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第五部
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留学から三年後の夏。
晴れて社会人になって半年が経った私は、山ちゃんと一緒に九州に行った。
訪れたのは長崎で、これが私たちの二度目の旅行になる。
留学から帰ってきたら、山ちゃんが就活と卒論で忙しくて、その後は私の就活、卒論、そして就職と、ゆっくり時間が取れなかったのだ。同時に、就職して一年目は山ちゃんが仕事に慣れるまでに忙しかったこともある。でも、山ちゃんが都内に就職したおかげで、二、三ヶ月に一度は夕飯を食べるくらいの時間がとれていた。
そう、山ちゃんは都内に就職した。
てっきり福岡で職を探すのだろうと思っていた私は、最初に都内に就職すると聞いたとき驚いた。最終的に決まるまでは教えてくれなかったので、知ったのは年末だ。ただでさえ大変と聞く就活なのに、大阪東京間を行き来しながらだったのだと分かると、憔悴していたのも頷けた。
どうして都内に、と聞いた私に、山ちゃんはむくれて言った。
『福岡には、ぐっちゃんがおらんやろ』
彼は言うなり、照れてしまってそれ以上何も言わなかった。
私は驚いたけど、胸に温かさが広がるのを感じた。留学中、必死になって勉強していた私を待つ間に、彼が考えてくれていたのだと分かったからだ。
私たちのその後を。将来を。
それが嬉しくて、でもそんな自分が気恥ずかしくて、私も黙った。
今回の長崎滞在後、私はせっかくだからおじいちゃんの家にも泊まると言うと、山ちゃんは肩をすくめていた。
「山ちゃんは帰らなくていいの?」
私が聞くと、山ちゃんは少し嫌そうな顔をする。
「……ぐっちゃんと一緒なら帰る」
「なぁに、それ」
私は笑って、首を傾げる。
「そういえば、山ちゃんのご家族、会ったことないね」
「……俺だって、ぐっちゃんのお母さんしか知らんよ」
言われて初めて、それもそうだと気づく。
当然といえば当然だが、同じ福岡にいたのに、私の家族と山ちゃんの家族が会う機会はなかったのだ。
「そっか……一度、挨拶しなきゃね」
山ちゃんがぴくりと眉を上げた。一瞬感じた緊張感に、私は首を傾げる。
「なに? なんか変なこと言った?」
「いや……」
山ちゃんは複雑な表情で黙り込んだ。私はますます首を傾げた。
その夜は、長崎の夜景を見に行った。
函館で見た夜景と比べてみよう、と言ったのは山ちゃんだった。
次の旅行先は山ちゃんが決めて、と言ったことを覚えていたのだろう。無難といえば無難な、でも彼らしい選択に、私は異議なく頷いた。
レンタカーを走らせ、夜景がよく見える高台へと向かう。私と山ちゃんは夜景を眺め、写真も撮ってみたけど、人に合わせると夜景が消えるし、夜景に合わせると顔が写らないしで、あれこれ言いながら何度か挑戦した。
私は夜景だけの写真も撮って、珍しくSNSにあげてみた。
「そういうの、やるんやね」
意外そうに言われて苦笑する。
「基本的にはロム専だよ。だからマイコたちにも文句言われる」
マイコたちが文句を言うのを想像したのか、山ちゃんは笑った。その横顔がもうすっかり高校生のそれではなくて、なんだか不思議な気持ちになる。
「なに? どしたん?」
「ううん。私たちももう社会人なんだなーって思って」
山ちゃんは笑った。
「急にどうしたの。夜景見て修学旅行思い出した?」
山ちゃんは都内で過ごすようになってから、ときどき標準語が混ざるようになった。
私は曖昧に頷いた。
私の肩を、山ちゃんがそっと抱く。
引き寄せられるまま、その肩に頬を寄せた。
出会ってから八年。
付き合ってからは五年が経つ。
その隣が、今ではどこよりも安心できる場所だ。
「……長かったような、あっという間だったような」
「高校から?」
「うん」
「俺は……長かったなぁ」
山ちゃんはしみじみ言った。私が目を上げると、山ちゃんがいたずらっぽく笑う。
「名古屋旅行から、今日まで」
私は顔がほてるのを感じながら、たしなめるように山ちゃんを睨んだ。
山ちゃんは笑って私の頭を撫でた。
晴れて社会人になって半年が経った私は、山ちゃんと一緒に九州に行った。
訪れたのは長崎で、これが私たちの二度目の旅行になる。
留学から帰ってきたら、山ちゃんが就活と卒論で忙しくて、その後は私の就活、卒論、そして就職と、ゆっくり時間が取れなかったのだ。同時に、就職して一年目は山ちゃんが仕事に慣れるまでに忙しかったこともある。でも、山ちゃんが都内に就職したおかげで、二、三ヶ月に一度は夕飯を食べるくらいの時間がとれていた。
そう、山ちゃんは都内に就職した。
てっきり福岡で職を探すのだろうと思っていた私は、最初に都内に就職すると聞いたとき驚いた。最終的に決まるまでは教えてくれなかったので、知ったのは年末だ。ただでさえ大変と聞く就活なのに、大阪東京間を行き来しながらだったのだと分かると、憔悴していたのも頷けた。
どうして都内に、と聞いた私に、山ちゃんはむくれて言った。
『福岡には、ぐっちゃんがおらんやろ』
彼は言うなり、照れてしまってそれ以上何も言わなかった。
私は驚いたけど、胸に温かさが広がるのを感じた。留学中、必死になって勉強していた私を待つ間に、彼が考えてくれていたのだと分かったからだ。
私たちのその後を。将来を。
それが嬉しくて、でもそんな自分が気恥ずかしくて、私も黙った。
今回の長崎滞在後、私はせっかくだからおじいちゃんの家にも泊まると言うと、山ちゃんは肩をすくめていた。
「山ちゃんは帰らなくていいの?」
私が聞くと、山ちゃんは少し嫌そうな顔をする。
「……ぐっちゃんと一緒なら帰る」
「なぁに、それ」
私は笑って、首を傾げる。
「そういえば、山ちゃんのご家族、会ったことないね」
「……俺だって、ぐっちゃんのお母さんしか知らんよ」
言われて初めて、それもそうだと気づく。
当然といえば当然だが、同じ福岡にいたのに、私の家族と山ちゃんの家族が会う機会はなかったのだ。
「そっか……一度、挨拶しなきゃね」
山ちゃんがぴくりと眉を上げた。一瞬感じた緊張感に、私は首を傾げる。
「なに? なんか変なこと言った?」
「いや……」
山ちゃんは複雑な表情で黙り込んだ。私はますます首を傾げた。
その夜は、長崎の夜景を見に行った。
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次の旅行先は山ちゃんが決めて、と言ったことを覚えていたのだろう。無難といえば無難な、でも彼らしい選択に、私は異議なく頷いた。
レンタカーを走らせ、夜景がよく見える高台へと向かう。私と山ちゃんは夜景を眺め、写真も撮ってみたけど、人に合わせると夜景が消えるし、夜景に合わせると顔が写らないしで、あれこれ言いながら何度か挑戦した。
私は夜景だけの写真も撮って、珍しくSNSにあげてみた。
「そういうの、やるんやね」
意外そうに言われて苦笑する。
「基本的にはロム専だよ。だからマイコたちにも文句言われる」
マイコたちが文句を言うのを想像したのか、山ちゃんは笑った。その横顔がもうすっかり高校生のそれではなくて、なんだか不思議な気持ちになる。
「なに? どしたん?」
「ううん。私たちももう社会人なんだなーって思って」
山ちゃんは笑った。
「急にどうしたの。夜景見て修学旅行思い出した?」
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私の肩を、山ちゃんがそっと抱く。
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その隣が、今ではどこよりも安心できる場所だ。
「……長かったような、あっという間だったような」
「高校から?」
「うん」
「俺は……長かったなぁ」
山ちゃんはしみじみ言った。私が目を上げると、山ちゃんがいたずらっぽく笑う。
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山ちゃんは笑って私の頭を撫でた。
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