モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

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第一章 ちかづく

18 クリスマスイヴ(3)

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「神崎さんって、出身大学どこなんですかー?」
 相変わらず続く受付嬢のどうでもいい話に、ハイボールで気持ちを切り替えた俺は、当たり障りない微笑で応じていた。
「K大だけど、真面目な学生じゃなかったからな」
「え、K大ってすごーい!超高学歴ですね!」
「神崎さんって、頭もいいんだー」
「そんなことないよ。丸井さんの方がすごい」
 俺が言うと、受付嬢は俺よりいくつか上の男性社員に大学名を問う。
 T大と答えると、受付嬢たちは、えー、すごーい!と騒ぎ立てた。
「そういや、橘って大学名言わねぇよな」
 いきなり話をふられると思っていなかったらしい橘が、びくりと肩を震わせた。
 こちらに移動したら、早々に山崎部長に席を奪われ、戻る場所がなくなって俺の隣にいる。
「いやー。まあ、言うほどのことでは」
「ふぅん。なんか知り合いの話に似てるから、もしかしてと思ってたんだけどなぁ」
 橘は目線を逸らした。俺は意地悪な笑みを浮かべてその顔を覗き込む。
「……何で言わねぇの?お前も、T大」
 言い終わるより先に、橘の手が俺の口を覆った。
 目が言うなと必死に訴えている。
 俺はその手を引きはがすと、嘆息した。
「努力の結果の一つじゃねぇの。いいじゃん、多少誇っても」
「男のあんたにはわかんないわよ」
 橘は梅酒のお湯割を飲みながら唇を尖らせ、小声で言った。
「知ってたら行かなかったわ。もしくは覚悟して入った。女には立派すぎる肩書きや学歴は邪魔なときがあるのよ」
 俺はふぅんと気のない返事をする。
「つったって、もう変えられるものでもないだろ。自分が受け止めなくてどうするんだよ」
 橘は俺を睨みつけるように見た。関係ない奴が口出すなってことだろうが、今言わなければ多分言う機会はないだろう。
 もう二人で飲みに行くこともないだろうから。
「そんなこと気にするような小さい男は、こっちから願い下げだ、って言ってた子がいたぞ」
 弟の婚約者を思い出しながら俺は言う。自然と笑みがこぼれた。あの子の物言いはなかなかに清々しい。
「そんなこと……言うほどの、自信ないわよ」
「自信の有無じゃないと思うぞ」
 ーー自分より昇進したり、収入多くても嫌なのかな。
 彼女の言葉を思い出しつつ、俺は首を傾げながら言った。
「力を出し切れないような環境に自分を置きたくないってことじゃないかな。多分」
 橘はようやく俺の顔を見た。
「弟くんのフィアンセ?その台詞、言ったの」
 俺が頷くと、橘は脱力するようなため息をついた。
「そっかぁ。しっかりしてる子なんだね。若いのに」
 いや、多分あのカップルが変に老成してるんだ。
 俺は半ば自分に言い聞かせるように思った。
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