないことを確認し、少女の前に立つ。
「...何がどうなっているんだ」
そう僕が聞くと、少女はけたけたと笑い、エレベーターの中にある鏡を指さした。
鏡には、全身が鎧で包まれた僕が立っていた。顔の部分だけがミラーガラスになっていて、他が黒い鎧で構成されている。
僕は鏡に近づく、鏡の目の前に立った瞬間、僕は言葉を失った。
こんなに近いと、ミラーガラスでも多少は中の様子が見える。僕の顔は骸骨だけになっていた。
理解できない。理解したくない。これはつまり
「それがあなたの正体だよ、南戸 躯」
「...なんで、僕の名前を」
「あなたはスキー中に足を滑らせて亡くなった。あなたに残されたのは、その骸だけ」
...つまり、ぼくは
「それがあなたの本当の姿だよ」
...こんなこと理解したくないはずなのに、何も考えたくないはずなのに、頭は冷静なままで、
「ほら、ナイト、ケルベロスから私を守って」
「...ケルベロスなら、もう倒しただろ」
「...ほら、後ろを見て、私のナイト」
僕は待合室のほうへ顔を向ける。ケルベロスは、数えられないほどいた。
待合室の後ろの扉から9匹、病室へと続く廊下から14匹、出入り口のほうから40匹、彼らはまだまだ増えていく。
「さっきの咆哮は、仲間を呼ぶための合図」
何がどうなっている...これではまるで...いや...そうか、ここは、地獄なのか。
「だからね、私を守って、私のナイト」
たくさんの絶望に囲まれながら、僕の第二の人生が始まった。
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