期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。

12 マネージャーの笑顔に御用心。

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 アイス事件の翌朝。本日も晴天ナリ。
 前田に借りたジャージは今絶賛お洗濯中。男物だし気にせず干していいかと外干ししてきた。この様子ならゲリラ豪雨でもなければ今日中には乾くだろう。
 それにしても、返しに行くの憂鬱だわー。あの性悪男のことだ、きっと厭味の一つや二つや三つや四つ、平気で言うに違いない。いや、いっそ言われた方がいいかも。あの呆れたような目で黙って嘆息でもされたら、傷つきやすい私のハートはきっとひび入ってしまうことだろう。……ていうのは冗談だけど。我ながらなかなか丈夫なハートだと思うけど。でも鋼のハートとまではいかないもん、傷つくには傷つくのよ。一応。
 思いながら歩いていると、背中をぽんと叩かれた。振り向くと一人の女性が立っている。
「サリーちゃん、久しぶり。おはよー」
 見覚えのある容姿に、脳内検索機能を高速回転させる。検索結果が出て内心ホッとした。
 声をかけてきたのは、ゲーム部門に入社していた同期のデザイナー、湯崎麗羅ちゃんだ。レイラという名前がゲームのキャラクターみたいだったのと、気さくにみんなに話しかけて飲み会の企画とかもしてくれていたので、一応覚えている。
「レイラちゃん。久しぶり」
 彼女は私より二つ年下だ。赤茶色に染めた髪をくるくると巻いて、ゆるいポニーテールにしている。服はネイビーベースに白と赤がいい感じに効いていて、こだわりがありそうだと見て分かる。
「企画、採用になったんだって?おめでとー」
「ええ、とうん、ありがとう」
 表情はつい苦笑になる。嬉しいけど素直に喜べない、複雑な乙女心である。乙女心とはちょっと違うって?まあそこはそれとして。
「こないだ自由人に聞いたんだー。一緒のチームになるんでしょ?SEとしては優秀らしいよ。がんばってね」
 自由人?と首を傾げると、レイラちゃんは笑った。
「自由人とかフリーダムとか呼ばれてるの、知らない?前田くん」
 フリーダムってなんかどっかのロボットアニメにいなかったかそんなの。自由人?マイペースってことか。
 確かに人に気を遣うたちの人間ではなさそうな気はする。
「でも、サリーちゃんこっちの配属になって戸惑ってるでしょ。こっちの同期集めて飲みに行かない?私、企画するよ」
 気の利いた申し出にはっとする。頬に手を添え、涙を拭うふりをしながら喜んだ。
「レイラちゃんの優しさに惚れるー!」
「でしょでしょー。この胸に飛び込んでおいで!」
 早朝から、きゃー、とハグする女子のテンションについていけない男性社員があきれ顔で横を通り過ぎていくけれど、気にしない。そんな小さいことを気にするサリーちゃんではないのである。
「じゃ、またメールするねー」
 レイラちゃんは爽やかな笑顔で手を振り、足早に去って行った。
 そっかそっか。知り合いがいないとか文化が違うとか戸惑っているだけでいないで、少ないツテを辿ってみることもできたんだ。そんなことにも気づかないだなんて、私ってばお馬鹿さん☆てへぺろっ。
 ほくほくと温かい気持ちになりながら、鼻歌すら口ずさみつつデスクへ向かうと、佐々マネに面白がられた。
「吉田さん、今日はご機嫌みたいだね」
 言われてきりっと敬礼した。
「はいっ。やる気満々でありますっ」
「ふぅん」
 佐々マネはにこやかに言った。
「じゃあ、今日中の仕事、これとこれとこれ。お願いねっ」
 タイプじゃないおっさんに小首を傾げられても全然可愛くないんですけど!
 私は思わず拳を握って小さく震えた。
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