モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

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第一章 ちかづく

17 クリスマスイヴ(2)

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「マーシー行っくよー!マイク、まさかイヴに残業させようなんて野暮なことしないよねっ?」
 なかったことにして帰ろうと密かに準備していた終業時間。
 まさかの財務部長直々のご登場に、俺は言葉をなくした。山崎部長は俺の直属の上司に笑顔で釘を刺す。
 そのお誘いをはねのけられるツワモノなどいるわけもなく、周りが唖然としている中、俺は首根っこを引っ張られるように連れていかれた。

 忘年会は財務部のおよそ20人と、派遣会社から来ている受付嬢3人、そして何故か俺だった。
 うわ。マジでアウェイ。帰りたい。
 それにしても、きれいどころの受付嬢3人、よくぞイヴの予定を押さえたものだ。全員フリーとは到底思えないのだが。
 ーーと思っていたが、忘年会が始まるなり俺が呼ばれた本当の理由が分かった。
「神崎さんは、飲み会とか良く参加するんですかぁ」
「うん。まぁ……」
 なんだこれ、3対1のお見合いか。
 おい、他の男性社員、恨めしそうに見てないで絡めよ。男を見せろ!ていうか助けてくれ!
 つまりはこいつらを呼ぶための餌か、俺は。
 そう部長の思惑を理解しながらも、大人しくその役を演じる気には到底ならなかった。
 かなり遠くに席を取っている橘からも、時々白い視線を感じる。
 針のむしろってこういうことか。
「受付さんは、みんなお若いなぁ。全員20代やろ」
 おっとりと関西訛りで割って入ってくれたのは、男性社員ではなくアラフォーの女性社員、名取葉子さん。
 仕事できるのにおっとりした感じが評判で、男女共にファンの多いーー
 って状況が悪化しとる!
 俺は内心頭を抱えた。こうなったら仕方ない。俺から周りのチキンたちを巻き込むしかない。
「20代っていえば、ユージとヤンもそうだろ」
 財務部の若手コンビは、急に振られて戸惑っている。腕の見せ所だ、先輩達も巻き込め!と願いつつそちらに微笑みかける。
「ヤンは自転車やってるんだっけ。足ガッチリしてるもんな。30過ぎると、やっぱ段々筋肉とかも落ちて来るんだよなぁ。俺も何かやろうかな」
「どれどれ」
 名取さんが脇腹をつついてくる。しまった、この人かなりの天然だった。
「えっ、マーシー腹筋割れてる?細く見えて筋肉質やなぁ。流行りの細マッチョや」
 ぺたぺたと俺の腹部に触りながら目を輝かせる名取さん。
 頼む名取さん、俺の意図を察してくれ。俺はただのオッサンの一人だと思われたいんだ。俺の筋肉の話はいいの。分かってくれ!
 そんな願いとは裏腹に、名取さんは顔を上げた。
「アーヤ、アーヤ。ちょっと来て」
 よりによって橘を呼ぶか。
 しかもその手は俺の腹に当てたままだ。
「名取さん、くすぐったいんですけど」
「枯れそうな女子の養分やもん」
 名取さんがニコニコ邪気のない笑顔で言う。
「減るもんやなし、少しくらいええやろ」
 いや、減るって。俺のHP的な何かがゴリゴリ減っている。
 橘は呼ばれて躊躇った後、仕方なくこちらにやって来た。気乗りしないのがありありと分かる。
 そりゃそーだ、散々直に触った身体だもんな。
 女でも男のくびれは触れたくなるものらしい。脇腹から腰、臀部にかけてのラインを、橘が何度か触れていたのを思い出す。
 ーーって、いらんことを思い出すな。平常心、平常心。
 橘を抱く前の俺なら、どう対応しただろう。
「なんですか?」
 橘が目の前に来たのを確認するなり、名取さんはえいっと声を出して橘の両手を俺に押し付けーー
 ようとしたが橘が抵抗して腕を引こうとしたのでバランスが崩れ、身体ごと俺の胸に倒れかかった。
 慌ててその身体を受け止める。
 名取さんがあらまぁ、と目を丸くした。
「ごめんなぁ」
「橘、大丈夫か?」
 肩を支えてやると、橘の顔が見えた。
 これ以上ないほどに真っ赤な。
 そして目が潤みはじめる。
 おーい。ちょっと待て。
 そんな顔したら、何かあったのがバレバレだろうが。
 橘の動揺っぷりに、俺も動揺する。
 しかし、ここで一緒に動揺しては、社内でどんな噂が立つかわからない。踏ん張れ、俺。
 ーー橘を抱く前の俺だったら。
「何照れてんだよ。そんなに久々だった?男に触るの」
 内心の動揺を押し隠し、にやりと笑うと俺は言った。
 橘は真っ赤な顔で言い返す。
「ち、違うわよ!失礼な!」
 俺は笑って、グラスに入ったビールを飲み干した。
 さて、いつもの通りハイボールでも行くか。
 少し自分のベースを取り戻さねば。
 思いながら、店員に声をかけた。
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