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第一章 こちふかば
37 奇遇なブッキング
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昼休みが終わる前に、咲也に今晩飲むぞと連絡すると、可愛い絵と共に了解と返ってきた。
「咲也ぁああ!今日は飲むぞー!」
「え、何?どうしたの、あきちゃん」
合流するなり肩を組み、逃がすつもりはないと店へ歩き出す。わたわたとそれについて来る咲也は混乱気味に私の腕を支えた。
「もぉ最悪!最悪すぎる!!」
「何があったのー」
「飲まずに語れるか!」
私が返すと咲也は笑った。それなら店に入ろうと、肩に回された私の手を解き、自分から私の手を引く。
自然な動作だったが、繋がれた手は全然嫌ではなかった。むしろ、気分は小学校の遠足のように、なんだかうきうきする。
これから、楽しい時間が待っている。そんなような浮き立つ気持ち。
「あれ?急にご機嫌になった」
「うん。ちょっとだけ落ち着いた」
おとなしく手を繋ぎながら、ぽてぽてと歩いていく。それならよかった、と咲也は笑った。
最近の睡眠事情に続き、ランチタイムの神崎さんの件を話すと、当初心配そうな面持ちで聞いていた咲也はいきなり突っ伏した。
その反応。嫌な予感。
「ーー羨ましい」
あああやっぱり。
「羨ましいよそれー!何それ!頭くしゃくしゃとかされたい!俺もされたい!」
両手で顔を覆う咲也は傍から見ると私がイジメたみたいである。私は黙ってグラスを口にしつつ目を反らした。
「私でよければしてあげるけど」
「いや、あきちゃんはいいや」
「デスヨネ」
一応言ってみただけだ。さくっと返されるともうそれ以上言いようがない。咲也は紅潮した頬のまま目をキラキラさせている。
恋する乙女モード全開。
「はぁあ。俺もあきちゃんの会社入れないかなぁ。いや、そこの会社じゃなくても、取引先になるとかーー」
「いや、もう既に知り合いなんだからさ、普通に連絡取って、普通に会ったら?」
「だからぁー!」
咲也は興奮気味にばんばんと机を叩く。
「だって、二人っきりとかだと緊張しちゃうでしょ!」
「え、いきなり二人きり想定?」
私のツッコミに咲也が固まった。かと思うと顔中を真っ赤にして俯く。可愛らしいことで。
「今のなし。忘れて」
「まあ、誘えば来るだろうけどさ。神崎さんなら」
「ーー俺が何だって?」
聞き慣れた声に、私と咲也は二人して跳ねた。比喩表現じゃない。マジで椅子を倒しかけた。
振り返ると立っていたのは、まさに神崎さんだった。スーツ姿だが、終業後だからか、ボタンを一つ開け、ネクタイをわずかに緩めている。
ちらりと横目で咲也を見ると、その喉元に目線が釘付けだ。おいおいバレるぞ。思って机の下で軽く足を蹴ると、はっとして慌てる。
「あ、あの。お久しぶりです」
「うん、元気だった?奇遇だね」
神崎さんの笑顔は如才ない。咲也が潤んだ目を輝かせているーーいや、目が潤んでいるからキラキラして見えるだけか。
「何、知り合い?」
「ああ、こっち彩乃の後任、と花見で会った青年」
「花見ィ?」
一緒に入ってきていた男二人とやりとりすると、神崎さんはその二人を指差して私に言った。
「これ、同期。会ったことある?」
「多分ないっす」
「橘女史の後任てことは、財務部の特攻隊長?こんな子なんだ」
特攻隊長って。なんすかそれ。いや確かにヨーコさんから、あんまりケンカ売るなとか言われるけど、そんなヤンキーみたいなことしてるつもりないんだけど。歯に衣を着せぬだけで。
「ってことは、阿久津さんとも同期?」
「そうそう。今日はあいつ出張だったから、後で合流予定」
「げ。来ない内に出よ」
「嫌われてんなー、阿久津」
同期の男が笑った。神崎さんも笑って、じゃあなと私たちに手を上げる。私と咲也も会釈を返した。周囲の女性の視線を集めながら、神崎さんは奥の席へと入っていく。アイドルみたい。普段からああだと、もう注目されるのは日常なのだろう。それも大変そうだなと思いながら杯を傾けると、咲也がいきなり勢い良く息を吐き出した。びっくりして見やると、ほとんど肩で息をしているレベルだ。
「息止めてたの?」
「そ、そうかも」
ということは無意識だったのだろう。息を整え、最後にまた深く吐き出した。
「ああ、びっくりした」
「だね」
答えながらも私は考えている。阿久津さんいつ来るんだろう。あの面倒くさい人が来る前に次の店行こう。そんな私の計算を知る由もなく、咲也はぼぅっと神崎さんたちの座る席を眺めていた。
「咲也ぁああ!今日は飲むぞー!」
「え、何?どうしたの、あきちゃん」
合流するなり肩を組み、逃がすつもりはないと店へ歩き出す。わたわたとそれについて来る咲也は混乱気味に私の腕を支えた。
「もぉ最悪!最悪すぎる!!」
「何があったのー」
「飲まずに語れるか!」
私が返すと咲也は笑った。それなら店に入ろうと、肩に回された私の手を解き、自分から私の手を引く。
自然な動作だったが、繋がれた手は全然嫌ではなかった。むしろ、気分は小学校の遠足のように、なんだかうきうきする。
これから、楽しい時間が待っている。そんなような浮き立つ気持ち。
「あれ?急にご機嫌になった」
「うん。ちょっとだけ落ち着いた」
おとなしく手を繋ぎながら、ぽてぽてと歩いていく。それならよかった、と咲也は笑った。
最近の睡眠事情に続き、ランチタイムの神崎さんの件を話すと、当初心配そうな面持ちで聞いていた咲也はいきなり突っ伏した。
その反応。嫌な予感。
「ーー羨ましい」
あああやっぱり。
「羨ましいよそれー!何それ!頭くしゃくしゃとかされたい!俺もされたい!」
両手で顔を覆う咲也は傍から見ると私がイジメたみたいである。私は黙ってグラスを口にしつつ目を反らした。
「私でよければしてあげるけど」
「いや、あきちゃんはいいや」
「デスヨネ」
一応言ってみただけだ。さくっと返されるともうそれ以上言いようがない。咲也は紅潮した頬のまま目をキラキラさせている。
恋する乙女モード全開。
「はぁあ。俺もあきちゃんの会社入れないかなぁ。いや、そこの会社じゃなくても、取引先になるとかーー」
「いや、もう既に知り合いなんだからさ、普通に連絡取って、普通に会ったら?」
「だからぁー!」
咲也は興奮気味にばんばんと机を叩く。
「だって、二人っきりとかだと緊張しちゃうでしょ!」
「え、いきなり二人きり想定?」
私のツッコミに咲也が固まった。かと思うと顔中を真っ赤にして俯く。可愛らしいことで。
「今のなし。忘れて」
「まあ、誘えば来るだろうけどさ。神崎さんなら」
「ーー俺が何だって?」
聞き慣れた声に、私と咲也は二人して跳ねた。比喩表現じゃない。マジで椅子を倒しかけた。
振り返ると立っていたのは、まさに神崎さんだった。スーツ姿だが、終業後だからか、ボタンを一つ開け、ネクタイをわずかに緩めている。
ちらりと横目で咲也を見ると、その喉元に目線が釘付けだ。おいおいバレるぞ。思って机の下で軽く足を蹴ると、はっとして慌てる。
「あ、あの。お久しぶりです」
「うん、元気だった?奇遇だね」
神崎さんの笑顔は如才ない。咲也が潤んだ目を輝かせているーーいや、目が潤んでいるからキラキラして見えるだけか。
「何、知り合い?」
「ああ、こっち彩乃の後任、と花見で会った青年」
「花見ィ?」
一緒に入ってきていた男二人とやりとりすると、神崎さんはその二人を指差して私に言った。
「これ、同期。会ったことある?」
「多分ないっす」
「橘女史の後任てことは、財務部の特攻隊長?こんな子なんだ」
特攻隊長って。なんすかそれ。いや確かにヨーコさんから、あんまりケンカ売るなとか言われるけど、そんなヤンキーみたいなことしてるつもりないんだけど。歯に衣を着せぬだけで。
「ってことは、阿久津さんとも同期?」
「そうそう。今日はあいつ出張だったから、後で合流予定」
「げ。来ない内に出よ」
「嫌われてんなー、阿久津」
同期の男が笑った。神崎さんも笑って、じゃあなと私たちに手を上げる。私と咲也も会釈を返した。周囲の女性の視線を集めながら、神崎さんは奥の席へと入っていく。アイドルみたい。普段からああだと、もう注目されるのは日常なのだろう。それも大変そうだなと思いながら杯を傾けると、咲也がいきなり勢い良く息を吐き出した。びっくりして見やると、ほとんど肩で息をしているレベルだ。
「息止めてたの?」
「そ、そうかも」
ということは無意識だったのだろう。息を整え、最後にまた深く吐き出した。
「ああ、びっくりした」
「だね」
答えながらも私は考えている。阿久津さんいつ来るんだろう。あの面倒くさい人が来る前に次の店行こう。そんな私の計算を知る由もなく、咲也はぼぅっと神崎さんたちの座る席を眺めていた。
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