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第一部
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「二、三年でミニゲームやるよー!!」
夏休みの午後練は、5時までと決まっている。終了時間に近くになり、コーチの声が体育館に響いた。
部員の喚声が上がる。バスケ部にいても、練習の基本は走り込みやパス練、シュート練、やるとしてもせいぜいゲームを模した3on3程度だ。試合形式の練習ができることはあまりない。
「コーチはやらないんですか?」
三年の先輩が言った。
「俺が出たら、お前らの練習にならんやろ。走れ走れ。へばってたらスタメン変えるように先生に言うぞ」
「やだー!」
コーチは大学一年生で、週に一度来てくれているOBだ。コーチが来るときは、顧問は体育館にいない。コーチの指示で練習する。
「先、男子から。同じポジションのやつとグッパせろー」
わいわいと賑やかにチームが分けられ、男子の試合が始まった。
女子は女子でコート端に行き、チーム分けをする。二、三年は十三人だ。五人で一組のバスケだと、どうしても交代になる。当然二年がチェンジだと思っていたら、
「ぐっちゃんはそのままな」
コーチから釘をさされた。
困惑してコーチを見やる。
「お前、もっと自信持ってやらんな。その身長、生かさな損よ。とにかく試合慣れせい」
私は気まずく思いながら、はいと返事をした。
自分ではそのつもりはないのだけど、ここぞというときについ、譲ってしまうらしい。それをコーチは言っているのだろう。
「ま、場数踏めば大丈夫やろ」
言いながら背中を叩かれる。先輩たちにちょっと羨ましがられているのが居心地悪かった。
高校生からしてみたら、一歳年上の先輩、というだけでなく、大学生というだけで一歩大人に近づいている人だ。
そういう異性に、先輩たちが憧れるのは分かる。
ーーまあ、私は本当に大人な男性も知っているから、あまり興味はないけれど。
自分で言うのも何だけど、私はそんなに、美人じゃないと思う。目は細いし、頬も長いし、鼻も高くない。
ついでに、他の女のコみたいに、恋バナで盛り上がるようなタイプじゃない。聞いているのは好きだけど、キャーキャー言うのは柄じゃない。
小中学生の時、僕、という一人称に違和感がなかったのは、そういう気質もあるんだと思う。
なのに……なのに、っていうのも変かな。とにかく、何故か、男子からのアプローチが全くない訳じゃない。
あえて避けてるから告られたことはないけど、何となく気にされている感があったり、遊びに行かないか誘われたり。極めつけはーー
思い出しかけて苦笑する。
男子のゲームが終わるホイッスルが鳴った。
ゲームを終えた山ちゃんと私の目が合う。山ちゃんは同じクラスだ。よく気づくタイプだけど口数は多くない。背もそこそこ高いしあまり笑わないから、一部の女子は怖がっている。でも意外と優しくて、どちらかというとむしろ気が弱い。私にとっては気のおけない友達の一人だ。
礼をしてコートから離れた山ちゃんが、こちらに歩いて来る。
「ぐっちゃん、出るん?」
「うん」
「がんばれよ」
私は笑って手を挙げた。
私にとっては、女子のひがみを買う男子からの好意は、正直面倒くさい。
相手が私のことを好きかどうかなんて、私にとっては関係ないのに。
もともと恋愛とは縁遠いつもりだけど、自分でも積極的に恋をしたいとは思わない。
それよりも、大切にしたい気持ちがある。思い出がある。
だから、恋する気にならないのかもしれない。
そう、極めつけは、同級生に押し倒されかけたことだ。
でも、それがトラウマになって恋愛に興味がない訳じゃない。
いや、トラウマではあるのかもしれないけど、それで男性が怖くなったわけではない。
むしろ忘れられないのは、その後、知らず足が向いた「彼」の家で、私が落ち着くまで黙って背中を撫でてくれた温かくて大きな手の温もりなのだ。
お父さんとも、おじいちゃんとも違う。安心できるのに、ドキドキして、切なくなって、甘えたくなって、汚い部分も可愛い部分も、何でもさらけ出したくなるようなーー
そんな空気が、胸をぎゅうっと締め付けられるような気持ちが、今でも忘れられない。
夏休みの午後練は、5時までと決まっている。終了時間に近くになり、コーチの声が体育館に響いた。
部員の喚声が上がる。バスケ部にいても、練習の基本は走り込みやパス練、シュート練、やるとしてもせいぜいゲームを模した3on3程度だ。試合形式の練習ができることはあまりない。
「コーチはやらないんですか?」
三年の先輩が言った。
「俺が出たら、お前らの練習にならんやろ。走れ走れ。へばってたらスタメン変えるように先生に言うぞ」
「やだー!」
コーチは大学一年生で、週に一度来てくれているOBだ。コーチが来るときは、顧問は体育館にいない。コーチの指示で練習する。
「先、男子から。同じポジションのやつとグッパせろー」
わいわいと賑やかにチームが分けられ、男子の試合が始まった。
女子は女子でコート端に行き、チーム分けをする。二、三年は十三人だ。五人で一組のバスケだと、どうしても交代になる。当然二年がチェンジだと思っていたら、
「ぐっちゃんはそのままな」
コーチから釘をさされた。
困惑してコーチを見やる。
「お前、もっと自信持ってやらんな。その身長、生かさな損よ。とにかく試合慣れせい」
私は気まずく思いながら、はいと返事をした。
自分ではそのつもりはないのだけど、ここぞというときについ、譲ってしまうらしい。それをコーチは言っているのだろう。
「ま、場数踏めば大丈夫やろ」
言いながら背中を叩かれる。先輩たちにちょっと羨ましがられているのが居心地悪かった。
高校生からしてみたら、一歳年上の先輩、というだけでなく、大学生というだけで一歩大人に近づいている人だ。
そういう異性に、先輩たちが憧れるのは分かる。
ーーまあ、私は本当に大人な男性も知っているから、あまり興味はないけれど。
自分で言うのも何だけど、私はそんなに、美人じゃないと思う。目は細いし、頬も長いし、鼻も高くない。
ついでに、他の女のコみたいに、恋バナで盛り上がるようなタイプじゃない。聞いているのは好きだけど、キャーキャー言うのは柄じゃない。
小中学生の時、僕、という一人称に違和感がなかったのは、そういう気質もあるんだと思う。
なのに……なのに、っていうのも変かな。とにかく、何故か、男子からのアプローチが全くない訳じゃない。
あえて避けてるから告られたことはないけど、何となく気にされている感があったり、遊びに行かないか誘われたり。極めつけはーー
思い出しかけて苦笑する。
男子のゲームが終わるホイッスルが鳴った。
ゲームを終えた山ちゃんと私の目が合う。山ちゃんは同じクラスだ。よく気づくタイプだけど口数は多くない。背もそこそこ高いしあまり笑わないから、一部の女子は怖がっている。でも意外と優しくて、どちらかというとむしろ気が弱い。私にとっては気のおけない友達の一人だ。
礼をしてコートから離れた山ちゃんが、こちらに歩いて来る。
「ぐっちゃん、出るん?」
「うん」
「がんばれよ」
私は笑って手を挙げた。
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お父さんとも、おじいちゃんとも違う。安心できるのに、ドキドキして、切なくなって、甘えたくなって、汚い部分も可愛い部分も、何でもさらけ出したくなるようなーー
そんな空気が、胸をぎゅうっと締め付けられるような気持ちが、今でも忘れられない。
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