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.2 イトコたち
07 従弟が俺を馬鹿にする
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「あははははははは、はーっはっはっはっは!!」
爆笑しとるんは俺の従弟、健人や。息も絶え絶えになりながら腹を抱えて転げまわり、机やら床やらクッションやら、ひとしきり叩き回ってからようやく満足したらしく、涙の浮かんだ目を拭った。
「マジ!? それ、超ウケるんですけど!!」
ほとんどギャルのノリに、思わず半眼を向ける。まだ笑いが収まらないらしい健人は、俺より十年下の二十歳。礼奈の二つ上の兄にあたる。
大学生になってからというもの、ちょこちょこ俺の家を出入りするようになった健人は、この日も俺の家に泊まりに来ていた。例の合コンから二日後、頬につけられたひっかき傷も多少目立たなくなってきたところだったやけど、めざとい健人はすかさず気づいて、事情を聞かれてつい話してしまった。
「そんなん、一回抱いてやりゃよかったのに。んで、もう連絡してくんな、とでも言えば」
――なんて話すあたり、こいつ間違いなく政人の息子やな。そんでもってどう考えても、この手の話に俺と健人の間に隔たる十年は何の効力も発揮していないらしい。――つまり、
「……健人。つまらんこと聞いてええか」
「何?」
「お前、初めてしたの、いつや?」
健人はとたんに笑いを引っ込め、ぽかんとして俺を見た。
え、もしかしてバレた? 別に変な質問やないやろ。そう、えーと、年頃のイトコ同士やったら出てもおかしくない話題のはずや。
しかも、俺はこいつらの兄貴分やで。そうや、変やない。変やない――
「……中学んときかな」
数秒後、あっさり言われて絶句した。
「中学ぅ!?」
「あ、父さんと母さんには内緒ね」
あったり前やろ! ちゅ、中学やと!? 中坊でそんな、い、いかがわしいことしたったんか!?
「お、お前、その頃もうんこーちんちんー言うて喜んではったくせに!」
「何それ。そんな小学生じゃあるまいし。栄太兄面白すぎるよ」
うそや! 中学んときも、うんこちんちんで喜んでたやんか! 大ウケしてはったん、忘れてへんで!!
「――で、俺は質問に答えたわけだけど」
にやり、と健人が笑った。
あ、これヤバいやつや。何かと洞察力に秀でた従弟を警戒する。
「栄太兄は? ――もしかして、いまだに童貞とか言わないよね?」
こっっっっいつぅぅぅぅううう!!
童貞の何が悪いねん!!
――と叫びたい気持ちは満々だが、ここはぐっと堪える。堪える。――堪えろ、俺!
「……まさかやろ」
「いや、間が長い。長すぎる。え、マジで? 栄太兄、マジで経験ないの?」
あかぁああああん! がっつりバレとる!! 取りつくろえ!! 取りつくろうんや!!
「そ、そんなことないで。経験ないことないっちゅーか、そりゃ、三十路まで生きてりゃあ……」
「栄太兄、栄太兄、どっち向いてんの。こっち見てこっち。俺、こっちだって」
目を逸らしながら言うたら、ぱたぱた手を振られた。
あー、あかん。俺、嘘つけへん男やった。すまん、ムスコよ。俺はまたお前を傷つけてしまうかも知れん。
内心で血の涙を流しながら、トラウマをわんさか抱えるムスコを想っていた俺やったが、健人は思いの外おとなしく「へぇ」と微笑んだだけやった。
え。絶対、馬鹿にするやろうと思うてたのに。何で? 何で??
「そうなんだ。……彼女もいたことあんのに?」
……もうこいつには何言うてもお見通しやな。
穏やかな問いかけに、俺は取りつくろうことを諦め、話し始めた。母の呪い。歴代の彼女たちのこと。――そして、つい先日の合コンのことまで。
話をふむふむと聞いたあと――聞き手に徹したときの健人の傾聴能力たるや、もうびっくりするほど話しやすいねんな、これが――健人は心底同情するような目で俺を見た。
「……そりゃ、怖い想いをしたね……」
ぽんと肩を叩かれれば、共感を得られた喜びに身も震える。
「いや、てっきり栄太兄経験豊富だと思ってたからさ。……でもそっか、まあそう言われれば確かに」
「確かに、何や」
「いや、エロ話のリアリティに乏しかったかもって」
そりゃそうやろ、俺のエロ経験値といえばせいぜいエロ漫画かエロ動画くらいなもんや。むくれてそっぽを向いてやると、健人は「まあまあ」と肩を叩いた。
「あー、そっかそっか。そうなのか。いや、すげぇ納得。うん、えーと、よかったね」
「はぁ?」
オマケのような語尾に、俺は思わずイラっとする。
「何がええねん! おかげですっかりこじらせ三十路やで!」
「いや、でもさ。ヤッたことがあって、『この下手くそ!!』て言われてトラウマになるよりよっぽどよくない?」
こ、こいつっ! 余裕かましやがって!!
「経験済の人間がぬけぬけと! ――お前に童貞の気持ちが分かってたまるか!!」
「あ、うん。まあ、そうね。そうかも。分かんないかも」
憤然と言うた俺に、健人兄はそう答えて、何か思い出したように手を叩いた。
「――そうじゃん。そういえば、隼人さんも、香子さんが初めてだったんでしょ? いいんじゃない、結婚相手が初めてで、他知らないってのも……」
言ってから、健人は気づいたらしい。そう――
「隼人兄ちゃんが結婚したの、二五んときやで」
「そうだったねー」
健人はあははと乾いた声で笑った。現時点でもう五年の差がついとる。この差はデカいねんで!
「ま、でも大丈夫だよー。分かってくれる女子もいるよー」
「下手な慰めはよせ! 逆に辛いわ!!」
明らかに適当な慰めを口にする従弟に、俺は拳を握って言い返したのだった。
爆笑しとるんは俺の従弟、健人や。息も絶え絶えになりながら腹を抱えて転げまわり、机やら床やらクッションやら、ひとしきり叩き回ってからようやく満足したらしく、涙の浮かんだ目を拭った。
「マジ!? それ、超ウケるんですけど!!」
ほとんどギャルのノリに、思わず半眼を向ける。まだ笑いが収まらないらしい健人は、俺より十年下の二十歳。礼奈の二つ上の兄にあたる。
大学生になってからというもの、ちょこちょこ俺の家を出入りするようになった健人は、この日も俺の家に泊まりに来ていた。例の合コンから二日後、頬につけられたひっかき傷も多少目立たなくなってきたところだったやけど、めざとい健人はすかさず気づいて、事情を聞かれてつい話してしまった。
「そんなん、一回抱いてやりゃよかったのに。んで、もう連絡してくんな、とでも言えば」
――なんて話すあたり、こいつ間違いなく政人の息子やな。そんでもってどう考えても、この手の話に俺と健人の間に隔たる十年は何の効力も発揮していないらしい。――つまり、
「……健人。つまらんこと聞いてええか」
「何?」
「お前、初めてしたの、いつや?」
健人はとたんに笑いを引っ込め、ぽかんとして俺を見た。
え、もしかしてバレた? 別に変な質問やないやろ。そう、えーと、年頃のイトコ同士やったら出てもおかしくない話題のはずや。
しかも、俺はこいつらの兄貴分やで。そうや、変やない。変やない――
「……中学んときかな」
数秒後、あっさり言われて絶句した。
「中学ぅ!?」
「あ、父さんと母さんには内緒ね」
あったり前やろ! ちゅ、中学やと!? 中坊でそんな、い、いかがわしいことしたったんか!?
「お、お前、その頃もうんこーちんちんー言うて喜んではったくせに!」
「何それ。そんな小学生じゃあるまいし。栄太兄面白すぎるよ」
うそや! 中学んときも、うんこちんちんで喜んでたやんか! 大ウケしてはったん、忘れてへんで!!
「――で、俺は質問に答えたわけだけど」
にやり、と健人が笑った。
あ、これヤバいやつや。何かと洞察力に秀でた従弟を警戒する。
「栄太兄は? ――もしかして、いまだに童貞とか言わないよね?」
こっっっっいつぅぅぅぅううう!!
童貞の何が悪いねん!!
――と叫びたい気持ちは満々だが、ここはぐっと堪える。堪える。――堪えろ、俺!
「……まさかやろ」
「いや、間が長い。長すぎる。え、マジで? 栄太兄、マジで経験ないの?」
あかぁああああん! がっつりバレとる!! 取りつくろえ!! 取りつくろうんや!!
「そ、そんなことないで。経験ないことないっちゅーか、そりゃ、三十路まで生きてりゃあ……」
「栄太兄、栄太兄、どっち向いてんの。こっち見てこっち。俺、こっちだって」
目を逸らしながら言うたら、ぱたぱた手を振られた。
あー、あかん。俺、嘘つけへん男やった。すまん、ムスコよ。俺はまたお前を傷つけてしまうかも知れん。
内心で血の涙を流しながら、トラウマをわんさか抱えるムスコを想っていた俺やったが、健人は思いの外おとなしく「へぇ」と微笑んだだけやった。
え。絶対、馬鹿にするやろうと思うてたのに。何で? 何で??
「そうなんだ。……彼女もいたことあんのに?」
……もうこいつには何言うてもお見通しやな。
穏やかな問いかけに、俺は取りつくろうことを諦め、話し始めた。母の呪い。歴代の彼女たちのこと。――そして、つい先日の合コンのことまで。
話をふむふむと聞いたあと――聞き手に徹したときの健人の傾聴能力たるや、もうびっくりするほど話しやすいねんな、これが――健人は心底同情するような目で俺を見た。
「……そりゃ、怖い想いをしたね……」
ぽんと肩を叩かれれば、共感を得られた喜びに身も震える。
「いや、てっきり栄太兄経験豊富だと思ってたからさ。……でもそっか、まあそう言われれば確かに」
「確かに、何や」
「いや、エロ話のリアリティに乏しかったかもって」
そりゃそうやろ、俺のエロ経験値といえばせいぜいエロ漫画かエロ動画くらいなもんや。むくれてそっぽを向いてやると、健人は「まあまあ」と肩を叩いた。
「あー、そっかそっか。そうなのか。いや、すげぇ納得。うん、えーと、よかったね」
「はぁ?」
オマケのような語尾に、俺は思わずイラっとする。
「何がええねん! おかげですっかりこじらせ三十路やで!」
「いや、でもさ。ヤッたことがあって、『この下手くそ!!』て言われてトラウマになるよりよっぽどよくない?」
こ、こいつっ! 余裕かましやがって!!
「経験済の人間がぬけぬけと! ――お前に童貞の気持ちが分かってたまるか!!」
「あ、うん。まあ、そうね。そうかも。分かんないかも」
憤然と言うた俺に、健人兄はそう答えて、何か思い出したように手を叩いた。
「――そうじゃん。そういえば、隼人さんも、香子さんが初めてだったんでしょ? いいんじゃない、結婚相手が初めてで、他知らないってのも……」
言ってから、健人は気づいたらしい。そう――
「隼人兄ちゃんが結婚したの、二五んときやで」
「そうだったねー」
健人はあははと乾いた声で笑った。現時点でもう五年の差がついとる。この差はデカいねんで!
「ま、でも大丈夫だよー。分かってくれる女子もいるよー」
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