マイ・リトル・プリンセス

松田丹子(まつだにこ)

文字の大きさ
94 / 100
.13 ふたりでひとつ

94 従弟からのメッセージ

しおりを挟む
 翌朝、目を覚ました俺は、隣で眠る礼奈を見やった。
 昨夜の乱れた姿が嘘みたいに、すやすや眠る姿は無垢で、寝乱れた髪をそっと撫でる。
 礼奈はもう、コトを終えるかどうかのところで意識があるのかないのか分からんような状態になってたけど、風邪でも引かせたら大変やから、とりあえず俺の部屋着を着せておいた。
 だぼついた服が一層、礼奈を子どもみたいに見せてるのかも知れん。
 そのまま隣でまどろみたい気持ちを制して、ベッドから滑り出る。
 昨日はあんまり家事できへんかったから、今日まとめてするつもりや。
 ――礼奈は、朝食いるやろうか。
 あれだけ酔ってたし、あんまり食欲ないかもしれへんな。するっと食べられるもん、なんかあったっけ……
 冷蔵庫を見てみても、ぴんとくるもんはない。
 買いに行くか。
 もう一度、礼奈の部屋をのぞきこんだ。リズミカルな寝息に向かって、試みに、「ちょっと買い物行ってくるな」と小さく声をかけたけど、返ってきたのは深い呼吸の音だけ。
 この様子やったら、しばらく起きそうにないな。
 そう確認して、家を出る。
 徒歩五分のコンビニに入ると、うどん、ヨーグルト、ゼリー辺りを適当に身繕った。
 二日酔いのときにあると嬉しいもの……
 自分の経験を思い返して、品物をカゴに突っ込む。
 レジに向かおうとしたところで、ふと青空が目に入った。
 今日もまたいい天気やな。礼奈とどっか散歩にでも行くか……
 まだふたりでゆっくり過ごした日は少ないから、ただの街中散策もふたりで歩けば楽しいイベントになるはずや。
 ……ああ、でも、それもこれも、礼奈の体調次第やな。
 身内のザルっぷりを見てると酒には強い体質やと思うけど、礼奈自身がどうかはわからへん。二日酔いになっとったらかわいそうやな。
 思って、そういう用のドリンクもカゴに放り込み、帰路についた。
 礼奈はまだ、寝てるやろか。
 洗濯でもしながら起きるのを待つか。
 そんな算段をつけながら玄関をくぐり、リビングへ入る。
 買ったものを冷蔵庫やらなんやらにしまっていたら、礼奈の部屋のドアが開いた。

「あっ……」

 俺に気づいた礼奈が、慌てた様子で口を押さえる。
 気分、悪いんやろか。
 心配になったが、できるだけ穏やかに微笑んだ。

「おはようさん。昨日はえらい飲んだみたいやな。大丈夫か?」
「う……うん……だ、大丈夫……」

 壁に背中を這わせるみたいに横歩きする礼奈は目を合わせへん。
 だぼっとした俺の部屋着は、ほとんどワンピース状態や。
 ほんとならそのまま抱き締めたいくらいかわいいけど、なんとなく近づくなという圧を感じた。

「朝めしはどうする? 俺もこれからやけど」
「うん……先……シャワー浴びる……」
「ああ、そやな。そうせい」

 風呂に入らず眠ってしまったから気持ち悪かろう。あいづちを返して、自分用のトーストを焼き始めた。
 俺の視線が手元に行った隙にとでもいうように、礼奈は素早く風呂場に入って戸を閉める。
 なんやろなぁ。
 笑いが込み上げたけど、ドアの向こうで聞いてるかもしれんから、声に出すのは控えた。
 酒に失敗したのは自覚してそうやったから、俺から強く言う気はないけど……
 昨夜の姿を思い出してふと手を止める。
 ああいうときの言葉は本音やて聞くな。
 朝子のところに行かないで……か。
 結婚前、礼奈が言うたことがあった。朝子だったら、もっとスムーズに結婚できてただろうに、とか、なんとか――
 あれはあのときの、言葉のアヤ、みたいなもんやと思うてたけど……。
 ……未だに、不安なんやろか。
 浴室の入り口に目をやった時、俺のスマホが鳴った。
 見やれば、そこには従弟の名前がある。
 昨夜、礼奈に寄りかかられていた姿を思い出して、複雑な感情が胸によみがえった。
 いつもは連絡しても返事もせえへんくせに、いったい何やろ。
 ちょっとムッとしながら開くと、そこには一言だけのメッセージ。

【仲直りした?】

 仲直りもなにも、喧嘩したつもりないねんけどな。
 不貞腐れつつそう返したら、翔太からは珍しくすぐ返事があった。

【大事にしなよ】

 意外な言葉にまばたきする。
 あの唯我独尊な男の台詞とも思えへんな。
 思うて、返信をためらううち、また次のメッセージが届いた。

【栄太郎お兄ちゃんが大好きなんだ、栄太郎お兄ちゃんじゃないと嫌なんだって、何度も言ってたんだから】

 なんや、それ。
 ――かわいすぎ、やんか。

 翔太の言葉がよみがえる。「かわいいね、礼奈ちゃん」。そう言うたのは、そういうことやったのか。
 そんなん、翔太やなくて俺に言え。俺に……言ってくれれば、たくさん愛してやるのに。
 ぐるんぐるん、腹の中を色んな感情が巡る。

【今度不安そうにしてるの見たら、悠人くんと健人くんに言うからね】

 翔太からは続けてそう送られてきて、それにはすかさずツッコんだ。

【なんであの二人やねん】
【だって、なんだかんだで政人さんより厳しそうだから】

 あー、まあ、そうかもしれん。
 政人は俺が小さいときから面倒を見てくれてたこともあって、なんだかんだで俺に甘いところがある。
 ひとり娘のこととはいえ、相手が俺だと手加減もするやろうけど、兄ふたりはそうじゃない……てことやろう。
 手加減のない従弟――そうやったなぁ。前、健人に言われたんやった。
 そんなんじゃ、礼奈のことはやらないよ。日和るのが悪い……だなんて。
 日和っとるつもりはないけど、強引に話を進める必要はないやろ、てなにかと引きがちなのは確かや。
 それでも、ときには強引さも必要なのかも知れん。
 もう一度、浴室の方を見やる。
 俺を避ける風の礼奈を思い出して、さてどうするかと首を傾げた。
 とりあえず、コーヒーでも淹れよう。礼奈もよほど具合が悪くなければ、一緒に飲むやろうし……それでゆっくり、話をしよう。
 そう決めて、結婚してからふたりで買った電動ミルを取り出した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

年下夫の嘘

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
結婚して三ヶ月で、ツェツィーリエは一番目の夫を亡くした。朝、いつものように見送った夫は何者かに襲われ、無惨な姿で帰ってきた。 それから一年後。喪が明けたツェツィーリエに、思いもよらない縁談が舞い込んだ。 相手は冷酷無慈悲と恐れられる天才騎士ユリアン・ベルクヴァイン公爵子息。 公爵家に迎え入れられたツェツィーリエの生活は、何不自由ない恵まれたものだった。 夫としての務めを律儀に果たすユリアンとの日々。不満など抱いてはいけない。 たとえ彼に愛する人がいたとしても……

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

婚約破棄から始まる物語【完】

mako
恋愛
メープル王国王太子であるアレクセイの婚約者である公爵令嬢のステファニーは生まれた時から王太子妃になるべく育てられた淑女の中の淑女。 公爵家の一人娘であるステファニーが生まれた後は子どもができぬまま母親は亡くなってしまう。バーナディン公爵はすぐさま再婚をし新たな母親はルシャードという息子を連れて公爵家に入った。 このルシャードは非常に優秀であり文武両道で背の高い美男子でもあったが妹になったステファニーと関わる事はなかった。 バーナディン公爵家は、今ではメープル王国のエリート一家である。 そんな中王太子より、ステファニーへの婚約破棄が言い渡される事になった。

処理中です...