98 / 99
第三章 さくらさく
エピローグ
しおりを挟む
橘家でのホームパーティーからの帰り道、桜の花が風に舞って腕についた。
「咲也」
その花びらを手にしながら、私は呼びかける。
「なぁに」
咲也が変わらず穏やかに応じた。
「毎年、桜を見ようね。一緒に」
私の声は、弾んでいる。
二人で行く花見を思い浮かべた。
彼は彼の好きなお酒を持たせて、私は焼酎とお湯を持って。そうして刻んでいくのだ、私たちの毎日を。毎年をーーおじいちゃんおばあちゃんになるまで。
そんな月並みな幸せが、楽しみになる日が来るだなんて、思いもしなかった。
「いいけど、翌日に熱、出したりしないでね」
咲也は困ったような笑顔で言う。
私はわざとらしく唇を尖らせた。
「いいじゃないよぉ。看病してくれる人もいるし」
「看病させる気満々?」
咲也が笑う。私も笑った。
「だって、散々心配させたんだからね」
私が咲也の肩を叩くと、咲也はふわりと笑った。
「心配してくれて、ありがとう」
私も、おうよ、と答える。
前を向いた咲也は、不意に言った。
「そういえば、いいの?」
「何が」
「あきちゃんの、お母さん」
私は咲也の横顔を見やった。
その視線を、また前に戻す。
ーーもう、頑なになる必要もないような気がした。
「新婚旅行、としゃれ込むのもいいかもね」
「新婚旅行?」
「九州、温泉たくさんあるよ。ーーでも、期待はしないでね。うちの母」
咲也は笑った。
「うん。でも、お礼は言わなきゃ」
「何を?」
「あきちゃん、産んでくれてありがとうって」
私は思わぬ言葉に目をまたたかせた。咲也はその様子にまた笑う。私もつられて笑った。
和やかに話しながら、私たちは歩いていく。
二年前と同じ家へ向かって。
家に着いたら、大きな声で言うんだ。
ただいま、って。
そして、おかえり、って。
ちょっと風変わりな私たちの毎日は、多分人並みに過ぎて行くんだろう。
そこそこ、苦労もしながら。
そして、そこそこ、幸せに。
そうであればいいなとーー
そう、願っている。
FIN
* * *
最後までご覧くださり、ありがとうございました!
松丹子 拝
「咲也」
その花びらを手にしながら、私は呼びかける。
「なぁに」
咲也が変わらず穏やかに応じた。
「毎年、桜を見ようね。一緒に」
私の声は、弾んでいる。
二人で行く花見を思い浮かべた。
彼は彼の好きなお酒を持たせて、私は焼酎とお湯を持って。そうして刻んでいくのだ、私たちの毎日を。毎年をーーおじいちゃんおばあちゃんになるまで。
そんな月並みな幸せが、楽しみになる日が来るだなんて、思いもしなかった。
「いいけど、翌日に熱、出したりしないでね」
咲也は困ったような笑顔で言う。
私はわざとらしく唇を尖らせた。
「いいじゃないよぉ。看病してくれる人もいるし」
「看病させる気満々?」
咲也が笑う。私も笑った。
「だって、散々心配させたんだからね」
私が咲也の肩を叩くと、咲也はふわりと笑った。
「心配してくれて、ありがとう」
私も、おうよ、と答える。
前を向いた咲也は、不意に言った。
「そういえば、いいの?」
「何が」
「あきちゃんの、お母さん」
私は咲也の横顔を見やった。
その視線を、また前に戻す。
ーーもう、頑なになる必要もないような気がした。
「新婚旅行、としゃれ込むのもいいかもね」
「新婚旅行?」
「九州、温泉たくさんあるよ。ーーでも、期待はしないでね。うちの母」
咲也は笑った。
「うん。でも、お礼は言わなきゃ」
「何を?」
「あきちゃん、産んでくれてありがとうって」
私は思わぬ言葉に目をまたたかせた。咲也はその様子にまた笑う。私もつられて笑った。
和やかに話しながら、私たちは歩いていく。
二年前と同じ家へ向かって。
家に着いたら、大きな声で言うんだ。
ただいま、って。
そして、おかえり、って。
ちょっと風変わりな私たちの毎日は、多分人並みに過ぎて行くんだろう。
そこそこ、苦労もしながら。
そして、そこそこ、幸せに。
そうであればいいなとーー
そう、願っている。
FIN
* * *
最後までご覧くださり、ありがとうございました!
松丹子 拝
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる