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第一章 こちふかば
25 連休の過ごし方
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神崎さんとのそのランチで、
「飲み会するんなら阿久津も誘えよ。あいつにはお前の分出してもらえ」
というありがたーいアドバイスをもらった私は、次回会合の日程について、阿久津さんと神崎さん、安田夫妻と咲也くんに連絡した。
飲み会の日程はゴールデンウィークに入る直前を提案したのだが、
「うちは今月はパスやな。ゴールデンウィーク、出かける予定があるさかい。体力温存」
ヨーコさんに言われ、それなら安田さんも来ないなと踏む。
「……そういえば」
「何や?」
「ヨーコさん、どうして気づいたんですか。ーーその、咲也くんのこと」
ヨーコさんは私の目をじっと見てきたかと思えば、ふくよかな唇を段々と笑ませた。
「うちなぁ、女と男の事には敏感なんや」
秘密の言葉を打ち明けるように耳元で囁かれた言葉に、私はドキドキした。ヨーコさんはすぐ離れていたずらっぽく笑う。
「ま、単純に、うちやなくてマーシー見てたさかい。あんな目してたらバレるで、て言うとき」
うちやなくて、と言う様子は自負ではなく自嘲だ。やっぱりいい経験ばかりではないのだろうと思いつつ苦笑して頷いた。
「それにしてもあの子、うちと男の趣味が合いそうやなぁ。また会いたいわ。よろしく言うておいて」
にこりと告げる言葉は、夫が聞いたら涙目になりそうだ。
この夫婦の愛情バランスはいまいちよく分からないーーいや、夫から妻への偏愛はうんざりするほどよく分かっているのだが、妻から夫への愛はあんまり……というか、表面上は、神崎さんに向いている。
それはそれとして、信頼関係というか、そういうものが夫婦間にあるのも分かるのだが。
ーーまあ、見えてるものだけがすべてじゃないよね。
そんなことを思って一人大人ぶる。適当に納得したとも言えるけど。
一通りの返信があり、確定した日程はゴールデンウイークのまさに前夜だ。
【ちなみに、居酒屋は予約しませーん。空いてるところに入ります】
【一人でもキャンセルあったら延期ですんで、よろしくお願いしまーす】
さすがに神崎さんを名指しするのは咲也くんに怒られそうなので避けた。メッセージを送り終えた私は、一仕事終えた満足感に浸った。
飲み会の日、ロビーで集合した私と神崎さんは、阿久津さんを待ちつつ話していた。
「ゴールデンウイーク、橘家はどっか行かないんですか?」
彼は一人っ子の妻側の姓に変えているので、一家の名前は橘だ。
「俺の実家に帰省」
「鎌倉でしたっけ。近いじゃないですか」
「そうそう。嫌だなー」
私は笑う。
「それ、奥さんの台詞じゃないんですか」
「お前はあれだ、休日の鎌倉の人込みを知らないからそういうことを言う」
唇を尖らせる様子からは、よほどうんざりしているらしいと分かる。
「まあがんばってください」
「そういう江原は?ゴールデンウイークどっか行くの?」
「えー」
私は問われて首を傾げた。
「温泉行きたいですけどねー。どこも混んでますよね、きっと」
「お前の実家福岡だろ。九州って結構温泉あんじゃねぇの」
「あーありますけど」
私は気乗りしない返事を返す。
「福岡帰ると実家に寄れって言われるからめんどくさいです」
「ああ?ーーあ、もしかしてあれか。結婚しないのかー、とか言われる?」
お前も三十過ぎたもんなぁと神崎さんは笑う。実家に帰るのが面倒なのはそういう理由ではないのだが、勝手に納得してくれたので良しとして曖昧に相槌を返した。実家のことは考えるのも煩わしい。
「ま、だいたい無計画にゴロゴロして過ごして、いきなり思い立って出かけるのが毎年のパターンです」
それで予約が取れずに悔しい思いをするところまで含めて毎年のパターンなのだが、そこまで言ってはこの先輩に馬鹿にされると分かっているので言わないでおく。
神崎さんはお前らしいなと笑った。
「飲み会するんなら阿久津も誘えよ。あいつにはお前の分出してもらえ」
というありがたーいアドバイスをもらった私は、次回会合の日程について、阿久津さんと神崎さん、安田夫妻と咲也くんに連絡した。
飲み会の日程はゴールデンウィークに入る直前を提案したのだが、
「うちは今月はパスやな。ゴールデンウィーク、出かける予定があるさかい。体力温存」
ヨーコさんに言われ、それなら安田さんも来ないなと踏む。
「……そういえば」
「何や?」
「ヨーコさん、どうして気づいたんですか。ーーその、咲也くんのこと」
ヨーコさんは私の目をじっと見てきたかと思えば、ふくよかな唇を段々と笑ませた。
「うちなぁ、女と男の事には敏感なんや」
秘密の言葉を打ち明けるように耳元で囁かれた言葉に、私はドキドキした。ヨーコさんはすぐ離れていたずらっぽく笑う。
「ま、単純に、うちやなくてマーシー見てたさかい。あんな目してたらバレるで、て言うとき」
うちやなくて、と言う様子は自負ではなく自嘲だ。やっぱりいい経験ばかりではないのだろうと思いつつ苦笑して頷いた。
「それにしてもあの子、うちと男の趣味が合いそうやなぁ。また会いたいわ。よろしく言うておいて」
にこりと告げる言葉は、夫が聞いたら涙目になりそうだ。
この夫婦の愛情バランスはいまいちよく分からないーーいや、夫から妻への偏愛はうんざりするほどよく分かっているのだが、妻から夫への愛はあんまり……というか、表面上は、神崎さんに向いている。
それはそれとして、信頼関係というか、そういうものが夫婦間にあるのも分かるのだが。
ーーまあ、見えてるものだけがすべてじゃないよね。
そんなことを思って一人大人ぶる。適当に納得したとも言えるけど。
一通りの返信があり、確定した日程はゴールデンウイークのまさに前夜だ。
【ちなみに、居酒屋は予約しませーん。空いてるところに入ります】
【一人でもキャンセルあったら延期ですんで、よろしくお願いしまーす】
さすがに神崎さんを名指しするのは咲也くんに怒られそうなので避けた。メッセージを送り終えた私は、一仕事終えた満足感に浸った。
飲み会の日、ロビーで集合した私と神崎さんは、阿久津さんを待ちつつ話していた。
「ゴールデンウイーク、橘家はどっか行かないんですか?」
彼は一人っ子の妻側の姓に変えているので、一家の名前は橘だ。
「俺の実家に帰省」
「鎌倉でしたっけ。近いじゃないですか」
「そうそう。嫌だなー」
私は笑う。
「それ、奥さんの台詞じゃないんですか」
「お前はあれだ、休日の鎌倉の人込みを知らないからそういうことを言う」
唇を尖らせる様子からは、よほどうんざりしているらしいと分かる。
「まあがんばってください」
「そういう江原は?ゴールデンウイークどっか行くの?」
「えー」
私は問われて首を傾げた。
「温泉行きたいですけどねー。どこも混んでますよね、きっと」
「お前の実家福岡だろ。九州って結構温泉あんじゃねぇの」
「あーありますけど」
私は気乗りしない返事を返す。
「福岡帰ると実家に寄れって言われるからめんどくさいです」
「ああ?ーーあ、もしかしてあれか。結婚しないのかー、とか言われる?」
お前も三十過ぎたもんなぁと神崎さんは笑う。実家に帰るのが面倒なのはそういう理由ではないのだが、勝手に納得してくれたので良しとして曖昧に相槌を返した。実家のことは考えるのも煩わしい。
「ま、だいたい無計画にゴロゴロして過ごして、いきなり思い立って出かけるのが毎年のパターンです」
それで予約が取れずに悔しい思いをするところまで含めて毎年のパターンなのだが、そこまで言ってはこの先輩に馬鹿にされると分かっているので言わないでおく。
神崎さんはお前らしいなと笑った。
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