ズボラ上司の甘い罠

松丹子

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 気分転換が功を奏したのか、春菜たちは他のメンバーより30分以上早くノルマを達成した。
 ほっと一息着く春菜に、小野田は微笑みながらコップを差し出す。春菜が礼を言って受け取ると、甘いカカオの香りがした。
「ココアなんて、久しぶり」
 湯気の立つコップに息を吹きかけながら言うと、小野田が隣に腰掛けた。
「僕も。もう時間が時間だから、コーヒーは良くないかなって」
 時計はもう22時を回っている。春菜は腕時計を見てほぅっと息をついた。
「とりあえず、終電は大丈夫そうですね。課長、最寄り駅どこでしたっけ」
「A駅だよ」
「あ、なら余裕ですね。よかったよかった」
 春菜が言うと、小野田は苦笑した。
「君は徒歩圏内でしょう。うらやましな」
「でも、朝も夜もルーズになりますよ」
 朝が弱いのは元々だが。
 小野田は微笑んだ。
「小松さん、朝ぎりぎりだもんね。起きられない?」
「そうですね。寝起きの悪さは昔から治らなくて」
 苦笑を返すと、小野田がうーんと考えた。
「例えば、こういうのはどう?」
 春菜は首を傾げて先を促す。
 小野田は変わらない微笑みで言った。
「朝、僕が電話する」
 春菜が固まる。
「そ、それは……」
 ごくり、と唾を飲み込み、
「モーニングコールってやつですか」
 真剣な面持ちで言うと、小野田は笑った。
「うん。上司の電話なら少し目も覚めるんじゃない?明日試してみようか」
(この美声が?朝一で?耳元でおはようって言ってくれるの?)
 それはずいぶん魅力的な提案に感じた。というのも、春菜は疲れで思考が働いていないことに気付かなかったのだ。
「はいっ、試してみますっ」
 春菜が笑顔で答えると、小野田は嬉しそうに笑顔を返した。
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