初恋旅行に出かけます

松丹子

文字の大きさ
51 / 56
第五部

01

しおりを挟む
 留学から三年後の夏。
 晴れて社会人になって半年が経った私は、山ちゃんと一緒に九州に行った。
 訪れたのは長崎で、これが私たちの二度目の旅行になる。
 留学から帰ってきたら、山ちゃんが就活と卒論で忙しくて、その後は私の就活、卒論、そして就職と、ゆっくり時間が取れなかったのだ。同時に、就職して一年目は山ちゃんが仕事に慣れるまでに忙しかったこともある。でも、山ちゃんが都内に就職したおかげで、二、三ヶ月に一度は夕飯を食べるくらいの時間がとれていた。

 そう、山ちゃんは都内に就職した。
 てっきり福岡で職を探すのだろうと思っていた私は、最初に都内に就職すると聞いたとき驚いた。最終的に決まるまでは教えてくれなかったので、知ったのは年末だ。ただでさえ大変と聞く就活なのに、大阪東京間を行き来しながらだったのだと分かると、憔悴していたのも頷けた。
 どうして都内に、と聞いた私に、山ちゃんはむくれて言った。
『福岡には、ぐっちゃんがおらんやろ』
 彼は言うなり、照れてしまってそれ以上何も言わなかった。
 私は驚いたけど、胸に温かさが広がるのを感じた。留学中、必死になって勉強していた私を待つ間に、彼が考えてくれていたのだと分かったからだ。
 私たちのその後を。将来を。
 それが嬉しくて、でもそんな自分が気恥ずかしくて、私も黙った。

 今回の長崎滞在後、私はせっかくだからおじいちゃんの家にも泊まると言うと、山ちゃんは肩をすくめていた。
「山ちゃんは帰らなくていいの?」
 私が聞くと、山ちゃんは少し嫌そうな顔をする。
「……ぐっちゃんと一緒なら帰る」
「なぁに、それ」
 私は笑って、首を傾げる。
「そういえば、山ちゃんのご家族、会ったことないね」
「……俺だって、ぐっちゃんのお母さんしか知らんよ」
 言われて初めて、それもそうだと気づく。
 当然といえば当然だが、同じ福岡にいたのに、私の家族と山ちゃんの家族が会う機会はなかったのだ。
「そっか……一度、挨拶しなきゃね」
 山ちゃんがぴくりと眉を上げた。一瞬感じた緊張感に、私は首を傾げる。
「なに? なんか変なこと言った?」
「いや……」
 山ちゃんは複雑な表情で黙り込んだ。私はますます首を傾げた。

 その夜は、長崎の夜景を見に行った。
 函館で見た夜景と比べてみよう、と言ったのは山ちゃんだった。
 次の旅行先は山ちゃんが決めて、と言ったことを覚えていたのだろう。無難といえば無難な、でも彼らしい選択に、私は異議なく頷いた。
 レンタカーを走らせ、夜景がよく見える高台へと向かう。私と山ちゃんは夜景を眺め、写真も撮ってみたけど、人に合わせると夜景が消えるし、夜景に合わせると顔が写らないしで、あれこれ言いながら何度か挑戦した。
 私は夜景だけの写真も撮って、珍しくSNSにあげてみた。
「そういうの、やるんやね」
 意外そうに言われて苦笑する。
「基本的にはロム専だよ。だからマイコたちにも文句言われる」
 マイコたちが文句を言うのを想像したのか、山ちゃんは笑った。その横顔がもうすっかり高校生のそれではなくて、なんだか不思議な気持ちになる。
「なに? どしたん?」
「ううん。私たちももう社会人なんだなーって思って」
 山ちゃんは笑った。
「急にどうしたの。夜景見て修学旅行思い出した?」
 山ちゃんは都内で過ごすようになってから、ときどき標準語が混ざるようになった。
 私は曖昧に頷いた。
 私の肩を、山ちゃんがそっと抱く。
 引き寄せられるまま、その肩に頬を寄せた。
 出会ってから八年。
 付き合ってからは五年が経つ。
 その隣が、今ではどこよりも安心できる場所だ。
「……長かったような、あっという間だったような」
「高校から?」
「うん」
「俺は……長かったなぁ」
 山ちゃんはしみじみ言った。私が目を上げると、山ちゃんがいたずらっぽく笑う。
「名古屋旅行から、今日まで」
 私は顔がほてるのを感じながら、たしなめるように山ちゃんを睨んだ。
 山ちゃんは笑って私の頭を撫でた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

工場夜景

藤谷 郁
恋愛
結婚相談所で出会った彼は、港の製鉄所で働く年下の青年。年齢も年収も関係なく、顔立ちだけで選んだ相手だった――仕事一筋の堅物女、松平未樹。彼女は32歳の冬、初めての恋を経験する。

処理中です...