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第一章 こちふかば
12 酔うとなったら徹底的に
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「ーーったく、お前は!三十になってもまだ酒量が分からないか!」
途中で咲也くんと代わり、子どもたちと遊んでいた神崎さんは、帰ってくるなり私を叱り付けた。
「えー分かってますよぅーだいじょぶです、先輩のお手はわずらわせませんー」
「既にわずらわせてると気付け!担いで帰るぞ!」
飲みっぷりを評価されて、不動産屋のおじさんおばさんからも日本酒を注がれて、ついつい酒が進んでしまった。途中から面倒くさくなって黒糖焼酎をそのまま飲んでいた私は、夕方になる頃にはすっかりべろんべろん。
このふわっふわ感がねー。気持ちいいんだよねー。
「うわっ。一人でこんな量飲んでやがる」
焼酎の瓶を持ち上げた神崎さんは、ほとんど無くなりかけた中身を見て、心底嫌そうな声を出した。
ええ?だってそれ神崎さんが持って来たんじゃん。黒糖焼酎なんて飲むの私だけでしょ。ってことは私が全部飲んでいいから持ってきたんでしょ。
思うが、言うのが面倒なので口には出さない。
「これで二日酔いになんねぇからタチが悪い」
「酒豪やからなぁ」
呆れた神崎さんに応じるヨーコさんは、ほんのり目尻を赤く染めている。
ああっ、駄目ですヨーコさん。そんな目してたら襲われちゃうー。
……ていうか襲っちゃうー。
「ヨーコさぁん」
私が抱き着くと、ヨーコさんはやんわりと受け止めてくれた。ふわぁ。胸が柔らかくて気持ちいい。すりすり頬ずりしていると、神崎さんが額を押さえている。
「江原。ジョーに殺される前に離れとけ」
「さすがにジョーも女の子には手ぇ出さへんよ」
ヨーコさんは私の頭をヨシヨシと撫でてくれる。
「ヨーコさんちのペットになるー」
「さすがに二匹は無理やわー」
「じゃあ一匹追い出せばいいー」
「なるほどな。その手があった」
「ヨーコさぁん」
安田さんが涙目になっている。わずかな優越感を覚えつつ、ヨーコさんの温もりにしがみつく。
「ヨーコさんだぁいすき」
「うちも好きやで」
「きゃー両想いー」
安田さんがどうしたものかと困惑した顔をしているのが面白い。神崎さんが私の衿元を掴んだ。
「この酔っ払い……。いい加減離れろって」
「疲れてるんやろ。三月いっぱい忙しかったんやし」
財務部は三月末の株主総会までが山場だ。ほとんど家に帰れない日が続いていたのは確か。
ヨーコさんの優しい手は変わらず私の髪を撫でてくれる。その温もりに、ああこんな人がお母さんだったらなぁ、なんて思っちゃう。
結婚した時点で四十半ばだったヨーコさんのところには子どもがいない。安田さんが子どもみたいなもんだと笑っていたけど、きっといろんな想いはあることだろう。
ーー二人は、何のために夫婦になったんだろう。
まだ失っていない理性が、いきなりの賢者タイムを告げる。
結婚する。夫婦になる。
子どもを持つ、持たないとは無関係なら、二人でいることに、どうして契約が必要なのだろう。
互いが自由意思で隣にいることを選んだのなら、自由意思のままでいい。契約など必要ない。もし、どちらか一方が、その隣を離れようと選択したとしたら、その契約はただの足かせにしかならない。
それなのに、人は結婚する。結婚することを望み、選び、勧める。
ーーああ、駄目駄目。こんな桜の花が舞う公園でこんなことを考えることが、自分が酔ってる証だろう。
「私は置いて行ってくださいー」
「何言ってんだ。帰るぞ」
「かーえーんーなーいー」
私はヨーコさんから離れて、咲也くんの腕にすがりついた。
服を通しても分かる、ヨーコさんのそれとは全く異なった、硬い質感。
「まだ咲也くんと飲むのー」
「この酔っ払い……」
神崎さんが困惑して咲也くんを見た。困った顔の咲也くんは、しかし穏やかに笑っている。
やっさしー。
ついつい私が笑ったとき、ふわりと身体が浮いた。
「他人に迷惑かけんな。帰るぞ」
咄嗟に掴んだ腕は、神崎さんのものだ。
間近に感じた声に、身体中がすくむ。
「ーーって何やってんすかー!」
普通の女子だったらときめくところかもしれないが、私からしたら刃物を突きつけられたような、一気に冷水を浴びせられたような、そんな気分だ。
「てめぇが言うこと聞かねぇからだろうが!」
「ちょ、マジ勘弁してください!死ぬ!死んじゃう!」
「落とさねぇから安心しろ」
羞恥で死ぬと言いたかったのだが、そうは取ってもらえなかったらしい。
神崎さんは言うなり、お姫様抱っこからくるりと私の身体を反転させ、俵抱きに切り替えた。
お姫様抱っこも恥ずかしいけどそれも恥ずかしい!
「ええなぁ、アキちゃん」
「ヨーコさん、いつも俺がやってるじゃないですか」
こらそこの夫婦!まったり痴話喧嘩してないで助けろ!
途中で咲也くんと代わり、子どもたちと遊んでいた神崎さんは、帰ってくるなり私を叱り付けた。
「えー分かってますよぅーだいじょぶです、先輩のお手はわずらわせませんー」
「既にわずらわせてると気付け!担いで帰るぞ!」
飲みっぷりを評価されて、不動産屋のおじさんおばさんからも日本酒を注がれて、ついつい酒が進んでしまった。途中から面倒くさくなって黒糖焼酎をそのまま飲んでいた私は、夕方になる頃にはすっかりべろんべろん。
このふわっふわ感がねー。気持ちいいんだよねー。
「うわっ。一人でこんな量飲んでやがる」
焼酎の瓶を持ち上げた神崎さんは、ほとんど無くなりかけた中身を見て、心底嫌そうな声を出した。
ええ?だってそれ神崎さんが持って来たんじゃん。黒糖焼酎なんて飲むの私だけでしょ。ってことは私が全部飲んでいいから持ってきたんでしょ。
思うが、言うのが面倒なので口には出さない。
「これで二日酔いになんねぇからタチが悪い」
「酒豪やからなぁ」
呆れた神崎さんに応じるヨーコさんは、ほんのり目尻を赤く染めている。
ああっ、駄目ですヨーコさん。そんな目してたら襲われちゃうー。
……ていうか襲っちゃうー。
「ヨーコさぁん」
私が抱き着くと、ヨーコさんはやんわりと受け止めてくれた。ふわぁ。胸が柔らかくて気持ちいい。すりすり頬ずりしていると、神崎さんが額を押さえている。
「江原。ジョーに殺される前に離れとけ」
「さすがにジョーも女の子には手ぇ出さへんよ」
ヨーコさんは私の頭をヨシヨシと撫でてくれる。
「ヨーコさんちのペットになるー」
「さすがに二匹は無理やわー」
「じゃあ一匹追い出せばいいー」
「なるほどな。その手があった」
「ヨーコさぁん」
安田さんが涙目になっている。わずかな優越感を覚えつつ、ヨーコさんの温もりにしがみつく。
「ヨーコさんだぁいすき」
「うちも好きやで」
「きゃー両想いー」
安田さんがどうしたものかと困惑した顔をしているのが面白い。神崎さんが私の衿元を掴んだ。
「この酔っ払い……。いい加減離れろって」
「疲れてるんやろ。三月いっぱい忙しかったんやし」
財務部は三月末の株主総会までが山場だ。ほとんど家に帰れない日が続いていたのは確か。
ヨーコさんの優しい手は変わらず私の髪を撫でてくれる。その温もりに、ああこんな人がお母さんだったらなぁ、なんて思っちゃう。
結婚した時点で四十半ばだったヨーコさんのところには子どもがいない。安田さんが子どもみたいなもんだと笑っていたけど、きっといろんな想いはあることだろう。
ーー二人は、何のために夫婦になったんだろう。
まだ失っていない理性が、いきなりの賢者タイムを告げる。
結婚する。夫婦になる。
子どもを持つ、持たないとは無関係なら、二人でいることに、どうして契約が必要なのだろう。
互いが自由意思で隣にいることを選んだのなら、自由意思のままでいい。契約など必要ない。もし、どちらか一方が、その隣を離れようと選択したとしたら、その契約はただの足かせにしかならない。
それなのに、人は結婚する。結婚することを望み、選び、勧める。
ーーああ、駄目駄目。こんな桜の花が舞う公園でこんなことを考えることが、自分が酔ってる証だろう。
「私は置いて行ってくださいー」
「何言ってんだ。帰るぞ」
「かーえーんーなーいー」
私はヨーコさんから離れて、咲也くんの腕にすがりついた。
服を通しても分かる、ヨーコさんのそれとは全く異なった、硬い質感。
「まだ咲也くんと飲むのー」
「この酔っ払い……」
神崎さんが困惑して咲也くんを見た。困った顔の咲也くんは、しかし穏やかに笑っている。
やっさしー。
ついつい私が笑ったとき、ふわりと身体が浮いた。
「他人に迷惑かけんな。帰るぞ」
咄嗟に掴んだ腕は、神崎さんのものだ。
間近に感じた声に、身体中がすくむ。
「ーーって何やってんすかー!」
普通の女子だったらときめくところかもしれないが、私からしたら刃物を突きつけられたような、一気に冷水を浴びせられたような、そんな気分だ。
「てめぇが言うこと聞かねぇからだろうが!」
「ちょ、マジ勘弁してください!死ぬ!死んじゃう!」
「落とさねぇから安心しろ」
羞恥で死ぬと言いたかったのだが、そうは取ってもらえなかったらしい。
神崎さんは言うなり、お姫様抱っこからくるりと私の身体を反転させ、俵抱きに切り替えた。
お姫様抱っこも恥ずかしいけどそれも恥ずかしい!
「ええなぁ、アキちゃん」
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