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第十一章 織姫は彦星にどうしても抱かれたい(ヒメ視点)
11 ハジメテノ夜 その壱
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光彦さんが気を使わないように、でもあんまり待たせないように、私は1時間くらいで上がった。髪を乾かすには時間がかかるので、タオルでくくりあげて出ると、光彦さんは英字新聞を手にソファに腰掛けている。
また絵になる姿だなぁ、なんて見惚れて、声をかけるのをためらった。
けど、光彦さんはすぐに私に気づいて目を上げた。新聞を畳んでラックに戻す。
「早かったな」
言われて、微笑む。
「髪、まだ乾かしてなくて。部屋で乾かします」
「乾かしてきてよかったのに」
私は光彦さんを見上げた。
「新聞、読んでたかったですか?」
光彦さんはまばたきして、笑う。
「いや。別に」
行くか、と言われて、はい、とその肘に手を添えた。
「光彦さん、浴衣似合う」
「そうか?」
少し丈が短めだけれど、筋肉質な首もととか、筋張った手首の当たりとか、正直ヨダレものだ。
うはぁ。抱き着きたい。
けど、部屋まで我慢我慢。外でいちゃいちゃして、光彦さんのデレ顔を他の女の人に見られでもしたら嫌だもんね。
……デレてくれるか、わかんないけど。
思いながら歩いていると、光彦さんが笑った。
見上げると、細められた目が私を見やる。
「鼻歌。そんなに気持ち良かったか、温泉」
「え、あ」
自分が歌っていることに気付かなかったので、少し赤くなってうつむく。
「ええと、はい」
「よかったな」
言って、光彦さんはタオルを巻いた私のあたまをぽんぽんした。
直接触ってほしかった。
タオルを巻いて出てきたことを後悔しながら、すでに前を向いた光彦さんを見上げた。
身支度を整えて、食事の部屋に向かった。
部屋で食事、というのも考えたのだけど、ゆっくりしすぎてなかなか食べ終われないような気がしたのだ。主に私が。
食事はお刺身や海産物を中心とした料理が並んでいて、海に近い気分を存分に味わえる。明るいときならガラス越しに見えたはずの海は、日没後の今にあっては、ただ暗闇が広がるだけだった。
ガラスを手で覆い、へばりついて外を見てみるけど、やっぱり海がどこからで空がどこからか分からない。
そんな私を見て、光彦さんがまた笑った。
「ほら、とっとと食って部屋戻るぞ。明日も俺が運転なんだし」
「あ、はい」
慌てて振り向いた先に穏やかな笑顔があって、きゅんと胸がときめく。
ああ、来てよかったなぁ、と思った。
こんなに穏やかに微笑んでいる光彦さんがたくさん見られるだなんて思わなかった。
普段滅多にお目にかかれないその表情を、今日一日で何度目にしたことだろう。
その目を見る度、私はときめき、欲しくなる。
ーー光彦さんが、欲しくなる。
部屋に戻ったら、その先は。
席につくと、並んだ料理を見た光彦さんが嬉しそうな声を上げる。
私はちらりとその顔を見上げたが、手を合わせ箸を手にした光彦さんはにやりと笑った。
「お前の方が時間かかるだろ。早く食えよ」
私は慌ててお箸を持ち上げ、いただきます、と手を合わせた。
食事を終えて部屋に戻ると、もう布団が敷いてあった。
二枚の布団は、手の平二つぶんくらいの距離を置いて引かれている。
その白い敷布を見たとたん、私の胸は期待と不安に高鳴った。
ようやく、このときが。
いや、でももしこれで抱いてもらえなかったら。
っていうか、私で勃たなかったら。
思考はだんだんとマイナスへ傾いていく。
「あー、食った食った」
言いながら、光彦さんは歯ブラシを手にした。
「よかったんですか? お酒、あれだけで」
光彦さんは最初にビールを飲んだだけだ。それも、形だけでも乾杯しよう、という程度だったから、瓶で一本。私も一杯もらった。
「本格的に飲むと寝るぞ、俺は」
あっさり言って、またにやりと笑う。
「いいのか? それで」
私は赤くなった。
「……よく、ないです」
「だろ?」
光彦さんは笑って、私の分の歯ブラシを差し出した。
受け取って封を切り、口に突っ込む。
洗面台の前に並び、二人で歯を磨いていると、ただしゃわしゃわと軽い音だけが部屋に響いた。
鏡越しに目が合い、どちらからともなく照れ臭さに笑う。
歯磨きを終えて口をゆすぐと、光彦さんは私の髪を撫でた。
かと思うと、ゆるく髪をくくっていたシュシュをするりと引き抜く。
そのシュシュは、ホワイトデーの食事の後、駅近くを歩いていて見つけ、光彦さんが買ってくれたものだ。
艶やかなピンク色のサテンに、白いレース。
「一人じゃ絶対買えねぇな」
言いながら財布を出してくれたことを思い出す。
買ってくれ、と言った訳ではなかった。ただたまたま、二人で同じものに目が行き、あれ可愛い、と、お前に似合いそうだな、という言葉が重なった。
そんな、嬉しい思い出のあるシュシュ。
「やっぱり似合ってる」
光彦さんは言って、抜き取ったシュシュを私の頭の上にちょんと置いた。
まだ歯磨き中の私は、むくれてシュシュに手を伸ばす。
「もー」
光彦さんは笑って、部屋へと入って行った。
私はシュシュを手首にはめ、口をゆすいで後を追う。
心臓がドキドキいっていた。
光彦さんは壁際に寄せられた机の前に腰かけ、チェックインのときにもらった観光パンフレットを広げていた。
その後ろに、ゆっくりと近づく。
黙って、肩の上に手を伸ばし、後ろから抱きしめた。
「……寝ないんですか?」
耳元でつぶやくと、んー、と生返事が返ってくる。
もしかして、このまま何もしない気じゃ……
ふとそんな予感が頭をよぎったとき、光彦さんが振り向いた。
私の手首を優しく掴み、鼻に鼻を寄せる。
「いいのか?」
まっすぐ私の目を見つめる鋭い視線と、わずかに掠れた低い声に、下腹部が甘く痺れた。
初めてなわけでもないのに、私は真っ赤になって頷く。
欲しい。
光彦さんが、欲しいの。
喉元まで出かけた言葉は、あまりに恥ずかしくて飲み込む。
ふ、と光彦さんが笑った。
私の手首を片手で押さえたまま、もう片方の手を腰に回す。
その指が少し触れるだけで感じてしまって、泣きそうになった。
「……変です」
「何が?」
「媚薬でも飲んだみたい」
半分混乱状態の頭でそう言うと、光彦さんはさもおかしそうに声をあげて笑った。
「勝手に飲んだのか?」
「の、飲むわけないじゃないですか」
私は力無い目で光彦さんを睨む。顔は真っ赤で、光彦さんが触れている手首と腰はビリビリしていて、身体中が熱くなってくる。
それでも涼しげな顔をしている光彦さんが悔しくて、私は柔らかくつかまれていた手を振りほどくと、改めて首に抱き着いた。
その厚い唇に吸い付く。
ーーけど、すぐに光彦さんに主導権を取られた。
唇を割って入る舌先は、私の歯の内側をゆっくりと愛撫し、舌を絡め取る。
口の端からあふれそうになる唾液を、光彦さんは音を立てて吸い上げ、ちゅ、と触れるだけのキスをする。
挑発するような視線が私の目を覗き込み、私はそれだけで濡れていく。
くちゅ、くちゅ、と重なった唇から聞こえる水音が、耳から脳を溶かしていく。
酸素が足りていないのかもしれない。光彦さんに酔ってしまったのかもしれない。
どうしよう、キスだけでこんなに、幸せ。
マグロのような女と思われたくなくて、光彦さんにも気持ち良くなってほしくて、思い出したように反撃をもくろむけれど、すぐに私の舌先は力を失って光彦さんに絡めとられる。
「む、ふ、ぅーー、ん」
光彦さんは私の頬に添えた手を、するりと首もとに下ろした。
「ぁ、はぅ」
その指先の愛撫にすら、身体が反応する。
もう目は涙で潤んでいた。
「まだキスだけだぞ」
光彦さんは言いながら喉の奥で笑い、私の鼻頭に口づけて、首へと舌を這わせる。
ざらりとした舌の愛撫に、ぞくぞくと背筋を快感が走った。
「はぁっ、」
光彦さんの手が、浴衣の衿元へと入っていく。ブラジャーの中に指先を入れられ、硬くなった頂きをつまむ。
「ぁんっ」
「そそるな、この絵」
光彦さんの息が胸元にかかり、また私を高ぶらせた。
だらしなく開いた衿元からは、二つの丘が顔をのぞかせている。光彦さんは柔らかな膨らみの間に鼻を寄せ、ちゅ、と音を立てて吸い付いた。
下着は新調したばかりのものだ。いつもはフルカップを選ぶけれど、今日のために少し小さいカップにした。胸の谷間が綺麗に見えて、柔らかそうな、触りたくなるような胸に見えるものを、と選んだのだ。
光彦さんは機嫌よさそうにその胸元に顔を擦り寄せ、片方の手でカップの中を、もう片方の手で私の腰やくびれあたりを撫でた。その手つきは優しくて、かと思うとときどき意地悪で、私の口からは知らず、甘い嬌声が漏れる。
「外していい?」
聞かれて、頷く。背中に回された手が動くと、胸が解放された。光彦さんは私と唇を合わせながら、肩紐と浴衣を私の肩からゆっくり下ろす。
片方だけ下ろしたところで、手を胸へと添えた。
大きな手に包まれ、揉まれ、頂きをこすられ、つままれ、下から掬い上げられたかと思うと強く口で吸われる。
「ぁ、あ、ん、みつひ、こさん」
舌っ足らずな私の声は、ほとんど成人向けアニメみたいだ。恥ずかしくて口を閉ざそうとするが、光彦さんは笑ってその手をどかす。
「この部屋の近くは空き部屋だから安心しろ」
私は目をまたたかせた。いつの間にそんなこと、確認したんだろう。
光彦さんはにやりとしながらまた私の唇を吸う。しばらくそれを堪能した後、ゆるゆると布団に押し倒された。
上向きに寝転んでもなお、私の胸は小山を作っている。光彦さんはそれを感心したように見て、味を確認するように乳首に吸い付いた。
「んっ……」
愛撫を受けながら、もの足りなさに膝をすり合わせる。すり合わせた膝の先にあるそこに、触って欲しい。私の気持ちを察したかのように、光彦さんの手が浴衣の裾を割り、内股を通ってショーツのステッチを撫でる。
「はぁ……」
ショーツ越しにしばらく上下させると、じわりじわりとショーツが濡れてくるのが自分でも分かった。恥ずかしさに真っ赤になる。
「み、光彦さん……電気、消して」
こんな明るい中でするだなんて、恥ずかしくてたまらない。私が懇願すると、光彦さんはああ、と立ち上がった。
身体の奥の疼きと熱が、すっかり私を麻痺させている。
電気が消えた。レースカーテン越しの灯台の明かりが、わずかに室内を照らし出す。
光彦さんが近づいて来る方から、しゅる、と衣擦れの音がした。
光彦さんも裸になるんだ。
今まで望んでいたことなのに、ドキドキして動転する。
ぱさり、と浴衣が落ちる音がして、光彦さんが私に軽く覆いかぶさった。私の髪を撫でながら、頬にキスを落とす。
私は残っていた方の浴衣を肩から取り去り、光彦さんの首に抱き着いた。
直接触れた胸と胸が、互いの鼓動と温もりを伝える。
「光彦さん……好き」
「……ああ」
光彦さんは小さく言って、私の唇に唇を重ねた。
同時に、手での愛撫を再開する。
私はあっという間に溶かされていって、結局自分から、光彦さんの指先を自分の中へと誘導したのだった。
また絵になる姿だなぁ、なんて見惚れて、声をかけるのをためらった。
けど、光彦さんはすぐに私に気づいて目を上げた。新聞を畳んでラックに戻す。
「早かったな」
言われて、微笑む。
「髪、まだ乾かしてなくて。部屋で乾かします」
「乾かしてきてよかったのに」
私は光彦さんを見上げた。
「新聞、読んでたかったですか?」
光彦さんはまばたきして、笑う。
「いや。別に」
行くか、と言われて、はい、とその肘に手を添えた。
「光彦さん、浴衣似合う」
「そうか?」
少し丈が短めだけれど、筋肉質な首もととか、筋張った手首の当たりとか、正直ヨダレものだ。
うはぁ。抱き着きたい。
けど、部屋まで我慢我慢。外でいちゃいちゃして、光彦さんのデレ顔を他の女の人に見られでもしたら嫌だもんね。
……デレてくれるか、わかんないけど。
思いながら歩いていると、光彦さんが笑った。
見上げると、細められた目が私を見やる。
「鼻歌。そんなに気持ち良かったか、温泉」
「え、あ」
自分が歌っていることに気付かなかったので、少し赤くなってうつむく。
「ええと、はい」
「よかったな」
言って、光彦さんはタオルを巻いた私のあたまをぽんぽんした。
直接触ってほしかった。
タオルを巻いて出てきたことを後悔しながら、すでに前を向いた光彦さんを見上げた。
身支度を整えて、食事の部屋に向かった。
部屋で食事、というのも考えたのだけど、ゆっくりしすぎてなかなか食べ終われないような気がしたのだ。主に私が。
食事はお刺身や海産物を中心とした料理が並んでいて、海に近い気分を存分に味わえる。明るいときならガラス越しに見えたはずの海は、日没後の今にあっては、ただ暗闇が広がるだけだった。
ガラスを手で覆い、へばりついて外を見てみるけど、やっぱり海がどこからで空がどこからか分からない。
そんな私を見て、光彦さんがまた笑った。
「ほら、とっとと食って部屋戻るぞ。明日も俺が運転なんだし」
「あ、はい」
慌てて振り向いた先に穏やかな笑顔があって、きゅんと胸がときめく。
ああ、来てよかったなぁ、と思った。
こんなに穏やかに微笑んでいる光彦さんがたくさん見られるだなんて思わなかった。
普段滅多にお目にかかれないその表情を、今日一日で何度目にしたことだろう。
その目を見る度、私はときめき、欲しくなる。
ーー光彦さんが、欲しくなる。
部屋に戻ったら、その先は。
席につくと、並んだ料理を見た光彦さんが嬉しそうな声を上げる。
私はちらりとその顔を見上げたが、手を合わせ箸を手にした光彦さんはにやりと笑った。
「お前の方が時間かかるだろ。早く食えよ」
私は慌ててお箸を持ち上げ、いただきます、と手を合わせた。
食事を終えて部屋に戻ると、もう布団が敷いてあった。
二枚の布団は、手の平二つぶんくらいの距離を置いて引かれている。
その白い敷布を見たとたん、私の胸は期待と不安に高鳴った。
ようやく、このときが。
いや、でももしこれで抱いてもらえなかったら。
っていうか、私で勃たなかったら。
思考はだんだんとマイナスへ傾いていく。
「あー、食った食った」
言いながら、光彦さんは歯ブラシを手にした。
「よかったんですか? お酒、あれだけで」
光彦さんは最初にビールを飲んだだけだ。それも、形だけでも乾杯しよう、という程度だったから、瓶で一本。私も一杯もらった。
「本格的に飲むと寝るぞ、俺は」
あっさり言って、またにやりと笑う。
「いいのか? それで」
私は赤くなった。
「……よく、ないです」
「だろ?」
光彦さんは笑って、私の分の歯ブラシを差し出した。
受け取って封を切り、口に突っ込む。
洗面台の前に並び、二人で歯を磨いていると、ただしゃわしゃわと軽い音だけが部屋に響いた。
鏡越しに目が合い、どちらからともなく照れ臭さに笑う。
歯磨きを終えて口をゆすぐと、光彦さんは私の髪を撫でた。
かと思うと、ゆるく髪をくくっていたシュシュをするりと引き抜く。
そのシュシュは、ホワイトデーの食事の後、駅近くを歩いていて見つけ、光彦さんが買ってくれたものだ。
艶やかなピンク色のサテンに、白いレース。
「一人じゃ絶対買えねぇな」
言いながら財布を出してくれたことを思い出す。
買ってくれ、と言った訳ではなかった。ただたまたま、二人で同じものに目が行き、あれ可愛い、と、お前に似合いそうだな、という言葉が重なった。
そんな、嬉しい思い出のあるシュシュ。
「やっぱり似合ってる」
光彦さんは言って、抜き取ったシュシュを私の頭の上にちょんと置いた。
まだ歯磨き中の私は、むくれてシュシュに手を伸ばす。
「もー」
光彦さんは笑って、部屋へと入って行った。
私はシュシュを手首にはめ、口をゆすいで後を追う。
心臓がドキドキいっていた。
光彦さんは壁際に寄せられた机の前に腰かけ、チェックインのときにもらった観光パンフレットを広げていた。
その後ろに、ゆっくりと近づく。
黙って、肩の上に手を伸ばし、後ろから抱きしめた。
「……寝ないんですか?」
耳元でつぶやくと、んー、と生返事が返ってくる。
もしかして、このまま何もしない気じゃ……
ふとそんな予感が頭をよぎったとき、光彦さんが振り向いた。
私の手首を優しく掴み、鼻に鼻を寄せる。
「いいのか?」
まっすぐ私の目を見つめる鋭い視線と、わずかに掠れた低い声に、下腹部が甘く痺れた。
初めてなわけでもないのに、私は真っ赤になって頷く。
欲しい。
光彦さんが、欲しいの。
喉元まで出かけた言葉は、あまりに恥ずかしくて飲み込む。
ふ、と光彦さんが笑った。
私の手首を片手で押さえたまま、もう片方の手を腰に回す。
その指が少し触れるだけで感じてしまって、泣きそうになった。
「……変です」
「何が?」
「媚薬でも飲んだみたい」
半分混乱状態の頭でそう言うと、光彦さんはさもおかしそうに声をあげて笑った。
「勝手に飲んだのか?」
「の、飲むわけないじゃないですか」
私は力無い目で光彦さんを睨む。顔は真っ赤で、光彦さんが触れている手首と腰はビリビリしていて、身体中が熱くなってくる。
それでも涼しげな顔をしている光彦さんが悔しくて、私は柔らかくつかまれていた手を振りほどくと、改めて首に抱き着いた。
その厚い唇に吸い付く。
ーーけど、すぐに光彦さんに主導権を取られた。
唇を割って入る舌先は、私の歯の内側をゆっくりと愛撫し、舌を絡め取る。
口の端からあふれそうになる唾液を、光彦さんは音を立てて吸い上げ、ちゅ、と触れるだけのキスをする。
挑発するような視線が私の目を覗き込み、私はそれだけで濡れていく。
くちゅ、くちゅ、と重なった唇から聞こえる水音が、耳から脳を溶かしていく。
酸素が足りていないのかもしれない。光彦さんに酔ってしまったのかもしれない。
どうしよう、キスだけでこんなに、幸せ。
マグロのような女と思われたくなくて、光彦さんにも気持ち良くなってほしくて、思い出したように反撃をもくろむけれど、すぐに私の舌先は力を失って光彦さんに絡めとられる。
「む、ふ、ぅーー、ん」
光彦さんは私の頬に添えた手を、するりと首もとに下ろした。
「ぁ、はぅ」
その指先の愛撫にすら、身体が反応する。
もう目は涙で潤んでいた。
「まだキスだけだぞ」
光彦さんは言いながら喉の奥で笑い、私の鼻頭に口づけて、首へと舌を這わせる。
ざらりとした舌の愛撫に、ぞくぞくと背筋を快感が走った。
「はぁっ、」
光彦さんの手が、浴衣の衿元へと入っていく。ブラジャーの中に指先を入れられ、硬くなった頂きをつまむ。
「ぁんっ」
「そそるな、この絵」
光彦さんの息が胸元にかかり、また私を高ぶらせた。
だらしなく開いた衿元からは、二つの丘が顔をのぞかせている。光彦さんは柔らかな膨らみの間に鼻を寄せ、ちゅ、と音を立てて吸い付いた。
下着は新調したばかりのものだ。いつもはフルカップを選ぶけれど、今日のために少し小さいカップにした。胸の谷間が綺麗に見えて、柔らかそうな、触りたくなるような胸に見えるものを、と選んだのだ。
光彦さんは機嫌よさそうにその胸元に顔を擦り寄せ、片方の手でカップの中を、もう片方の手で私の腰やくびれあたりを撫でた。その手つきは優しくて、かと思うとときどき意地悪で、私の口からは知らず、甘い嬌声が漏れる。
「外していい?」
聞かれて、頷く。背中に回された手が動くと、胸が解放された。光彦さんは私と唇を合わせながら、肩紐と浴衣を私の肩からゆっくり下ろす。
片方だけ下ろしたところで、手を胸へと添えた。
大きな手に包まれ、揉まれ、頂きをこすられ、つままれ、下から掬い上げられたかと思うと強く口で吸われる。
「ぁ、あ、ん、みつひ、こさん」
舌っ足らずな私の声は、ほとんど成人向けアニメみたいだ。恥ずかしくて口を閉ざそうとするが、光彦さんは笑ってその手をどかす。
「この部屋の近くは空き部屋だから安心しろ」
私は目をまたたかせた。いつの間にそんなこと、確認したんだろう。
光彦さんはにやりとしながらまた私の唇を吸う。しばらくそれを堪能した後、ゆるゆると布団に押し倒された。
上向きに寝転んでもなお、私の胸は小山を作っている。光彦さんはそれを感心したように見て、味を確認するように乳首に吸い付いた。
「んっ……」
愛撫を受けながら、もの足りなさに膝をすり合わせる。すり合わせた膝の先にあるそこに、触って欲しい。私の気持ちを察したかのように、光彦さんの手が浴衣の裾を割り、内股を通ってショーツのステッチを撫でる。
「はぁ……」
ショーツ越しにしばらく上下させると、じわりじわりとショーツが濡れてくるのが自分でも分かった。恥ずかしさに真っ赤になる。
「み、光彦さん……電気、消して」
こんな明るい中でするだなんて、恥ずかしくてたまらない。私が懇願すると、光彦さんはああ、と立ち上がった。
身体の奥の疼きと熱が、すっかり私を麻痺させている。
電気が消えた。レースカーテン越しの灯台の明かりが、わずかに室内を照らし出す。
光彦さんが近づいて来る方から、しゅる、と衣擦れの音がした。
光彦さんも裸になるんだ。
今まで望んでいたことなのに、ドキドキして動転する。
ぱさり、と浴衣が落ちる音がして、光彦さんが私に軽く覆いかぶさった。私の髪を撫でながら、頬にキスを落とす。
私は残っていた方の浴衣を肩から取り去り、光彦さんの首に抱き着いた。
直接触れた胸と胸が、互いの鼓動と温もりを伝える。
「光彦さん……好き」
「……ああ」
光彦さんは小さく言って、私の唇に唇を重ねた。
同時に、手での愛撫を再開する。
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