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朝。春菜はスマホの着信音で目を覚ました。
ぼんやりと寝ぼけたまま、スマホを耳に当てる。ふぁい、と曖昧な挨拶をすると、
『おはよう』
ひどくクリアに耳に届いた声に、一瞬で顔が湯立った。
「おおおおおはようございます!!」
叫びながらがばりと起き上がる。
(忘れてたー!!)
昨日の朝、毎日早起きしようと決意したばかりだというのに。昨夜の寝坊してもいいというメッセージはそういう意味だったかと気づくとともに、自分の情けなさに泣きそうになる。
電話の向こうで、小野田の柔らかい笑い声がした。その耳障りの良さについつい、流されてもいいんじゃないか、という気になる。が、それではいけないと、迷いを振り払うように首を振った。
「あのっ、課長」
『うん、なぁに?』
決意した呼びかけに答えた小野田の声はひどく嬉しげで、いつも以上に優しさがこもっていた。その声音に、春菜は次の言葉を飲み込む。
「……ありがとうございました起きられたので失礼しますまた職場で」
ぷつっ。
一気に言って電話を切り、がっくりとうなだれた。
(駄目だ……やっぱり起きぬけにあの声を聞くのは駄目だ)
耳元で聞こえたおはようの一言がーーその一言を聞いたときに感じた温もりが、じわりと耳に残っている。
「だあぁああ」
ばふん、と春菜はベッドにダイブし、枕に顔を埋めた。
(やめよう。もうやめよう。やめてくださいって言おう。ちゃんと言わなきゃ駄目だ)
枕に顔を埋めたまま、自分に言い聞かせるように思う。
(元々私が考えなしだったのがいけないんだ。残業が終わった直後で変にハイテンションだったからって、ちゃんと考えないといけなかった。上司のモーニングコールなんて変ですよ、って笑ったらそれで終わりだったのに)
ーーおはよう。
ーーうん、なぁに?
たったそれだけの言葉が、声が、何度も春菜の耳元に響く。何度も。何度も。
それを振り払うように、春菜はイメージした。出勤後、小野田と対峙する自分を。そして、モーニングコールは要らないと告げる自分を。
(そうだ、昨日の飲み会で、同期の女の子がしてくれることになりました、って言うのはどうだろう。誰って聞かれたら花梨ちゃんだって答えよう。きっと花梨ちゃんなら笑って許してくれる。ううん、むしろ本当にしてくれるかもしれない。仕方ないなぁ、春ちゃん、って笑ってくれるだろう。そうだそうしよう。それなら課長だってそれ以上は何も言わないだろう……)
その意識がブラックアウトしたことに気づいたのは、始業時間を過ぎて一時間後、三原からの電話を受けたときだった。
ぼんやりと寝ぼけたまま、スマホを耳に当てる。ふぁい、と曖昧な挨拶をすると、
『おはよう』
ひどくクリアに耳に届いた声に、一瞬で顔が湯立った。
「おおおおおはようございます!!」
叫びながらがばりと起き上がる。
(忘れてたー!!)
昨日の朝、毎日早起きしようと決意したばかりだというのに。昨夜の寝坊してもいいというメッセージはそういう意味だったかと気づくとともに、自分の情けなさに泣きそうになる。
電話の向こうで、小野田の柔らかい笑い声がした。その耳障りの良さについつい、流されてもいいんじゃないか、という気になる。が、それではいけないと、迷いを振り払うように首を振った。
「あのっ、課長」
『うん、なぁに?』
決意した呼びかけに答えた小野田の声はひどく嬉しげで、いつも以上に優しさがこもっていた。その声音に、春菜は次の言葉を飲み込む。
「……ありがとうございました起きられたので失礼しますまた職場で」
ぷつっ。
一気に言って電話を切り、がっくりとうなだれた。
(駄目だ……やっぱり起きぬけにあの声を聞くのは駄目だ)
耳元で聞こえたおはようの一言がーーその一言を聞いたときに感じた温もりが、じわりと耳に残っている。
「だあぁああ」
ばふん、と春菜はベッドにダイブし、枕に顔を埋めた。
(やめよう。もうやめよう。やめてくださいって言おう。ちゃんと言わなきゃ駄目だ)
枕に顔を埋めたまま、自分に言い聞かせるように思う。
(元々私が考えなしだったのがいけないんだ。残業が終わった直後で変にハイテンションだったからって、ちゃんと考えないといけなかった。上司のモーニングコールなんて変ですよ、って笑ったらそれで終わりだったのに)
ーーおはよう。
ーーうん、なぁに?
たったそれだけの言葉が、声が、何度も春菜の耳元に響く。何度も。何度も。
それを振り払うように、春菜はイメージした。出勤後、小野田と対峙する自分を。そして、モーニングコールは要らないと告げる自分を。
(そうだ、昨日の飲み会で、同期の女の子がしてくれることになりました、って言うのはどうだろう。誰って聞かれたら花梨ちゃんだって答えよう。きっと花梨ちゃんなら笑って許してくれる。ううん、むしろ本当にしてくれるかもしれない。仕方ないなぁ、春ちゃん、って笑ってくれるだろう。そうだそうしよう。それなら課長だってそれ以上は何も言わないだろう……)
その意識がブラックアウトしたことに気づいたのは、始業時間を過ぎて一時間後、三原からの電話を受けたときだった。
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