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第二章 ふくらむつぼみ
60 咲也の実家
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翌日、咲也と共に向かったのは、埼玉にある咲也の実家だ。咲也の母はアパートの一室に一人で住んでいて、アパートは叔父の所持物だと説明を受ける。叔父も大家としてそのアパートの一室に住んでいるらしい。
叔父、というのでどういう関係かと思えば、母の兄、とのことだった。咲也の祖母にあたる母の母は早世したため、咲也の母は父と兄に育てられたようなものらしい。とはいえもう祖父も他界したため、身内といえば母と叔父くらいなものだと咲也は言った。叔父も結婚したことはあるが、別れて久しいという。
「父は、叔父の友人で」
道すがら、咲也は淡々と話を続けていた。
「プロのカメラマンになったらしいんだ。叔父もカメラが趣味で、大学のときにサークルで一緒だったらしいんだよね。父は風景を撮る人なんだけれど、時々母のことを撮ってたらしいんだ。家に大きな写真もあるけど、びっくりしないでね」
話す様子は楽しげでも悲しげでもない。ごくごく事務的にすら感じるので、私も事務的に頷く。
まるでこれから恋人という役割を演じるにあたり脚本を確認しているかのようだ。思いながら歩いていく。
「父は俺が小学生になった頃、急にいなくなった。って言っても、叔父も母も居場所は知っているらしいし、時々ハガキが届くらしいけど。それこそ、どうも海外を転々としているみたいで」
私は咲也の家に飾ってあったカレンダーを思い出した。世界遺産の写真。
「あのカレンダーは、お父さんが?」
「いや、違うよ」
咲也は笑った。
「俺は、ほとんど父の姿を覚えていなくてーーいや、面影みたいなものは覚えているんだけどね。でも、やっぱりああいう写真が好きなのは、どこかに父の面影を探しているからだろうと思うよ」
咲也は言って、前を向いた。その態度は、話が終わったから、と言うには不自然な印象で、意図的に目を反らしたように見えた。
「カメラマンかぁ。かっこいいね」
当たり障りのない感想を口にしたが、そんな自分が馬鹿馬鹿しく思え、つい噴き出す。
「やめてよ、あきちゃん」
つられて咲也も噴き出した。
「いや、だって、なんか馬鹿みたいだなと思って」
「馬鹿っていうか、らしくないよね。すごい社交辞令です、っていう空気出てた」
「あ、やっぱそうだよね。心こもってない感じだったよね。ごめんごめん」
私たちは言いながら笑う。多分、半ば無意識に、互いの緊張をほぐそうとしているのだ。これから起こる出来事が、今後の自分たちにどういう影響を与えるのかが分からなくて、ついつい硬くなっていく気持ちを和らげようとしている。
「よかった」
ひとしきり笑った後で、咲也がぽつりと言った。
「え?」
私はちらりと目を上げる。咲也の横顔が見えた。
「あきちゃんと一緒に来て。よかった」
咲也は視線を足元に落とした。何の変哲もないアスファルトが続いている。
「でも、お母さんと仲いいんでしょ?」
つい数年前まで実家に住んでいたと聞いたのは昨日のことだ。
咲也はちらりと目を上げた。顔に浮かんでいた表情は笑顔に近かったが、その内側に孕んだ気持ちは、それとは違うように思える。
「遠足が終わったら、話すよ」
「遠足?」
「そうそう。家に帰るまでが、遠足です」
咲也はにこりと笑った。その目が憂いを帯びていることに気づいて、私は目を反らした。
叔父、というのでどういう関係かと思えば、母の兄、とのことだった。咲也の祖母にあたる母の母は早世したため、咲也の母は父と兄に育てられたようなものらしい。とはいえもう祖父も他界したため、身内といえば母と叔父くらいなものだと咲也は言った。叔父も結婚したことはあるが、別れて久しいという。
「父は、叔父の友人で」
道すがら、咲也は淡々と話を続けていた。
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話す様子は楽しげでも悲しげでもない。ごくごく事務的にすら感じるので、私も事務的に頷く。
まるでこれから恋人という役割を演じるにあたり脚本を確認しているかのようだ。思いながら歩いていく。
「父は俺が小学生になった頃、急にいなくなった。って言っても、叔父も母も居場所は知っているらしいし、時々ハガキが届くらしいけど。それこそ、どうも海外を転々としているみたいで」
私は咲也の家に飾ってあったカレンダーを思い出した。世界遺産の写真。
「あのカレンダーは、お父さんが?」
「いや、違うよ」
咲也は笑った。
「俺は、ほとんど父の姿を覚えていなくてーーいや、面影みたいなものは覚えているんだけどね。でも、やっぱりああいう写真が好きなのは、どこかに父の面影を探しているからだろうと思うよ」
咲也は言って、前を向いた。その態度は、話が終わったから、と言うには不自然な印象で、意図的に目を反らしたように見えた。
「カメラマンかぁ。かっこいいね」
当たり障りのない感想を口にしたが、そんな自分が馬鹿馬鹿しく思え、つい噴き出す。
「やめてよ、あきちゃん」
つられて咲也も噴き出した。
「いや、だって、なんか馬鹿みたいだなと思って」
「馬鹿っていうか、らしくないよね。すごい社交辞令です、っていう空気出てた」
「あ、やっぱそうだよね。心こもってない感じだったよね。ごめんごめん」
私たちは言いながら笑う。多分、半ば無意識に、互いの緊張をほぐそうとしているのだ。これから起こる出来事が、今後の自分たちにどういう影響を与えるのかが分からなくて、ついつい硬くなっていく気持ちを和らげようとしている。
「よかった」
ひとしきり笑った後で、咲也がぽつりと言った。
「え?」
私はちらりと目を上げる。咲也の横顔が見えた。
「あきちゃんと一緒に来て。よかった」
咲也は視線を足元に落とした。何の変哲もないアスファルトが続いている。
「でも、お母さんと仲いいんでしょ?」
つい数年前まで実家に住んでいたと聞いたのは昨日のことだ。
咲也はちらりと目を上げた。顔に浮かんでいた表情は笑顔に近かったが、その内側に孕んだ気持ちは、それとは違うように思える。
「遠足が終わったら、話すよ」
「遠足?」
「そうそう。家に帰るまでが、遠足です」
咲也はにこりと笑った。その目が憂いを帯びていることに気づいて、私は目を反らした。
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