5 / 100
.1 こじらせたイケメン
05 こじらせた三十代
しおりを挟む
翌朝、礼奈は出勤する俺を見送ってくれた。
たぶん俺のために早起きしてくれたんやけど、「別に栄太兄のためじゃないもん」なんて言うのがもう、典型的なツンデレにしか見えへん。素直じゃないところがまたかわええんやわ。
自分じゃポーカーフェイスのつもりかも知れへんけど、礼奈はいちいち目が泳いだり赤くなったりするから丸分かりやねん。はぁー、ほんまかわええ。
何度も言うけど、もちろん変な意味やないで。赤ん坊の頃から見てきた、いわば妹分やからな。でも最近はその感覚も、どんどん変わってきとる自覚はある。結婚やら子どもやらを諦め始めたからか、もはやオジの心境ちゅうか父親の心境ちゅうか――そこ、哀れみの目で見んといてくれる? 正直、自分でも言うてても切ないねん。
大丈夫や、俺の親父には弟がおって、そこには息子が二人おる。俺が無理でもどっちかが結婚するやろ。で、母さんには弟二人、この一人が礼奈の父親の政人やねんけど、ここにもそれぞれ息子と娘がおる。つまり両家共に、血は繋がるはずや。一家が絶える心配はない。
俺にとってはそこが、唯一の慰めや。今やイエや血なんぞどーでもええわ、ちゅう論もあるけどな。
――本音言うたら俺かてそんなんどーでもええねん! 他からいろいろ言われんでも、疲れたときに癒してくれる人が欲しいわ!!
切実な願いを心中で叫びながら、俺を乗せた電車は進む。頭の中で流れる曲はもちろん売られた子牛のあの歌や。あーるー晴れたーひーるー下がりー、いやまだ朝やな! 残念ながら1日はこれからやで!
なんやサボれる言い訳になりそうなトラブルがないもんかと思うてたけど、揺られ揺られて電車は順調に目的地へ到着した。
日本の電車は律儀やなぁ、律儀すぎやで。たまにはちょっとサボってみてもええんちゃう? ――てそれは俺もやな。知っとる。俺がちょっとばかし勇気を出して、「体調不良でも記念日でもないし介護も育児もないけど休みますー」言えばそれで済む話や。どんな白い目も甘んじて受け止める覚悟をすればいいだけの話や。それができれば、時間通りに電車回してる人たちへの批難も要らんはずやな。
それでもついつい真面目に出勤するのが俺やねん。政人みたいに外資に行けば少しは違ったろうか――と思わなくもないけど、性格の問題やな、あいつはツボの押さえどころと手の抜き方がえらい上手いからな。
形ばかり真似してみても、結局叔父のようにはなれんねん。それは当然のことやけど、表面上はそれっぽく演じられるようになっただけでもよしとせなあかんな。
駅から会社に向かっとったら、後ろから「あれっ?」と声がした。例の後輩や。
「金田さん、家この路線でしたっけ?」
「いや、違うねんけど……今日はちょっと」
「あっ、もしかして!」
後輩が俺の言葉を遮ってニヤリとした。
「あー、そういえば昨日誕生日だったんですもんねぇ。今日は女の人のとこから出勤ですか」
「……まぁな」
ひゅー、と後輩が茶化してくる。……嘘は言うてへんで。女は女や。ばあちゃんと従妹やけど。じいちゃんもおったけど。
「資料の確認、しといたで。赤入れといたからまた会社でな」
「あっ、すいません! あざっす!」
昨日会社に忘れたものっちゅうんはこの後輩から確認を頼まれてた資料や。何が悲しゅうて誕生日に持ち帰り仕事をと思てたけど、今朝たまたま礼奈にそれを言ったら「頼りにされてるんだね」やって。「いいように使われてるだけや」て答えたけど、内心感動を噛み締めとったわ。
いや、高校生やのに凄くないかそのコメント。百点満点やろ。百点なんて生ぬるいな、百二十点満点や。相手に負担なく、かつさりげなく気分を上げてくれる返しやん。そう思うやろ?
はー、ほんまいい子に育っとるわ。政人も彩乃さんも子育て成功やな。少なくとも礼奈の成長には俺が太鼓判押したる。その兄貴どもは知らんけど。
「……金田さん、にやついてますけど」
「え、あ、すまん」
いかんいかん。礼奈のことを考えとったらつい頬が緩んどった。後輩は半眼になりつつ、「ったくもー。どんないい夜過ごしたんですか、羨ましいなー。このっ、このっ」と肘でぐりぐり脇をつついてくる。
俺は「ははは」と笑いながら、心中で言い返したわ。
そーやろ! ええやろ! 浴衣姿の女子(従妹)と花火大会から帰ってきて(花火は見てない)、熟女(ばあちゃん)の手料理食って、深夜までお前の資料確認して、朝も熟女と女子高生(ばあちゃんと従妹)に「いってらっしゃい~」言うて見送られたねんで!
どうや、羨ましい誕生日やろ! こんちくしょー!!
ええねん、ええねん。大台に乗る日の夜に、ひとりで過ごさんで済んだだけありがたいこっちゃ。あんまり贅沢言うとばちが当たるもんな。実際まあまあほっこり過ごせたんやし、ええことにしとこ。深く考えたらあかん。
こうして俺は無事、童貞をこじらせた三十代に突入したのだった。完。(あ、いやまだ話は続くで)
たぶん俺のために早起きしてくれたんやけど、「別に栄太兄のためじゃないもん」なんて言うのがもう、典型的なツンデレにしか見えへん。素直じゃないところがまたかわええんやわ。
自分じゃポーカーフェイスのつもりかも知れへんけど、礼奈はいちいち目が泳いだり赤くなったりするから丸分かりやねん。はぁー、ほんまかわええ。
何度も言うけど、もちろん変な意味やないで。赤ん坊の頃から見てきた、いわば妹分やからな。でも最近はその感覚も、どんどん変わってきとる自覚はある。結婚やら子どもやらを諦め始めたからか、もはやオジの心境ちゅうか父親の心境ちゅうか――そこ、哀れみの目で見んといてくれる? 正直、自分でも言うてても切ないねん。
大丈夫や、俺の親父には弟がおって、そこには息子が二人おる。俺が無理でもどっちかが結婚するやろ。で、母さんには弟二人、この一人が礼奈の父親の政人やねんけど、ここにもそれぞれ息子と娘がおる。つまり両家共に、血は繋がるはずや。一家が絶える心配はない。
俺にとってはそこが、唯一の慰めや。今やイエや血なんぞどーでもええわ、ちゅう論もあるけどな。
――本音言うたら俺かてそんなんどーでもええねん! 他からいろいろ言われんでも、疲れたときに癒してくれる人が欲しいわ!!
切実な願いを心中で叫びながら、俺を乗せた電車は進む。頭の中で流れる曲はもちろん売られた子牛のあの歌や。あーるー晴れたーひーるー下がりー、いやまだ朝やな! 残念ながら1日はこれからやで!
なんやサボれる言い訳になりそうなトラブルがないもんかと思うてたけど、揺られ揺られて電車は順調に目的地へ到着した。
日本の電車は律儀やなぁ、律儀すぎやで。たまにはちょっとサボってみてもええんちゃう? ――てそれは俺もやな。知っとる。俺がちょっとばかし勇気を出して、「体調不良でも記念日でもないし介護も育児もないけど休みますー」言えばそれで済む話や。どんな白い目も甘んじて受け止める覚悟をすればいいだけの話や。それができれば、時間通りに電車回してる人たちへの批難も要らんはずやな。
それでもついつい真面目に出勤するのが俺やねん。政人みたいに外資に行けば少しは違ったろうか――と思わなくもないけど、性格の問題やな、あいつはツボの押さえどころと手の抜き方がえらい上手いからな。
形ばかり真似してみても、結局叔父のようにはなれんねん。それは当然のことやけど、表面上はそれっぽく演じられるようになっただけでもよしとせなあかんな。
駅から会社に向かっとったら、後ろから「あれっ?」と声がした。例の後輩や。
「金田さん、家この路線でしたっけ?」
「いや、違うねんけど……今日はちょっと」
「あっ、もしかして!」
後輩が俺の言葉を遮ってニヤリとした。
「あー、そういえば昨日誕生日だったんですもんねぇ。今日は女の人のとこから出勤ですか」
「……まぁな」
ひゅー、と後輩が茶化してくる。……嘘は言うてへんで。女は女や。ばあちゃんと従妹やけど。じいちゃんもおったけど。
「資料の確認、しといたで。赤入れといたからまた会社でな」
「あっ、すいません! あざっす!」
昨日会社に忘れたものっちゅうんはこの後輩から確認を頼まれてた資料や。何が悲しゅうて誕生日に持ち帰り仕事をと思てたけど、今朝たまたま礼奈にそれを言ったら「頼りにされてるんだね」やって。「いいように使われてるだけや」て答えたけど、内心感動を噛み締めとったわ。
いや、高校生やのに凄くないかそのコメント。百点満点やろ。百点なんて生ぬるいな、百二十点満点や。相手に負担なく、かつさりげなく気分を上げてくれる返しやん。そう思うやろ?
はー、ほんまいい子に育っとるわ。政人も彩乃さんも子育て成功やな。少なくとも礼奈の成長には俺が太鼓判押したる。その兄貴どもは知らんけど。
「……金田さん、にやついてますけど」
「え、あ、すまん」
いかんいかん。礼奈のことを考えとったらつい頬が緩んどった。後輩は半眼になりつつ、「ったくもー。どんないい夜過ごしたんですか、羨ましいなー。このっ、このっ」と肘でぐりぐり脇をつついてくる。
俺は「ははは」と笑いながら、心中で言い返したわ。
そーやろ! ええやろ! 浴衣姿の女子(従妹)と花火大会から帰ってきて(花火は見てない)、熟女(ばあちゃん)の手料理食って、深夜までお前の資料確認して、朝も熟女と女子高生(ばあちゃんと従妹)に「いってらっしゃい~」言うて見送られたねんで!
どうや、羨ましい誕生日やろ! こんちくしょー!!
ええねん、ええねん。大台に乗る日の夜に、ひとりで過ごさんで済んだだけありがたいこっちゃ。あんまり贅沢言うとばちが当たるもんな。実際まあまあほっこり過ごせたんやし、ええことにしとこ。深く考えたらあかん。
こうして俺は無事、童貞をこじらせた三十代に突入したのだった。完。(あ、いやまだ話は続くで)
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
年下夫の嘘
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
結婚して三ヶ月で、ツェツィーリエは一番目の夫を亡くした。朝、いつものように見送った夫は何者かに襲われ、無惨な姿で帰ってきた。
それから一年後。喪が明けたツェツィーリエに、思いもよらない縁談が舞い込んだ。
相手は冷酷無慈悲と恐れられる天才騎士ユリアン・ベルクヴァイン公爵子息。
公爵家に迎え入れられたツェツィーリエの生活は、何不自由ない恵まれたものだった。
夫としての務めを律儀に果たすユリアンとの日々。不満など抱いてはいけない。
たとえ彼に愛する人がいたとしても……
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
婚約破棄から始まる物語【完】
mako
恋愛
メープル王国王太子であるアレクセイの婚約者である公爵令嬢のステファニーは生まれた時から王太子妃になるべく育てられた淑女の中の淑女。
公爵家の一人娘であるステファニーが生まれた後は子どもができぬまま母親は亡くなってしまう。バーナディン公爵はすぐさま再婚をし新たな母親はルシャードという息子を連れて公爵家に入った。
このルシャードは非常に優秀であり文武両道で背の高い美男子でもあったが妹になったステファニーと関わる事はなかった。
バーナディン公爵家は、今ではメープル王国のエリート一家である。
そんな中王太子より、ステファニーへの婚約破棄が言い渡される事になった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる