キミロマン

松丹子

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03 思い出

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 裏切りに似た失恋の後。
 一度東に抱かれてから、私は週に一度のペースで東の家を訪れるようになった。
 それ以上だとうっとうしがられそうだし、それ以下では落ち着かない。
 自分で自分の気持ちの落としどころが分からなかった。

 東は小学校3年のとき、私の近所に引っ越してきた。当時はガリガリでちびっ子で、しょっちゅう熱で休んでいて、しかも無愛想だったから、気づけば男子のいじめのターゲットになっていた。
 家が近いこともあって、私は「友達になろう」と申し出て、登下校を一緒にしたり、東が休んだときには連絡係を申し出たりした。
 小中学校の東は、私が支えてあげた。
 自分の中では結構本気で、そんな風に思っていた。

 東は私より頭がよくて、私よりいい高校に進学した。
 私もムキになって同じ高校を受けたけど、案の定落ちて滑り止めの私立に入学。
 中学のときはちっぽけだった東は、高校生になってからぐんと背が伸びたらしい。知らないうちに私より大きくなっていたけど、横幅は相変わらずヒョロヒョロで、全然私のタイプじゃなかった。
 とはいえ、小学生のときから何を着ても品のいい感じに見えていたし、顔立ちも可愛い系だったので、ひと目を引いていたのだろう。
 東と同じ高校に進学した友達からは「結構女にモテてる」とかなんとか、要らない情報をもらったりもした。
 それでも信じてなかったのだ。あんなに、地味で、馬鹿にされて、髪もくるんくるんのくせっ毛で、眠たそうでけだるげな東が……女を取っ替え引っ替えしているだなんて。

 ***

 また東の家を訪れた私は、彼に快楽を求める。
 小学生のときには散々みんなに馬鹿にされていた、くるんくるんの柔らかいくせっ毛は、うまいことカットされていてむしろオシャレに見えるくらいだ。

「んっ……はぁ、ぁ」

 東は私にキスをする。身体を優しく撫でていく。それでも、あんまり胸に触ることはない。なんでなのかは分からない。
 私は結構胸があって、逆に目立たないような下着や、だぼついた服を選ぶくらいだ。ぴちっとしたTシャツなんか着てるとそれだけで目につくらしくて、駅で酔っ払いのおっさんに絡まれたこともある。
 そのとき上手く助けてくれたのも元カレだった。どうやって対処したらいいのか戸惑っていた私に近づき、「待たせてごめん」と彼氏の振りをしてその場から連れ去ってくれた。
 そんな元カレも、胸に顔を埋めては喜んでた。セックスが下手だとフラれたけれど、東と比べれば元カレもさして上手い訳ではなかったらしい。

「ん、ん、ぅん、はぁ、ん」

 喘ぐ声がキスの合間に漏れる。突き上げる東の動きに合わせて胸が揺れる。ときどき頂きが東の身体に触れ、その快感に思わず背を反らしてもっと彼に触れようと身じろぎする。

「ぁずまぁ」

 甘えた声で呼べば、東はすぐにキスをしてくれる。私がキスを好きだと知っているというよりは、まるで私に声を出させないようにしているみたいだと、ときどき思う。
 でも、口を塞がれていても声は出る。鼻腔から抜けるような甘い声が、少しでも東を興奮させられるならいいなと思う。

 ぐんぐんと奥を刺激される。脚を東の腰に巻付け、もっと奥に欲しいのだと伝える。東は私の膝裏に手を入れ、更に奥へ突き上げる。
 ぐちゃ、ずぷ、と繋がったそこから音がする。溶かされた私の蜜が東のそれを飲み込んで、もっともっとと彼を求める。
 ある一点を突かれて、びくんと身体が跳ねた。
 そう、そうなの。そこ、好き。
 東もそう知っているのだ。だからストロークをあえてゆっくりにして、でも的確に、そこを貫いてくる。

「ん、ぅ、んっ……」

 キスしながら受け止めるには強すぎる刺激に、酸素を求めて顔を振る。東がふっと笑った気配がして、その表情を確認しようと見上げたけど、東がテンポを速めたのが先だった。

「あっ、ぁ、あ、ああ、んぁ、や、いい」
「……いや、なの。いい、の」

 東が話すなんて珍しいことだ。荒い息の合間に放たれた彼の声を聞くだけで、私の内側がぎゅっと収縮する。

「んっ、うん、すき」

 東の動きが一瞬止まった。
 私の身体は、また刺激を求めてぎゅうぎゅうと彼を締め付ける。

「あず……ま?」

 乱れた呼吸の合間に、潤んだ目で東を見上げる。一度コンタクトがズレて怖い想いをしてからは、東に抱かれるときは裸眼だ。更に目が潤んでいるから、表情を確認したくてもはっきり見えない。
 どうしたんだろう、と思ったとき、「くそ」と東が小さく呟いた。かと思えば、動きを再開するーー今までにないくらい、激しく、速くーー貪るような動きに、私の身体と心はビリビリ痺れたように、快感を浴びる。

「ぁ、あ、い、っちゃう、いっちゃうっ」
「早くーーイケよーー」

 ぐちゃ、ぬちゃ、ずぷ、と濡れた音の合間に、身体のぶつかり合う音がパン、パンと響く。

「あずま、あずま、いっちゃ、ぁ、あ、あ……!」

 私はいやいやをしながら目を手で覆う。東とのセックスは、なんて気持ちいいんだろう。もう私が私じゃなくて、東も東じゃなくて、訳がわからないほどぐちゃぐちゃになって、乱れて絡まっていく。
 東は私の手首を掴んでベッドに縫い付けた。そんなことも、珍しいことだ。顔を見られたくないと思えば、いつもそうさせてくれるのに。

「はっ、はっ、はぁっ、はっ……」

 揺れるベッドに合わせて、東の息が聞こえる。眉間を流れた汗が、ぽたりと私の鎖骨に落ちて、その刺激すら快感になる。
 東が、こんなに、一所懸命に、わたしを、気持ち良くしてくれてる。

「ん、は、い、あずまぁ、あ!」

 私が言う途中で、グリグリと刺激が加わる。電流のような痺れが脳天まで走って行って、私の理性を破壊する。

「あずま、あずま、ん、ぁあ!」
「くっ、ふ、ん、はっ、ぁあ、はぁっ」

 東の声に、ときどき感じているような響きが混ざる。それが嬉しくて彼を締め付けると、東がますます、快感に眉を寄せる。
 ちょっと顔をしかめる東は、不思議とすごく男らしく見えるーー

「っは、ぁ、ひ、な」
「っ、ぇっ」

 驚いて、声が出る。同時にまた、私の中にある彼を締め付ける。
 ぎゅうぎゅうと締め付けたのが、気持ち良かったのか、東は切なげな目で私を見て、

「っ、陽菜」

 私の片膝に手を添えたまま、私の頭を胸元に抱き寄せ、更にがつがつ最奥を貪る。

「ぁああ、ああああああーーっ!!」

 私は快感の波に飲まれて、弾けた。
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