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仲間1
はぐれ竜(1)
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今日も街のハンターギルドは盛況だ。旅のモンスターハンターがここまでの旅の途中で倒したモンスターの結晶石を早速と換金申請をしていたり。
レウィンドの街に住み着いているギルド員が壁に張り出された魔物の手配書を眺めては獲物の品定めをしていたり。
街の加工屋がとある魔物の結晶石の在庫はあるのか、なければ取りに行って欲しいと依頼を持ちかけている。ギルドの受付所脇にある椅子に腰掛けながら俺はのんびりとしていた。
そんな時だ。
「おい、カミュ!聞いてくれよ」
ギルドの入口から興奮した面持ちの、ギルド仲間が飛び込んできた。
「どうしたんだよセルグ、街中で可愛い娘でも見つけたのか?」
「ばっか、違げーよ!隣町のスレスタに霧の森ってのがあるじゃん?あそこのシャドーウルフの結晶取りに行ってたんだけどさー見ちゃったんだよ」
「なにが」
「妖精!!」
妖精、確かに珍しいものを見たかもしれないがそういう発見例はよくあるものだ。それ程興奮するもんじゃないのに、と思ったのだけど本題は違っていたようで。
「でさ、何処かに向かってるみたいでもしかしたら面白いことあるかもと思ってこっそり付いていったわけだ…そしたら」
「…そしたら?」
「聞いて驚け」
「いいから言えよ」
勿体ぶるような言い方のギルド仲間に苦笑を浮かべて続きを促すと、そいつはにやりと笑って。
「妖精の向かった先にさ、一カ所だけ霧が避けてるような広場があってそこにでっかい卵がどっかり置いてあったんだ!あれ絶対竜の卵だぜ!」
それ程セルグの声は大きい訳じゃなかった。けれど『竜の卵』という言葉に一瞬ギルドが静まり返る。それを感じつつ、俺は小さくため息を吐いた。
「…お前さー、誰かに自慢したかったのは分かるけど言う場所選んだ方がいいぜー」
ここは、他の街にあるギルドとはまた違った形態なのだから。
レウィンド。
この街はあまり美徳ではない収集癖を持つ権力者が収める街だ。あまり関心できない収集物は、レアなもの。
それがあるブランド物製品だったり、魔物の結晶石だったりならまだ良い方だがここの領主の趣味はそんな可愛いものじゃない。
時に収集の対象が人間だったりするからだ。人の中に稀に身体の一部に魔力の凝縮された塊の結晶を持って生まれたもの、それの収集とか。
生身の結晶持ちの人間から結晶だけ取り除こうとすると宿主は死ぬことになる。だからなのかは知らないがどこかで結晶を持った人間が死んだと情報を掴んでは遺族に大金を払って手に入れようとしたり。
どうみても出所が怪しい闇市から買い付けたものを装飾品に仕立てて身飾っている。それと竜族関係の身体の一部も大事なコレクションらしい。
そして悲しいことに、俺もやつのコレクションの一部なのだ。
持って生まれるのが稀である結晶を持ち、とある過去の出来事で純粋魔物であるミラージュの瞳を片目に持つオレは領主の生きたお気に入りとされている。その所為かギルドでの領主の俺に対する優遇は良いが正直気持ち悪い。
そして俺が死んだから嬉々としてこの頬の結晶と、ミラージュの瞳を抉り取って屋敷に飾るだろう見え見えのバッドエンドが想像できるだけにギルドの仕事も気が抜けない。
しかし結晶持ちは常人に比べて能力が優れているということもあり最悪の結果を軽く跳ねてきたのだけど。この街のギルドはそんな領主の収集欲を満たすために私兵団扱いだ。
と、俺のことはいい。
とにかく領主のコレクションとしての範囲内である竜関係の品。そんな話しがギルド内でされるなんて。
現にギルドに常駐している領主の私兵が慌てたように出て行く姿を見て、俺『カミュ・レグルド』は深くため息を吐いた。
数日前、レウィンドの街にほど近いスレスタの街傍にある霧の森にて竜のものらしい巨大な卵が見つかったとセルグの発言を元に領主からギルドへの依頼という形で俺はそれを回収しに行く羽目になってしまった。
元々レウィンドのギルドはここの領主の私財を投じて作られたものだから断われるわけもない。それが例え、この大陸の違反とされることに通じていようとも。
領主の私兵とそしてここのギルド員の一部で口を閉ざしてしまえば問題ないということだろう。
領主のお気に入り、という理由で俺までその巨大な卵の回収に向かう隊に入れられてしまった。昔からミストフォレストには人を寄せ付けない魔の霧がある、とされているのが俺も捜索隊に入れられたのも理由ではあるのだろうけど。
そう考えながら片目を押さえる。俺の左目には、大事な友達だったやつから譲り託された『幻惑の眼』がある。
この瞳はかなり高レベルの幻惑もある程度は無効化するとこが出来る。といっても真実が見えるのはこの眼を持っている俺だけで流石に一緒に来る人間には効果はないけれど。
場合によっては自分だけその魔法の霧内に入って同行者と分かれてしまい『自分だけ中心に行けたけど見つかりませんでした』とでも報告してしまえば解決しないだろうか、と思う。
セルグには悪いが妖精に惑わされたとでもしてもらおう。とにかく俺はこの捜索に行く事に関しては消極的だった。
それなのに。
丸一日掛けて辿り着いた霧の森はここ数年言われていた様な飲み込まれたらお終いだ、と言われる様な濃い霧は見当たらない。薄らとだがそれなりに奥まで見える程度の霧は『普通』としかいいようの無い。
昔から強い魔物がこの霧を出しているという噂があったが誰かが倒したのか、それとも別の要因か。
呆気にとられる俺の後ろではかり出された捜索隊がこれで探すのが楽になったと喜んでいるのを見ると更に複雑な気分になってくる。
どうか、どうか見付からないでくれとそう祈りながらオレ達は森へと入っていった。
薄い霧の中、案内役の謎の卵の発見者であるセルグと共に森の奥へと進む。
見つけた時は気付いたら森の前に戻っていたそうだが、その前に帰れなくなったら困ると彼がそこらの木に縛り付けていた赤い飾り紐が間隔よく見つかる。半刻程森の奥に進んでいくと開けた場所に辿りついた。小さな広場のような場所だ。
そんな感想を持つとセルグが声をあげた。
「お、ここだよ!ここ!間違いないぜ」
早足で中央部に駆けていくのだが、『あれ?』との声。
どうしたのか、と尋ねなくても分かる。
ここがその卵のあった場所、というには目当てのものが無い。巨大なものと聞いていたがそんなものこの小さな広場で見逃すはずがない。
一緒にきていたレウィンドの領主の私兵も、本当にここなのかと訝し気にセルグに問い詰めている。
「いや、嘘じゃないって、ここで間違いねーよ」
セルグは口が軽いが嘘を付く様な仲間ではない。俺も嘘をついているとは到底思えないのだが、と考えて広場の中心部に向かう。
地面を調べると長い間重いものでも置かれていたのか地面が一部沈んでいた。周りは薄らと草が生えているにも関わらず剥き出しの土を見ると何かが『あった』のは間違いないだろう。先に誰かか見つけて運んだか、あるいは目的の何か自体が目覚めたか。
しかし何かが目覚めたにしても卵の欠片一つないのはすこし引っ掛かるが。とにかく、ここにいてももう収穫は無いだろう。
相変わらず私兵に詰め寄られっぱなしのギルド仲間を助けようと、話に割り込む。
「まー落ち着いて、ここでこいつ責めても出るもんでないでしょーに」
ギルド仲間と領主の私兵を離す事に成功するとそのまま話を続けた。
「ここは昔から妖精の住処だって言われてるし、もしかしたらこいつが妖精にからかわれて幻術見たのかもしれないし」
「カミュ…!」
当の本人は嘘じゃない、という目で見ているが仕方無い。そこらを見渡している私兵の見ぬ内に、セルグに耳打ちをする。
「俺は嘘だとは思ってないけどさ、見つからないほうがいいだろ」
「でもよ…」
「分かってるだろ、この大陸全土で竜族狩りとか身体の一部とかそれに関わる商法的取引禁止になってんの、もし本当に竜の卵だとしたらこれ立派な犯罪だぜ?」
「……そうだよなぁ」
「バレたら一番に裁かれるのは領主の方だけど、俺達も加担したって何かしら処罰受けるかもだぜ?だから、ここは誤摩化して何もなかったことにしちまおうって」
「分かった、カミュの言う通りにする。俺もあんまりコレに気乗りしなかったしさ」
「よし」
男二人で内緒話も終えてしまうと、早速二人して私兵の説得を始めた。現物が無いのだからこれ以上探しても無駄だというのは分かりきっているだろう。
それでも報酬が目当てなのか中々帰ろうとしない。領主の私兵に俺とセルグはため息を吐くと『報酬はいらないから先に帰る』と言い放つ。
この小遠征で提示された金額はかなりのものだったが、それは道中倒した魔物の落とした結晶石で我慢するしかないだろう。
肩すかしに終わったこの小遠征。しかし、気分の悪いものを目撃しないで済んだことを思うとそちらの方が大事だろう。
そんなことを考えながら森からで出ようと歩いてる途中。
この霧の森の中に、子供と見れる二人組を見つけた。一人は深い海の様な蒼い髪と、もう一人は深緑の色をした蒼い髪の子供より少し背の高い子供。
薬草摘みにでも来ているのか、それとも立派な冒険者とでもいうのだろうか、旅慣れた装束と肩に掛けた長身の剣がそう物語っている。
深緑の髪の子供はともかく、蒼い髪の子供には隙というものがなかった。親しそうに連れに話している間も周囲に気を巡らせているようで、だからか足を止めた俺にすぐ気付いたのは。
はっ、としたように素早く俺の方に視線を向ける蒼の子供に、いくらか遅れて首を傾げながらこちらに気付く緑の子。
よくよく顔を見れば蒼の子供の瞳は太陽のような黄金色。うちの領主の言葉を借りれば『レアもの』で額には、瞳と同じく金色の結晶が光っている。
子供と括るには少々態度を改めないといけないだろう。そんな思想とは別に自分以外の結晶持ちに会えたということで少しばかり気分が高揚した。
この世界で結晶をもって生まれる人間はあまりにも数が少ない。竜族は全員結晶持ちだと聞いたこともあるが地上にいる俺達にはほとんど関係の無い話だろう。
と、そんなことよりも今は明らかにこちらを警戒している二人、というか黄金色の瞳の少年に警戒を解いてもらうことが先だろう。
「こんなところで何してるんだ?ここは霧が年中出てるし、魔物もでるし危険だぜ?」
とりあえず、偶然出会ったらこういうしかないよなという言葉を投げかけてみる。と、いうかこれしか言えないというか。
そう尋ねてみると、蒼い方の子供は肩を竦めて息を吐いた。
「知ってる、というか理由もなく迂路ついている訳じゃないさ」
なんというかすごく素っ気ない。
「もうすぐ陽も暮れるしね、帰るから心配しないでいいよ」
「そ、そうか?」
「一応これでも『冒険者』だからね」
「え、と…ご心配ありがとうございます」
淡々と言葉を返す蒼の子とは反対に緑の子は丁寧というか、好印象な返事をしてくれる。うん、どちらかというと緑の子の方が可愛げがあるな。
そんなことを思っていると蒼の子が、口を開く。
「お兄さん、スレスタの人?」
「……え?あ、いや俺はレウィンドの街のハンターギルドの人間だ」
「…ふーん、じゃあここからどの方向に向かえばレウィンドの街への近道かな」
「えーっと、俺の向いてる方から北東の方角って…あんた達レウィンドいくのか?」
「……え、そうだけど何か問題でも?」
ここから西へ行けばすぐのスレスタでなく、レウィンドの街への道を尋ねてくる少年に普通に答えようとして、頭の中で『ちょっと待て』と警告が走る。
深緑の少年はともかく、蒼の少年は少しまずい気がする。金色の瞳に結晶持ち、それに良くは確認出来ないが紋章も宿しているようだし背中の剣だってどうみても普通じゃない。
全身『珍しいもの』でできているような少年にあの街に行かせるのはすごく危ない気がして、つい口出してしまう。
「俺もこんなこと言いたく無いけど、レウィンドの街が領主はちょっとアレで結晶持ちとか普通と何か違うもんにすぐ自分のものにしようとかする、危ない街だぜ?そっちのちみっこは危険過ぎる」
「………ちみっこで悪かったな」
親切心で言ったつもりが選ぶ言葉を間違えてしまった。明らかに不機嫌になった蒼い少年に冷や汗をかきつつ、言葉を続ける。
「特にレウィンドじゃなくてもいいような用事なら別の街行った方がいいぜ」
だけど。
「ご忠告はありがたく受け取っておくよ。でもあの街に残念ながら用事もあるし、それに少なからず領主のあまり関心出来ない趣味も知ってる……用心はするさ」
冷静すぎる返事に、俺の方が面食らう。まぁ知らないで行くより、全然いいけど。さっきから俺、空回りしてばっかりのような気がする。
と、多少へこんでいると何かを取り出した少年が俺に押し付けてきた。
「レウィンドへの街への方角教えてくれたのと、忠告のお礼」
「あ、あのありがとうございました、気をつけますね?」
「また街中で会うかもね。じゃそういうことで」
にこりと笑うと、少し可愛い。そんな隣で深々と頭を下げた緑の少年と共に、そのまま行ってしまった二人を俺は立ち尽くしたまま見送った。
暫くして、あの笑顔の衝撃から戻った俺は少年が押し付けてきた袋の中身を見る事にした。
すると。
「……ほんっと何者……?」
小さめの巾着サイズの袋の中いっぱいに詰め込まれてた二週間ぐらい仕事しなくても良いぐらいのミストフォレストに生息する魔物の結晶石の詰め合わせに呆気に取られた。
レウィンドの街に住み着いているギルド員が壁に張り出された魔物の手配書を眺めては獲物の品定めをしていたり。
街の加工屋がとある魔物の結晶石の在庫はあるのか、なければ取りに行って欲しいと依頼を持ちかけている。ギルドの受付所脇にある椅子に腰掛けながら俺はのんびりとしていた。
そんな時だ。
「おい、カミュ!聞いてくれよ」
ギルドの入口から興奮した面持ちの、ギルド仲間が飛び込んできた。
「どうしたんだよセルグ、街中で可愛い娘でも見つけたのか?」
「ばっか、違げーよ!隣町のスレスタに霧の森ってのがあるじゃん?あそこのシャドーウルフの結晶取りに行ってたんだけどさー見ちゃったんだよ」
「なにが」
「妖精!!」
妖精、確かに珍しいものを見たかもしれないがそういう発見例はよくあるものだ。それ程興奮するもんじゃないのに、と思ったのだけど本題は違っていたようで。
「でさ、何処かに向かってるみたいでもしかしたら面白いことあるかもと思ってこっそり付いていったわけだ…そしたら」
「…そしたら?」
「聞いて驚け」
「いいから言えよ」
勿体ぶるような言い方のギルド仲間に苦笑を浮かべて続きを促すと、そいつはにやりと笑って。
「妖精の向かった先にさ、一カ所だけ霧が避けてるような広場があってそこにでっかい卵がどっかり置いてあったんだ!あれ絶対竜の卵だぜ!」
それ程セルグの声は大きい訳じゃなかった。けれど『竜の卵』という言葉に一瞬ギルドが静まり返る。それを感じつつ、俺は小さくため息を吐いた。
「…お前さー、誰かに自慢したかったのは分かるけど言う場所選んだ方がいいぜー」
ここは、他の街にあるギルドとはまた違った形態なのだから。
レウィンド。
この街はあまり美徳ではない収集癖を持つ権力者が収める街だ。あまり関心できない収集物は、レアなもの。
それがあるブランド物製品だったり、魔物の結晶石だったりならまだ良い方だがここの領主の趣味はそんな可愛いものじゃない。
時に収集の対象が人間だったりするからだ。人の中に稀に身体の一部に魔力の凝縮された塊の結晶を持って生まれたもの、それの収集とか。
生身の結晶持ちの人間から結晶だけ取り除こうとすると宿主は死ぬことになる。だからなのかは知らないがどこかで結晶を持った人間が死んだと情報を掴んでは遺族に大金を払って手に入れようとしたり。
どうみても出所が怪しい闇市から買い付けたものを装飾品に仕立てて身飾っている。それと竜族関係の身体の一部も大事なコレクションらしい。
そして悲しいことに、俺もやつのコレクションの一部なのだ。
持って生まれるのが稀である結晶を持ち、とある過去の出来事で純粋魔物であるミラージュの瞳を片目に持つオレは領主の生きたお気に入りとされている。その所為かギルドでの領主の俺に対する優遇は良いが正直気持ち悪い。
そして俺が死んだから嬉々としてこの頬の結晶と、ミラージュの瞳を抉り取って屋敷に飾るだろう見え見えのバッドエンドが想像できるだけにギルドの仕事も気が抜けない。
しかし結晶持ちは常人に比べて能力が優れているということもあり最悪の結果を軽く跳ねてきたのだけど。この街のギルドはそんな領主の収集欲を満たすために私兵団扱いだ。
と、俺のことはいい。
とにかく領主のコレクションとしての範囲内である竜関係の品。そんな話しがギルド内でされるなんて。
現にギルドに常駐している領主の私兵が慌てたように出て行く姿を見て、俺『カミュ・レグルド』は深くため息を吐いた。
数日前、レウィンドの街にほど近いスレスタの街傍にある霧の森にて竜のものらしい巨大な卵が見つかったとセルグの発言を元に領主からギルドへの依頼という形で俺はそれを回収しに行く羽目になってしまった。
元々レウィンドのギルドはここの領主の私財を投じて作られたものだから断われるわけもない。それが例え、この大陸の違反とされることに通じていようとも。
領主の私兵とそしてここのギルド員の一部で口を閉ざしてしまえば問題ないということだろう。
領主のお気に入り、という理由で俺までその巨大な卵の回収に向かう隊に入れられてしまった。昔からミストフォレストには人を寄せ付けない魔の霧がある、とされているのが俺も捜索隊に入れられたのも理由ではあるのだろうけど。
そう考えながら片目を押さえる。俺の左目には、大事な友達だったやつから譲り託された『幻惑の眼』がある。
この瞳はかなり高レベルの幻惑もある程度は無効化するとこが出来る。といっても真実が見えるのはこの眼を持っている俺だけで流石に一緒に来る人間には効果はないけれど。
場合によっては自分だけその魔法の霧内に入って同行者と分かれてしまい『自分だけ中心に行けたけど見つかりませんでした』とでも報告してしまえば解決しないだろうか、と思う。
セルグには悪いが妖精に惑わされたとでもしてもらおう。とにかく俺はこの捜索に行く事に関しては消極的だった。
それなのに。
丸一日掛けて辿り着いた霧の森はここ数年言われていた様な飲み込まれたらお終いだ、と言われる様な濃い霧は見当たらない。薄らとだがそれなりに奥まで見える程度の霧は『普通』としかいいようの無い。
昔から強い魔物がこの霧を出しているという噂があったが誰かが倒したのか、それとも別の要因か。
呆気にとられる俺の後ろではかり出された捜索隊がこれで探すのが楽になったと喜んでいるのを見ると更に複雑な気分になってくる。
どうか、どうか見付からないでくれとそう祈りながらオレ達は森へと入っていった。
薄い霧の中、案内役の謎の卵の発見者であるセルグと共に森の奥へと進む。
見つけた時は気付いたら森の前に戻っていたそうだが、その前に帰れなくなったら困ると彼がそこらの木に縛り付けていた赤い飾り紐が間隔よく見つかる。半刻程森の奥に進んでいくと開けた場所に辿りついた。小さな広場のような場所だ。
そんな感想を持つとセルグが声をあげた。
「お、ここだよ!ここ!間違いないぜ」
早足で中央部に駆けていくのだが、『あれ?』との声。
どうしたのか、と尋ねなくても分かる。
ここがその卵のあった場所、というには目当てのものが無い。巨大なものと聞いていたがそんなものこの小さな広場で見逃すはずがない。
一緒にきていたレウィンドの領主の私兵も、本当にここなのかと訝し気にセルグに問い詰めている。
「いや、嘘じゃないって、ここで間違いねーよ」
セルグは口が軽いが嘘を付く様な仲間ではない。俺も嘘をついているとは到底思えないのだが、と考えて広場の中心部に向かう。
地面を調べると長い間重いものでも置かれていたのか地面が一部沈んでいた。周りは薄らと草が生えているにも関わらず剥き出しの土を見ると何かが『あった』のは間違いないだろう。先に誰かか見つけて運んだか、あるいは目的の何か自体が目覚めたか。
しかし何かが目覚めたにしても卵の欠片一つないのはすこし引っ掛かるが。とにかく、ここにいてももう収穫は無いだろう。
相変わらず私兵に詰め寄られっぱなしのギルド仲間を助けようと、話に割り込む。
「まー落ち着いて、ここでこいつ責めても出るもんでないでしょーに」
ギルド仲間と領主の私兵を離す事に成功するとそのまま話を続けた。
「ここは昔から妖精の住処だって言われてるし、もしかしたらこいつが妖精にからかわれて幻術見たのかもしれないし」
「カミュ…!」
当の本人は嘘じゃない、という目で見ているが仕方無い。そこらを見渡している私兵の見ぬ内に、セルグに耳打ちをする。
「俺は嘘だとは思ってないけどさ、見つからないほうがいいだろ」
「でもよ…」
「分かってるだろ、この大陸全土で竜族狩りとか身体の一部とかそれに関わる商法的取引禁止になってんの、もし本当に竜の卵だとしたらこれ立派な犯罪だぜ?」
「……そうだよなぁ」
「バレたら一番に裁かれるのは領主の方だけど、俺達も加担したって何かしら処罰受けるかもだぜ?だから、ここは誤摩化して何もなかったことにしちまおうって」
「分かった、カミュの言う通りにする。俺もあんまりコレに気乗りしなかったしさ」
「よし」
男二人で内緒話も終えてしまうと、早速二人して私兵の説得を始めた。現物が無いのだからこれ以上探しても無駄だというのは分かりきっているだろう。
それでも報酬が目当てなのか中々帰ろうとしない。領主の私兵に俺とセルグはため息を吐くと『報酬はいらないから先に帰る』と言い放つ。
この小遠征で提示された金額はかなりのものだったが、それは道中倒した魔物の落とした結晶石で我慢するしかないだろう。
肩すかしに終わったこの小遠征。しかし、気分の悪いものを目撃しないで済んだことを思うとそちらの方が大事だろう。
そんなことを考えながら森からで出ようと歩いてる途中。
この霧の森の中に、子供と見れる二人組を見つけた。一人は深い海の様な蒼い髪と、もう一人は深緑の色をした蒼い髪の子供より少し背の高い子供。
薬草摘みにでも来ているのか、それとも立派な冒険者とでもいうのだろうか、旅慣れた装束と肩に掛けた長身の剣がそう物語っている。
深緑の髪の子供はともかく、蒼い髪の子供には隙というものがなかった。親しそうに連れに話している間も周囲に気を巡らせているようで、だからか足を止めた俺にすぐ気付いたのは。
はっ、としたように素早く俺の方に視線を向ける蒼の子供に、いくらか遅れて首を傾げながらこちらに気付く緑の子。
よくよく顔を見れば蒼の子供の瞳は太陽のような黄金色。うちの領主の言葉を借りれば『レアもの』で額には、瞳と同じく金色の結晶が光っている。
子供と括るには少々態度を改めないといけないだろう。そんな思想とは別に自分以外の結晶持ちに会えたということで少しばかり気分が高揚した。
この世界で結晶をもって生まれる人間はあまりにも数が少ない。竜族は全員結晶持ちだと聞いたこともあるが地上にいる俺達にはほとんど関係の無い話だろう。
と、そんなことよりも今は明らかにこちらを警戒している二人、というか黄金色の瞳の少年に警戒を解いてもらうことが先だろう。
「こんなところで何してるんだ?ここは霧が年中出てるし、魔物もでるし危険だぜ?」
とりあえず、偶然出会ったらこういうしかないよなという言葉を投げかけてみる。と、いうかこれしか言えないというか。
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「……え?あ、いや俺はレウィンドの街のハンターギルドの人間だ」
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「……え、そうだけど何か問題でも?」
ここから西へ行けばすぐのスレスタでなく、レウィンドの街への道を尋ねてくる少年に普通に答えようとして、頭の中で『ちょっと待て』と警告が走る。
深緑の少年はともかく、蒼の少年は少しまずい気がする。金色の瞳に結晶持ち、それに良くは確認出来ないが紋章も宿しているようだし背中の剣だってどうみても普通じゃない。
全身『珍しいもの』でできているような少年にあの街に行かせるのはすごく危ない気がして、つい口出してしまう。
「俺もこんなこと言いたく無いけど、レウィンドの街が領主はちょっとアレで結晶持ちとか普通と何か違うもんにすぐ自分のものにしようとかする、危ない街だぜ?そっちのちみっこは危険過ぎる」
「………ちみっこで悪かったな」
親切心で言ったつもりが選ぶ言葉を間違えてしまった。明らかに不機嫌になった蒼い少年に冷や汗をかきつつ、言葉を続ける。
「特にレウィンドじゃなくてもいいような用事なら別の街行った方がいいぜ」
だけど。
「ご忠告はありがたく受け取っておくよ。でもあの街に残念ながら用事もあるし、それに少なからず領主のあまり関心出来ない趣味も知ってる……用心はするさ」
冷静すぎる返事に、俺の方が面食らう。まぁ知らないで行くより、全然いいけど。さっきから俺、空回りしてばっかりのような気がする。
と、多少へこんでいると何かを取り出した少年が俺に押し付けてきた。
「レウィンドへの街への方角教えてくれたのと、忠告のお礼」
「あ、あのありがとうございました、気をつけますね?」
「また街中で会うかもね。じゃそういうことで」
にこりと笑うと、少し可愛い。そんな隣で深々と頭を下げた緑の少年と共に、そのまま行ってしまった二人を俺は立ち尽くしたまま見送った。
暫くして、あの笑顔の衝撃から戻った俺は少年が押し付けてきた袋の中身を見る事にした。
すると。
「……ほんっと何者……?」
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