24 / 126
第一章 ちかづく
24 兄と弟(2)
しおりを挟む
「お前ってさ、香子ちゃん以外と付き合った子いるの?」
浮き立った姿を見たことがないので、俺が問うと、隼人は苦笑した。
「うーん。何度か食事行ったりは、したことあるけど……それくらいかな」
「マジで?……いや、馬鹿にしてるわけじゃなくて。女に言い寄られたとき、どうやってスルーしてたの」
俺は素朴に疑問だったのだ。このスペックで、女が寄って来ないはずがない。どうやってそれをかわしていたというのか。
「必要以上に近づかなければ、相手も分かるよ」
隼人は答えた。
「その人によって、置くべき距離は違うけど。時々、はっきり言わなきゃわからない人もいるし」
我が身に置き換えて考えるが、そんなことができそうにもない。つーかいちいちめんどくさい。
それを察したのか、隼人は続けた。
「兄さん、なんだかんだ言って人付き合いがいいよね。どうでもいいと思ってる人でも、誘われると断らないじゃない」
「お前は断るの?」
「うん。割とはっきり断るよ。興味ないって」
俺は思わず感心した。ついつい断る理由もないと思ってしまうが、隼人はそうではないらしい。
「女の人ともそうでしょ。フリーのときに誘われると、恋人もいないし、いいか、ってなる」
鋭い。
俺は否定出来ず、黙ったまま、空いたグラスにブランデーをつぎ足した。
「俺は、逆にそういう人付き合いできないから。大切にしたいと思う人との関係だけでいっぱいいっぱい」
耳に痛い。俺は強がってにやりと笑った。
「でも、大切な人、満足させてあげようと思えば、経験も必要じゃないの。結婚って、身体の相性も大事って言うだろ」
隼人はますます苦笑を濃くする。
「どうかな。でも、お互い比べる経験がなければ、それはそれで大丈夫なような気がしてるよ」
ーーそれって、もしかして。
「香子ちゃんと、まだ寝てないの?」
俺は表情が強張るのを感じた。
隼人はブランデーを口にしながら一瞬躊躇い、ごくわずかに頷く。
「彼女の希望だから。……姉さんもそう言ってたでしょ。婚前にはしないって」
「言ってはいたけど……」
その件についてのコメントは差し控えて置くことにして、
「お前の部屋行き来してて、そういうことがないなんて。鋼の意思か」
「そういう訳じゃないけど……まあ、堪えてはいる。いろいろと」
まあ、そうだろう。好きな女と二人でいれば。
「てことは、童貞と処女ってことか」
隼人はあからさまに嫌そうな顔をした。そういう下世話な言葉で現してほしくないんだろう。
ただの同期でありながら身体の関係を持った俺と橘。
婚約までしていながらプラトニックな関係を続けている隼人と香子ちゃん。
「お前と俺、足して二で割ればちょうどいいんだろうになぁ……」
「よくない」
隼人は唇を尖らせた。年下の弟らしく見える顔だ。
「そしたらきっと香子ちゃんに好きになってもらえなかったよ」
そういうもんか、と俺は弟のむくれた顔を見て笑った。
浮き立った姿を見たことがないので、俺が問うと、隼人は苦笑した。
「うーん。何度か食事行ったりは、したことあるけど……それくらいかな」
「マジで?……いや、馬鹿にしてるわけじゃなくて。女に言い寄られたとき、どうやってスルーしてたの」
俺は素朴に疑問だったのだ。このスペックで、女が寄って来ないはずがない。どうやってそれをかわしていたというのか。
「必要以上に近づかなければ、相手も分かるよ」
隼人は答えた。
「その人によって、置くべき距離は違うけど。時々、はっきり言わなきゃわからない人もいるし」
我が身に置き換えて考えるが、そんなことができそうにもない。つーかいちいちめんどくさい。
それを察したのか、隼人は続けた。
「兄さん、なんだかんだ言って人付き合いがいいよね。どうでもいいと思ってる人でも、誘われると断らないじゃない」
「お前は断るの?」
「うん。割とはっきり断るよ。興味ないって」
俺は思わず感心した。ついつい断る理由もないと思ってしまうが、隼人はそうではないらしい。
「女の人ともそうでしょ。フリーのときに誘われると、恋人もいないし、いいか、ってなる」
鋭い。
俺は否定出来ず、黙ったまま、空いたグラスにブランデーをつぎ足した。
「俺は、逆にそういう人付き合いできないから。大切にしたいと思う人との関係だけでいっぱいいっぱい」
耳に痛い。俺は強がってにやりと笑った。
「でも、大切な人、満足させてあげようと思えば、経験も必要じゃないの。結婚って、身体の相性も大事って言うだろ」
隼人はますます苦笑を濃くする。
「どうかな。でも、お互い比べる経験がなければ、それはそれで大丈夫なような気がしてるよ」
ーーそれって、もしかして。
「香子ちゃんと、まだ寝てないの?」
俺は表情が強張るのを感じた。
隼人はブランデーを口にしながら一瞬躊躇い、ごくわずかに頷く。
「彼女の希望だから。……姉さんもそう言ってたでしょ。婚前にはしないって」
「言ってはいたけど……」
その件についてのコメントは差し控えて置くことにして、
「お前の部屋行き来してて、そういうことがないなんて。鋼の意思か」
「そういう訳じゃないけど……まあ、堪えてはいる。いろいろと」
まあ、そうだろう。好きな女と二人でいれば。
「てことは、童貞と処女ってことか」
隼人はあからさまに嫌そうな顔をした。そういう下世話な言葉で現してほしくないんだろう。
ただの同期でありながら身体の関係を持った俺と橘。
婚約までしていながらプラトニックな関係を続けている隼人と香子ちゃん。
「お前と俺、足して二で割ればちょうどいいんだろうになぁ……」
「よくない」
隼人は唇を尖らせた。年下の弟らしく見える顔だ。
「そしたらきっと香子ちゃんに好きになってもらえなかったよ」
そういうもんか、と俺は弟のむくれた顔を見て笑った。
1
あなたにおすすめの小説
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる