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第三章 さくらさく
94 新しい関係
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私と咲也は手を繋いで公園を出た。
「あきちゃん、家はどうしてるの?」
私は問われてその横顔を見る。共に過ごした一年と、離れていた二年。既視感と戸惑いがわずかに気恥ずかしくて、また前を見た。
「探すの面倒だから、ウィークリーマンション」
答えると、咲也は笑う。あきちゃんらしいね。
その笑い方も言い方も、やっぱり咲也のものだ。そう思って私は安堵する。
「咲也は?」
躊躇いながら、聞いた。先ほど見た婚姻届が私の勇気を後押しする――書類は、それが入る鞄を持っていなかった私の代わりに、咲也が改めて自分の鞄にしまって手にしている。
――お守り代わりに、なったんだろうか。
捨てずに家に置いてきた咲也の手紙を思い出す。
咲也は変わらない穏やかな微笑みで、私の顔を覗き込んだ。
「行ってみる?」
私は頷いた。
咲也は、二年前と同じ場所に住んでいた。
薄々そんな気はしていたのだが、久々に足を運ぶその家に、不思議な緊張を覚える。
咲也と過ごした温かい日常と、咲也が失踪して後の、奈落の底に突き落とされたような恐怖と不安。
そんな私に気づいたのか、咲也は繋いだ手にわずかに力を込めた。
ドアを開くと、間取りも家具の置場も変わらない、懐かしい家が目に入った。
――我が家。
不意に思いついた言葉に、戸惑う。
先に玄関先に入った咲也は、ドアを支えたまま微笑んだ。
その姿に、二年前に見た彼の姿が、くっきりと重なる。
あの頃よく準備してくれた夕飯の香りすら、ただよってくるような気がした。
「おかえり」
どきり、と心臓が高鳴る。
ーーああ。
一気にこみ上げる涙を抑えようと、息を短く吐き出した。
――が、うまくいかない。
「た、だいま」
帰ってきたんだ。
ほんとに。ここに。
私も、咲也も。
ーー帰ってきたんだ。
涙が、頬を伝い落ちた。
次々とあふれる涙を、私は止められない。止めなくていいんだ、と思った。
もう、止めなくていい。我慢なんてしなくていい。思い切り泣き崩れても、叫んでも――
咲也は、ここにいる。
私はお酒とつまみが入ったコンビニ袋を手にかけたまま、顔を覆った。
涙だけでなく、声まで出てくる。
大人であることを忘れるくらい、わあわあと声を挙げて泣く私を、咲也は笑って抱きしめた。
その温もりに、更に涙が止まらなくなる。
くしゃくしゃ音を立てて私たちの間に挟まっていたコンビニ袋を引き抜き、咲也の背中に手を回した。
「待たせて、ごめんね」
咲也は抱擁に、乱暴なくらい力を込める。
私も咲也の背中を抱き返しながら、嗚咽の合間を縫って何か言おうとしたが、言葉は何も浮かばず嗚咽に変わった。
咲也。咲也――
こんなに泣いたのは、赤ちゃんのとき以来かもしれない。
かもしれない、じゃない。きっとそうだ。
物心をついてから、咲也と出会うまでの私は、心が死んでいたも同然だから。
咲也は私の背を、頭を、肩を、黙って静かに撫でてくれた。
もう、彼が離れて行くことを、恐れる必要もない。
――私たち二人は、この関係に名前をつけることを選んだのだから。
「あきちゃん、家はどうしてるの?」
私は問われてその横顔を見る。共に過ごした一年と、離れていた二年。既視感と戸惑いがわずかに気恥ずかしくて、また前を見た。
「探すの面倒だから、ウィークリーマンション」
答えると、咲也は笑う。あきちゃんらしいね。
その笑い方も言い方も、やっぱり咲也のものだ。そう思って私は安堵する。
「咲也は?」
躊躇いながら、聞いた。先ほど見た婚姻届が私の勇気を後押しする――書類は、それが入る鞄を持っていなかった私の代わりに、咲也が改めて自分の鞄にしまって手にしている。
――お守り代わりに、なったんだろうか。
捨てずに家に置いてきた咲也の手紙を思い出す。
咲也は変わらない穏やかな微笑みで、私の顔を覗き込んだ。
「行ってみる?」
私は頷いた。
咲也は、二年前と同じ場所に住んでいた。
薄々そんな気はしていたのだが、久々に足を運ぶその家に、不思議な緊張を覚える。
咲也と過ごした温かい日常と、咲也が失踪して後の、奈落の底に突き落とされたような恐怖と不安。
そんな私に気づいたのか、咲也は繋いだ手にわずかに力を込めた。
ドアを開くと、間取りも家具の置場も変わらない、懐かしい家が目に入った。
――我が家。
不意に思いついた言葉に、戸惑う。
先に玄関先に入った咲也は、ドアを支えたまま微笑んだ。
その姿に、二年前に見た彼の姿が、くっきりと重なる。
あの頃よく準備してくれた夕飯の香りすら、ただよってくるような気がした。
「おかえり」
どきり、と心臓が高鳴る。
ーーああ。
一気にこみ上げる涙を抑えようと、息を短く吐き出した。
――が、うまくいかない。
「た、だいま」
帰ってきたんだ。
ほんとに。ここに。
私も、咲也も。
ーー帰ってきたんだ。
涙が、頬を伝い落ちた。
次々とあふれる涙を、私は止められない。止めなくていいんだ、と思った。
もう、止めなくていい。我慢なんてしなくていい。思い切り泣き崩れても、叫んでも――
咲也は、ここにいる。
私はお酒とつまみが入ったコンビニ袋を手にかけたまま、顔を覆った。
涙だけでなく、声まで出てくる。
大人であることを忘れるくらい、わあわあと声を挙げて泣く私を、咲也は笑って抱きしめた。
その温もりに、更に涙が止まらなくなる。
くしゃくしゃ音を立てて私たちの間に挟まっていたコンビニ袋を引き抜き、咲也の背中に手を回した。
「待たせて、ごめんね」
咲也は抱擁に、乱暴なくらい力を込める。
私も咲也の背中を抱き返しながら、嗚咽の合間を縫って何か言おうとしたが、言葉は何も浮かばず嗚咽に変わった。
咲也。咲也――
こんなに泣いたのは、赤ちゃんのとき以来かもしれない。
かもしれない、じゃない。きっとそうだ。
物心をついてから、咲也と出会うまでの私は、心が死んでいたも同然だから。
咲也は私の背を、頭を、肩を、黙って静かに撫でてくれた。
もう、彼が離れて行くことを、恐れる必要もない。
――私たち二人は、この関係に名前をつけることを選んだのだから。
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