マイ・リトル・プリンセス

松田丹子(まつだにこ)

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.13 ふたりでひとつ

86 素直な気持ち

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 ベッドに礼奈を横たえると、スタンプを押すようにキスを落としていく。
 顔に、身体に、首筋に――
 甘い香りは、強くなったり、弱くなったりして、俺を翻弄する。
 ――どこに、香水つけたんやろ。
 気づけば、香りの根源を探すように、あちこちに鼻先をあてていた。

「ふふ、くすぐったいよ」

 礼奈が笑って身じろぎする。その動きと表情がかわいくてまた、首筋に鼻先を寄せた。

「香水、どこにつけたんかと思て」
「ああ……」

 ここ、と礼奈が示したのは手首の内側やった。「でも、耳の後ろにもつけたから、そこからかも?」て言われて耳後ろに鼻を寄せる。
 確かに、甘い香りがした。
 これは――俺が贈った香りやからな。
 この子は俺のもんや――そんな独占欲じみた喜びがこみ上げる。
 強く香る耳の後ろを舐めると、礼奈が「ひゃ」と小さく声をあげた。
 ――かわいい。
 そのまま、耳に舌を這わせた。軟骨のラインを辿るように、舌先で。次いで、柔らかく食むように唇で。
 耳の上から耳たぶまで、キスをしながらその中まで、舌で辿っていく。

「っ、っ……」

 ぴくんぴくん震える礼奈が、かわいくてたまらない。
 そういえば、こんなに耳攻めたこと、なかったか。
 礼奈の身体は少しずつ、快楽を学んでいる。それは全部俺が教えたもんや……俺が少しずつ、教えた。
 こんな礼奈を、他には誰も知らへんのやなと思うと、それだけで嬉しくてたまらん。

「……礼奈」

 耳を攻める合間に、吐息のような声で呼ぶと、礼奈はひときわ大きく震えた。
 ふふ、分っかりやすい反応やなぁ。

「……耳、弱いらしいな」
「し、知らなっ、ぁ……」

 くちゅ……とわざと音を立てて、耳を舌でなぶってやる。
 礼奈は溺れまいとするかのように、慌てて俺にしがみついた。
 その手を、優しく撫でてやる。

「……かわいいな」
「っゃ、ん……」
「俺の声、好き?」
「っ、ばかぁ……」

 涙目で言われる「馬鹿」なんて、男を煽るだけやて。

「ほんま、かわいい」
「っ、も、もういいっ、から……ぁ」

 くちゅ、ちゅ……
 耳を食みながら、手を身体に滑らせていく。肩。腕。胸。脇腹……下腹部までたどり着いて、下着の上から茂みをなぞる。

「……もう、濡れてる?」
「い、言わないでっ……」

 ええやん、言うたって。
 ここには、俺と礼奈しかおらんねんで。
 静かに笑って、キスをする。深く唇を重ねて、舌を絡める。
 離れるとき、吐息と共に唾液が互いの唇を伝った。見つめ合う目に映った熱が、俺を求めてるのを見て取る。

「……ちょっと、待ってて」

 ゴムを――
 今日は……上手くできるやろか。
 緊張が胸を刺す。
 今まで身体を重ねようとして、我に返ってもうて駄目やったのは大概ゴムを着けるときや。
 そこが乗り越えられれば、繋がれるはず――
 ゴムを取ろうと身体を離そうとした俺の腕を、礼奈が引き留めた。

「……そのまま」
「え?」
「そのまま……して」

 ……そのまま?
 何、言うてんの?
 そんなん、したら――そんなん……
 動きを止めた俺の頭に、彩乃さんの顔が浮かぶ直前、礼奈は小さな声で補足した。

「午前中……婦人科、行って。ピル、もらったの。だから……」

 妊娠、しないから。
 そう言って、俺を見つめる。その目は間違いなく俺を求めとるのが分かって、胸が震えた。
 そっか。今までの数度で、礼奈も察したんやろう。ゴムを着けるとき、俺が駄目になることが多いて。
 上手くいかへんのは、俺の問題やのに……礼奈も礼奈なりに、自分にできること考えてくれたなんて。
 申し訳なさと同時に、じわっとあたたかいものも感じた。
 もっと繋がりたいて思うてんのは……俺だけやないんやな。
 胸がいっぱいになって、礼奈をぎゅうと抱きしめる。
 一度うなだれかけた下腹部の高ぶりは、一気に痛いほど張り詰めて、礼奈の中を求める。

「……ほな……そのまま、挿れるな」
「……うん」

 こくっと、礼奈がうなずく。気恥ずかしいのか、俺の肩に顔を隠すように抱きつく。俺はそれを受け止めて、礼奈の入り口に熱をあてがい、ゆっくり推し進めた。
 薄い皮なしに、そのままの俺が礼奈に飲まれてく。
 ああ、そうか――今、礼奈と直接繋がっとるんや。
 そう思うと、ぞわぞわした。背中から腰に悪寒みたいな甘い痺れが走る。強引に押し入りたい衝動がこみ上げて、息を詰める。
 無理に進めたくない。礼奈に気持ちよくなってもらいたい。俺の欲望は二の次でいい……けど、礼奈とたくさん、繋がっていたい。
 ゆっくり、ゆっくり、細く息を吐き出しながら、狭い道に押し入っていく。異物を拒むようなうねりも、ゆっくり進めばむしろ引き入れるような気配に変わって、あったかくて柔らかくて……満たされる。

「はい、った?」
「……ん」
「よかった」

 ほにゃりと、礼奈が微笑む。まだ数度しか入ったことがないから、ちょっと窮屈そうに息を詰めてはる姿が愛おしい。
 こみ上げた喜びに任せて、ぎゅっと礼奈を抱きしめたら、「はぅっ」て礼奈が息を吐いた。

「え、だ、大丈夫か? 苦しい?」
「う、ううん、大丈夫……奥にぐってきたから、びっくりしただけ」

 おどおどして身を引きかけたら、礼奈の手が伸びてきて俺の背中に回る。
 次いで、くすくす笑う振動が伝わってきた。

「大丈夫だって。栄太兄は優しいなぁ」

 俺がナカで力を失いかけたのを察したらしい。
 優しい、て……うーん、なんか悔しいな。

「……もっと男前になりたいのになぁ」
「あはははは、なんで? 今のままでいいよ」

 礼奈が笑って、髪をすくい上げるように俺の頭を撫でる。一回り離れてることも忘れるくらい穏やかな手つきに、黙ってそのまま身を任せる。

「あんまり男前になりすぎたら、心配だもん。そういうかわいいとこも、好きなの」

 かわいい、か。
 ……好き、か。
 おまけのように付け足された言葉と同時に、ちゅ、と頬に唇が触れる。そのどちらに反応したのか、ムスコがびくんとやる気を取り戻した。

「俺は、礼奈をかわいがりたいんやけどなぁ……」
「えっ、あ、あれ?」
「おかげで復活したから……存分に堪能させてな」

 のしかかるようにして見下ろすと、目を泳がせた礼奈は手で顔を隠した。

「またそんなんして。かわいい顔、隠さんどいて」
「か、かわいくない」
「かわいい」
「かわいくない」
「かわいいて――なんやねん、この問答」

 笑って礼奈の手首を取り、顔の横に縫い止める。頬にキスをすると、額を重ねて目を見つめた。

「……好きやで、礼奈」
「……うん」

 うん? それだけ?
 目で訊ね直すと、礼奈は困ったような顔のまま、囁くように答えた。

「私も……好きだよ」

 俺は笑って、その頭を抱き寄せる。
 もっと言ってや。そう囁きながら、笑うた。そういえば、前は礼奈に、そう言われてたんやったな。もっと言って。好きって言って――そうや、あのときは「好き」よりもっと――

「……あいしてる」

 どちらともなくこぼれた言葉に、額を寄せ合って、口づけた。
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