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第二章 ふくらむつぼみ
54 女子会
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ランチはドリンクバーつきのレストランで、それぞれ飲み物を持って席につく。偶然にもみんなアイスティー。
「はぁ。女子会嬉しい」
「せやったら、毎日夫婦ランチせえへんようにしたら?誘いにくいで」
「ええ、そういうもんかなぁ」
アヤさんとヨーコさんは言いながらストローを口にする。二人とも落ち着いた色合いの口紅をしていた。ヨーコさんはワインレッド、アヤさんはピンクベージュ。どちらも二人によく似合っている。ーーが、これまた地雷の可能性もあるのでコメントは控えようと心に決める。
「あれ、アーヤ。今日はダーリン不在で女子会?」
「あ、矢原くん久しぶりぃ。そういえば結婚おめでとー」
「それ、半年前の話ですけど」
「だって全然会ってなかったから。今度夫婦で遊びにおいでよー」
「え、いいんですか?うわ、それすげぇ。自慢しよう」
「何でそれが自慢になるの?」
「えー。マーシーとアーヤのスイートホームでしょう。なりますよ、自慢」
「よくわかんないなぁ」
アヤさんは手を挙げて去る男性社員を見送って机に向き直った。
「自慢になるらしいで」
私にいたずらっぽく聞いたのはヨーコさんだ。
「ワタシ的には安田家の方がレアなんですけど」
「来たことあるやろ」
「泊まったことはないです」
私の言葉にアヤさんが噴き出した。
「初めて家に来て、飲みつぶれて泊まって行ったの、今までアキちゃんだけよ」
「せやろうな」
納得するようなヨーコさんの声に、小さく肩をすくめながら紅茶を口にする。
「でも、その後も二回くらい泊めてもらいましたよ」
「それ、アキちゃんが帰るのやだーって言わはったときやろ」
「いや、一回は悠人が離れなかったときよね」
「アキちゃんと寝るのー!って。可愛かったなぁ」
でれ、と緩む私の顔に、アヤさんが笑う。
「アキちゃんは子ども欲しいとか、願望ないの?」
アヤさんに言われて、私は表情を強張らせないよう瞬時に意識を切り替えた。
「ないですー。橘家のお子三人の成長を見守れればそれで満足です」
ニコニコしながら言う私の横顔を、ヨーコさんが静かに見ている。ーーこの鋭い先輩は、きっと、少し、察している。私の笑顔が、無邪気なものでないことを。
「そっかぁ。私、三十になったとき、焦ったなぁ。子ども欲しいのに彼氏もいない!会社に人生売っちゃったようなもんだわって」
あれ?と私は首を傾げた。
「神崎さんとは?」
「ああ、それから少ししてからだから。しかも最初はつき合うとかそういうの、考えてなかったし」
「ははあ」
聞きたいような、聞きたくないような。ーーいや、恋バナとして聞くなら楽しいのだろうけど、その先に砂を吐くほどの甘ーい惚気が待っているとわかっているので勇気が持てない。
「結構、くさくさしてるときだったのよね。あの人とつき合い始めたの」
ストローでアイスティーを掻き混ぜながら懐かしそうに言うアヤさんを、ヨーコさんが物いいたげなーーいや、生温かーい目で見守っている。その視線に気づいてアヤさんはちょっと顔を赤らめた。
「な、何?ヨーコちゃん」
「いや、何でも」
にこり、とヨーコさんは美しく笑った。
「何でもないで」
私はその横で噴き出す。
「ヨーコさん、後で詳しく」
「せやな、一杯飲みながら話した方がええわ」
「ちょ、ちょっと、ヨーコちゃん?」
アヤさんをずっと見守っていたヨーコさんのことだ、きっと二人の馴れ初めの様子もよく知っていることだろう。
「だ、だったら、こっちだって」
アヤさんはわずかに唇を尖らせながら、ちょっと向きになって言った。
「ジョーとヨーコちゃんだって、ちょうどその頃でしょ?つき合い始めたの」
ヨーコさんは言われてアヤさんの方をじぃっと見た。黒目がちの切れ長な目に見つめられて、何のためらいもなくそれを見返せるのは、アヤさんと神崎さん、そして夫の安田さんくらいなものだ。
「うちらはアーヤみたいに単純でピュアやないで」
豊かな唇の端を引き上げながら言う。その表情が妖艶さすら感じさせて、横にいる私がドキドキしたけど、アヤさんには効果なし。いつも通りの表情で、こてんと首を傾げた。
「っていうと?」
「アーヤには分からんやろうなぁ」
ヨーコさんは遠い目をして呟いた。
「分からん方が幸せなこともあるで」
私はまた笑いそうになる。
「何よぅ。アキちゃんも何か知ってるの?」
「いや、馴れ初めについては知らないですけど」
私は笑顔のまま言った。
「ヨーコさんの言わんとしてることは、分かります」
ーーとても、よく。
ヨーコさんの穏やかな目が、私をとらえている。他の人からであれば拒否感を覚えるだろうそれを、私は素直に受け止めていた。
「はぁ。女子会嬉しい」
「せやったら、毎日夫婦ランチせえへんようにしたら?誘いにくいで」
「ええ、そういうもんかなぁ」
アヤさんとヨーコさんは言いながらストローを口にする。二人とも落ち着いた色合いの口紅をしていた。ヨーコさんはワインレッド、アヤさんはピンクベージュ。どちらも二人によく似合っている。ーーが、これまた地雷の可能性もあるのでコメントは控えようと心に決める。
「あれ、アーヤ。今日はダーリン不在で女子会?」
「あ、矢原くん久しぶりぃ。そういえば結婚おめでとー」
「それ、半年前の話ですけど」
「だって全然会ってなかったから。今度夫婦で遊びにおいでよー」
「え、いいんですか?うわ、それすげぇ。自慢しよう」
「何でそれが自慢になるの?」
「えー。マーシーとアーヤのスイートホームでしょう。なりますよ、自慢」
「よくわかんないなぁ」
アヤさんは手を挙げて去る男性社員を見送って机に向き直った。
「自慢になるらしいで」
私にいたずらっぽく聞いたのはヨーコさんだ。
「ワタシ的には安田家の方がレアなんですけど」
「来たことあるやろ」
「泊まったことはないです」
私の言葉にアヤさんが噴き出した。
「初めて家に来て、飲みつぶれて泊まって行ったの、今までアキちゃんだけよ」
「せやろうな」
納得するようなヨーコさんの声に、小さく肩をすくめながら紅茶を口にする。
「でも、その後も二回くらい泊めてもらいましたよ」
「それ、アキちゃんが帰るのやだーって言わはったときやろ」
「いや、一回は悠人が離れなかったときよね」
「アキちゃんと寝るのー!って。可愛かったなぁ」
でれ、と緩む私の顔に、アヤさんが笑う。
「アキちゃんは子ども欲しいとか、願望ないの?」
アヤさんに言われて、私は表情を強張らせないよう瞬時に意識を切り替えた。
「ないですー。橘家のお子三人の成長を見守れればそれで満足です」
ニコニコしながら言う私の横顔を、ヨーコさんが静かに見ている。ーーこの鋭い先輩は、きっと、少し、察している。私の笑顔が、無邪気なものでないことを。
「そっかぁ。私、三十になったとき、焦ったなぁ。子ども欲しいのに彼氏もいない!会社に人生売っちゃったようなもんだわって」
あれ?と私は首を傾げた。
「神崎さんとは?」
「ああ、それから少ししてからだから。しかも最初はつき合うとかそういうの、考えてなかったし」
「ははあ」
聞きたいような、聞きたくないような。ーーいや、恋バナとして聞くなら楽しいのだろうけど、その先に砂を吐くほどの甘ーい惚気が待っているとわかっているので勇気が持てない。
「結構、くさくさしてるときだったのよね。あの人とつき合い始めたの」
ストローでアイスティーを掻き混ぜながら懐かしそうに言うアヤさんを、ヨーコさんが物いいたげなーーいや、生温かーい目で見守っている。その視線に気づいてアヤさんはちょっと顔を赤らめた。
「な、何?ヨーコちゃん」
「いや、何でも」
にこり、とヨーコさんは美しく笑った。
「何でもないで」
私はその横で噴き出す。
「ヨーコさん、後で詳しく」
「せやな、一杯飲みながら話した方がええわ」
「ちょ、ちょっと、ヨーコちゃん?」
アヤさんをずっと見守っていたヨーコさんのことだ、きっと二人の馴れ初めの様子もよく知っていることだろう。
「だ、だったら、こっちだって」
アヤさんはわずかに唇を尖らせながら、ちょっと向きになって言った。
「ジョーとヨーコちゃんだって、ちょうどその頃でしょ?つき合い始めたの」
ヨーコさんは言われてアヤさんの方をじぃっと見た。黒目がちの切れ長な目に見つめられて、何のためらいもなくそれを見返せるのは、アヤさんと神崎さん、そして夫の安田さんくらいなものだ。
「うちらはアーヤみたいに単純でピュアやないで」
豊かな唇の端を引き上げながら言う。その表情が妖艶さすら感じさせて、横にいる私がドキドキしたけど、アヤさんには効果なし。いつも通りの表情で、こてんと首を傾げた。
「っていうと?」
「アーヤには分からんやろうなぁ」
ヨーコさんは遠い目をして呟いた。
「分からん方が幸せなこともあるで」
私はまた笑いそうになる。
「何よぅ。アキちゃんも何か知ってるの?」
「いや、馴れ初めについては知らないですけど」
私は笑顔のまま言った。
「ヨーコさんの言わんとしてることは、分かります」
ーーとても、よく。
ヨーコさんの穏やかな目が、私をとらえている。他の人からであれば拒否感を覚えるだろうそれを、私は素直に受け止めていた。
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