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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。
38 何を差し入れるか、それが問題だ。
まあそんな話をして昼休みは終わってしまった訳だけど、考えてみればアイスのお礼も言ってないなと気づいた。
とはいえ午後もしっかりみっちり仕事してーーほら、フレックスで遅めに出勤したからただでさえいつもよりちょっと遅いわけで、残業もしたらもっと遅いわけよね。で、壁にかかる時計を見やって、ああもう九時かと嘆息しながら椅子の背にもたれた私は、ふと思い立って前田のログイン状況を確認してみた。やっぱりまだいるみたい。
だらだら仕事しても意味ないし、お礼言いがてら寄って帰るか。
ひと伸びして、身支度を整えながらパソコンをシャットダウンした。
前田のシステム課は別フロアにあって、ひょこりと覗いて見ると無表情のままパソコンを叩きつづけている。よくもまぁそんなスピードで指が動くなと思うほどだ。ピアノとかもできるのかな。いや、さすがにそれは別か。そう思いながら、集中しているその横顔に話しかけるのも躊躇われる。それならば差し入れでも買ってから戻って来ようと、そろりそろりとその場を離れた。
コンビニで何を差し入れようかと考えたけど、そういえば前田の飲食物の好みって知らない。うわ、まずった。向こうは私が好きなもの知ってるのにーーってほんとこれ何で?何でなの?確かに飲み会に行けばモスコミュールかブルドックか梅酒のソーダ割を頼むけれど、あいつと飲み会行ったこと自体この前のを含めても三回だけのはず。
まあ考えても仕方ない。限られた記憶を必死でおさらいする。
梅酒は甘いって顔しかめてたなぁ。じゃあ甘いものはやめといた方がいいか。でも脳の疲れには甘いものー、って言うよね。ビターなチョコとかならいいかな。あーでも夏場だし溶けたら大変か、チョコはやめとこう。
それなら夕飯を食べてないと見越して惣菜パンはどうだろう。手が汚れないやつがいいよね。じゃあ食べやすそうなサンドイッチをーーあとはコーヒーでも買ってやるか。微糖だったら大丈夫かな。
考えながら会計を済ませ、エレベーターのボタンを押す。人に差し入れするのって案外いろいろ考えるもんだなぁ。特にそれがよく知らない人だと一層。
でも、それって差し入れだけじゃない、プレゼントだってそうだ。三十歳の誕生日を祝い、家族や香子にもらったプレゼントにふと思いを馳せる。
みんなどんな気持ちで選んでくれたんだろう。誰一人として、私の残念がる顔を思い浮かべてはいないに違いない。どれだったら喜んでくれるかーー私の笑顔を思い出しながら、あれこれ手に取ってくれたんだろうか。その温かさがありがたい。
男の人からは減点方式になってしまう私だけれど、家族や友人には本当に恵まれている。こんなに愛されちゃってサリーちゃん幸せ。自分に言い聞かせる訳ではなく本当にそう思う。
ーーそう思っているけれど、一抹の寂しさは捨てきれない。友人や家族、それとはまた違う温もりを求めるのは、多分自然なことだけれどーーそんな自分がちょっと贅沢な気もする。
元カレと別れて一ヶ月。いまだに時々、ぽっかりした気持ちを感じることはある。けれど、それはただ、今まであったものが失われたことに対する気持ちだと自分で気づき始めている。彼じゃなきゃいけない、という想いではなかった。そう気づいて小さな罪悪感にも苛まれる。
香子には、ざっきーしかいなかった。幸弘には、早紀しかいなかった。
本人もそう言っていたし、傍から見てもそれは嘘ではないのだろうと思う。
そんな人、本当にいるんだろうか。私にも。
ーーま、いなければこのままお一人様で生きていくだけか。
いずれ年老いた両親の面倒を見て、弟たちの子どもをべた可愛がりするーーそんな自分を想像する。有り得るし、そういう生き方もアリかもしれない。そう思って笑ったとき、エレベーターのドアが開いた。
とはいえ午後もしっかりみっちり仕事してーーほら、フレックスで遅めに出勤したからただでさえいつもよりちょっと遅いわけで、残業もしたらもっと遅いわけよね。で、壁にかかる時計を見やって、ああもう九時かと嘆息しながら椅子の背にもたれた私は、ふと思い立って前田のログイン状況を確認してみた。やっぱりまだいるみたい。
だらだら仕事しても意味ないし、お礼言いがてら寄って帰るか。
ひと伸びして、身支度を整えながらパソコンをシャットダウンした。
前田のシステム課は別フロアにあって、ひょこりと覗いて見ると無表情のままパソコンを叩きつづけている。よくもまぁそんなスピードで指が動くなと思うほどだ。ピアノとかもできるのかな。いや、さすがにそれは別か。そう思いながら、集中しているその横顔に話しかけるのも躊躇われる。それならば差し入れでも買ってから戻って来ようと、そろりそろりとその場を離れた。
コンビニで何を差し入れようかと考えたけど、そういえば前田の飲食物の好みって知らない。うわ、まずった。向こうは私が好きなもの知ってるのにーーってほんとこれ何で?何でなの?確かに飲み会に行けばモスコミュールかブルドックか梅酒のソーダ割を頼むけれど、あいつと飲み会行ったこと自体この前のを含めても三回だけのはず。
まあ考えても仕方ない。限られた記憶を必死でおさらいする。
梅酒は甘いって顔しかめてたなぁ。じゃあ甘いものはやめといた方がいいか。でも脳の疲れには甘いものー、って言うよね。ビターなチョコとかならいいかな。あーでも夏場だし溶けたら大変か、チョコはやめとこう。
それなら夕飯を食べてないと見越して惣菜パンはどうだろう。手が汚れないやつがいいよね。じゃあ食べやすそうなサンドイッチをーーあとはコーヒーでも買ってやるか。微糖だったら大丈夫かな。
考えながら会計を済ませ、エレベーターのボタンを押す。人に差し入れするのって案外いろいろ考えるもんだなぁ。特にそれがよく知らない人だと一層。
でも、それって差し入れだけじゃない、プレゼントだってそうだ。三十歳の誕生日を祝い、家族や香子にもらったプレゼントにふと思いを馳せる。
みんなどんな気持ちで選んでくれたんだろう。誰一人として、私の残念がる顔を思い浮かべてはいないに違いない。どれだったら喜んでくれるかーー私の笑顔を思い出しながら、あれこれ手に取ってくれたんだろうか。その温かさがありがたい。
男の人からは減点方式になってしまう私だけれど、家族や友人には本当に恵まれている。こんなに愛されちゃってサリーちゃん幸せ。自分に言い聞かせる訳ではなく本当にそう思う。
ーーそう思っているけれど、一抹の寂しさは捨てきれない。友人や家族、それとはまた違う温もりを求めるのは、多分自然なことだけれどーーそんな自分がちょっと贅沢な気もする。
元カレと別れて一ヶ月。いまだに時々、ぽっかりした気持ちを感じることはある。けれど、それはただ、今まであったものが失われたことに対する気持ちだと自分で気づき始めている。彼じゃなきゃいけない、という想いではなかった。そう気づいて小さな罪悪感にも苛まれる。
香子には、ざっきーしかいなかった。幸弘には、早紀しかいなかった。
本人もそう言っていたし、傍から見てもそれは嘘ではないのだろうと思う。
そんな人、本当にいるんだろうか。私にも。
ーーま、いなければこのままお一人様で生きていくだけか。
いずれ年老いた両親の面倒を見て、弟たちの子どもをべた可愛がりするーーそんな自分を想像する。有り得るし、そういう生き方もアリかもしれない。そう思って笑ったとき、エレベーターのドアが開いた。
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