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「……帰りましたぁ」
肩を落として帰ってきた春菜を見て、男三人は顔を見合わせた。
「早かったね。どうかした?」
三原が問う。春菜は苦笑を返した。
「やっちゃいました」
「もしかして、予約忘れ?」
「そんなとこです」
はあ、と嘆息しながらデスクに座る。
会計課との調整の結果、定時までは会計課が使用するが、それ以降は翌日の利用者に明け渡すということになった。
三原に事情を説明し終えて、手を机にぽんと置き、気持ちを改める。
「まあ、明日の予約はちゃんとできてたのが幸いです」
うんうん、と自分を納得させる。
「でも、今日お楽しみがあるんでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
春菜一人であれば、準備は所要1時間弱。会社の近くの居酒屋で集まるので、そんなに大幅な遅刻にはならない。
ただし、会計課が本当にすんなりと場所を開けてくれればだが。
会計課を訪ねて会議室のドアを叩き、事情を説明したのだったが、会計課の社員は嫌そうな顔で一瞥するばかりだった。折衝担当を進んで引き受けてくれた田畑が上手く話を進めてくれた結果、ようやく引き出した譲歩が先ほどのそれである。
「会計課かぁ」
やつら残業の常連だからなぁと日高が苦笑する。
「あいつらにとっては、2時間の残業は定時だからさぁ」
ははあと春菜は苦笑した。
「ね、三原ちゃん」
「思い出したくないですね、そういう生活」
苦笑する三原は元々人事の出身だ。結婚直前に人事畑に異動になり、家には寝に帰るだけの生活をしばらく続けたらしい。このままでは離婚の危機だと上司に泣きつき、その結果得た可愛い我が子にメロメロなのである。
「でもせっかくの昇進コース、逃しちゃってもったいない」
「やめてくださいよ。あんな、会社に魂売ったような生活、嬉しくも何ともないです」
「あはは」
若手の昇進頭である小野田が笑った。笑い事じゃないですと三原が小野田を見やる。
「いや、確かにね。魂売ったような人もいるなあと思ってね」
「課長は違うんですか」
これだけ昇進が早いのだ。相当無理な働き方もしたんじゃないかと思っていたが、小野田は首を傾げた。
「どうかなぁ。確かに一時期、会社が家かと思うようなときもあったはあったけど。僕の場合はたまたま席が空いてただけだよ」
ほわん、と微笑む。
その柔らかい笑みを直視してしまった春菜は、はぐっ、と声ともつかない変な音を吐き出してパソコンに目線を戻した。
「あれ?どうかした?」
「無自覚って怖い」
「一種の凶器だな、これじゃ」
首を傾げる小野田の横で、三原と日高がひそひそと話す。それを漏れ聞きながら、春菜は羞恥から逃れようと必死でキーボードを叩き始めたのだった。
肩を落として帰ってきた春菜を見て、男三人は顔を見合わせた。
「早かったね。どうかした?」
三原が問う。春菜は苦笑を返した。
「やっちゃいました」
「もしかして、予約忘れ?」
「そんなとこです」
はあ、と嘆息しながらデスクに座る。
会計課との調整の結果、定時までは会計課が使用するが、それ以降は翌日の利用者に明け渡すということになった。
三原に事情を説明し終えて、手を机にぽんと置き、気持ちを改める。
「まあ、明日の予約はちゃんとできてたのが幸いです」
うんうん、と自分を納得させる。
「でも、今日お楽しみがあるんでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
春菜一人であれば、準備は所要1時間弱。会社の近くの居酒屋で集まるので、そんなに大幅な遅刻にはならない。
ただし、会計課が本当にすんなりと場所を開けてくれればだが。
会計課を訪ねて会議室のドアを叩き、事情を説明したのだったが、会計課の社員は嫌そうな顔で一瞥するばかりだった。折衝担当を進んで引き受けてくれた田畑が上手く話を進めてくれた結果、ようやく引き出した譲歩が先ほどのそれである。
「会計課かぁ」
やつら残業の常連だからなぁと日高が苦笑する。
「あいつらにとっては、2時間の残業は定時だからさぁ」
ははあと春菜は苦笑した。
「ね、三原ちゃん」
「思い出したくないですね、そういう生活」
苦笑する三原は元々人事の出身だ。結婚直前に人事畑に異動になり、家には寝に帰るだけの生活をしばらく続けたらしい。このままでは離婚の危機だと上司に泣きつき、その結果得た可愛い我が子にメロメロなのである。
「でもせっかくの昇進コース、逃しちゃってもったいない」
「やめてくださいよ。あんな、会社に魂売ったような生活、嬉しくも何ともないです」
「あはは」
若手の昇進頭である小野田が笑った。笑い事じゃないですと三原が小野田を見やる。
「いや、確かにね。魂売ったような人もいるなあと思ってね」
「課長は違うんですか」
これだけ昇進が早いのだ。相当無理な働き方もしたんじゃないかと思っていたが、小野田は首を傾げた。
「どうかなぁ。確かに一時期、会社が家かと思うようなときもあったはあったけど。僕の場合はたまたま席が空いてただけだよ」
ほわん、と微笑む。
その柔らかい笑みを直視してしまった春菜は、はぐっ、と声ともつかない変な音を吐き出してパソコンに目線を戻した。
「あれ?どうかした?」
「無自覚って怖い」
「一種の凶器だな、これじゃ」
首を傾げる小野田の横で、三原と日高がひそひそと話す。それを漏れ聞きながら、春菜は羞恥から逃れようと必死でキーボードを叩き始めたのだった。
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