たつのおとしご(保存版)

未月玲音

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仲間1

王様のお仕事(2)

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「そっちいったぞ瑠歌」
「任せて、逃がさない」
巨大な影の塊がカミュのレイピアで裂かれるのを見て、怯んだ小物が逃げようとするのを僕の長剣が迎え撃つ。森瑠にも襲いかかりそうになった小物の影が、ばちりと大きな音を立てて何か透明な壁にぶつかったかのように停止するとその場に結晶石となってころりと落ちる。
森瑠に教えた防御と同時に触れたのもにダメージを与える結界を使いこなせているようだ。魔物を引き寄せる『黒き炎』を使えるカミュのお陰で、ちょっと街道から逸れた深くもない雑木林の中でもシャドウモンスターとの遭遇率は高くハントは成立していた。
先程カミュが倒した大物も釣れたことだし、いい感じに稼げている。
それにしても。
「カミュって、折角の結晶持ちで紋章まで付けてるのに魔法使わないね?」


結晶持ちは普通の人に比べて魔力の保有量が大きい。それに紋章は宿主の力を更に高めるもの。
カミュの宿している『フォース』はその名の通り、宿主の力を高めるためのもの。勿論魔法の力もその中に含まれている筈。
そう思ってカミュに告げると彼は困ったように笑う。
「うーん、そうなんだけどなぁ…。俺、力の制御上手く無くて」
「そうなの?」
「この紋章も元領主に付けた方が価値があがるとかで無理矢理付けられたようなものだし」
と、カミュの話を聞くと望まぬうちの紋章宿しだったようで。フォースはいきなり力が上がるから、制御の勉強もしておかないと苦労するのも知っている。
彼の場合、傍に同じ結晶持ちで紋章付きの人がいなかった分どうしていいのか分からないままこうして剣中心になったのだろう。はぐれ竜の一件で使ったフレイムドットや炎壁を思い出せば詠唱無しか、短いもので狙った魔力の使い方をしていたように思える。
戦闘向きではないものの方が力の制御も分かりやすい。多分カミュは戦闘向きの火の制御が難しいんだと思う。
「なら今、度勉強しようよ」
「え?」
「僕が力の抑え方とか教えてあげるよ。火魔法使いがいて剣しか使わないなんて勿体無いしね」
影の魔物達は剣戟よりも魔法の方が倒しやすい。元々悪い魔力の塊が形を成しているのだから純粋な魔力を当てることが浄化にも繋がる。
「いいのか?」
「もちろん、それで僕達を楽にして欲しいしね」
「そういうことかよ。でも頑張って覚えないとなー」
茶目っ気を添えて言ってあげるとカミュが苦笑しながらも誘いに乗ってくる。
「簡単だよ、どの程度の火を作り出したいか、しっかり意識の中で念じるんだ」
「…そういえば、俺あんまりそういうのしっかりやってなかったかも」
思い当たる事のあるらしいカミュはうんうん唸りながら目の前に現れた魔物と向き合う。
「どの程度の力を使いたいのか、意識の中で…」
早速と試してみようという気になったらしいのだか。
『炎と踊れ、ファイヤーダンス』
周囲に火の塊をいくつも出現させ、包囲に掛かった者が踊りでも踊るかのように炎に焼かれるという魔法。
しかし、火の塊が一気に燃え上がると魔法効果範囲内にいた魔物を一瞬に消し去っていた。
「……火力間違えた」
「…そのよう、ですね…?」
上手く出来ずに気落ちしたようなカミュだったが、魔物はしっかり倒しているのでいいとする。一旦黒き炎を灯したランタンを消して落ちている結晶石を拾う作業にうつる。

何故、今わざわざ雑でもいいからと影の魔物を引き寄せて結晶石を貯めこんでいるのか。
それはカミュの妹さんの為だったりする。僕達は元領主の家の中で彼女の手紙の内容で、今持病を持っていながらも働かないといけない状況なのを把握している。
だから僕の魔法でカミュの故郷まで瞬間移動してしまおうと計画していた。その際にまとまった金額を渡して安心して家で養生できるように荒稼ぎをしていたりする。
カミュ自身も蓄えがあるし、元領主がカミュと交わした契約を完全に無視していたことはこの国の騎士団の方でも重く受け止めていて、違約金として元領主の私財の中から相当な金額を違約金として即座にカミュにと譲り渡されたのだけど念には念をという具合だ。
ちなみにこの時に数年の単位計算でカミュの物だと提示された金額は一介のハンターギルドの討伐員からすれば見たこともない0の数だっただろう。即座に教会が管理している銀行に預けたなぁと思い出す。
教会の銀行はこの世界では主流の機関で、最初に手数料に1000レスを支払い魔法紋登録をすれば預けた街の教会はと別の街の教会でもお金の出し入れは可能になるので大抵の人は登録していると思う。
話は変わって彼の故郷はフィルディア国の中の小さな町のシェルシェルというのだけど、僕の瞬間移動の魔法は自分が行ったことのある場所できちんと頭の中でその場所の風景をはっきり記憶していることが条件。
だからシェルシェルは該当外だったのだけど地図で確認してみたところ歩きでも二刻程の距離に大きな街アンダートがあること、そこは僕も何度か立ち寄ったことがあることから一度アンダート近辺に飛んでそこから本命のシェルシェルに、と行く算段はばっちり片付いている。
移動魔法を使えば、魔力はごっそりもっていかれて眠くなってしまうから例え歩いて二刻の距離でもその日はアンダートの街で宿をとることもカミュ達からも了承をもらっている。
普通にこの場所から国を越えての旅路となると乗り合い馬車を利用しても半月はかかるから。

と、大体拾い集めたところずっしりとなかなか重みのある結晶石が集まった。カミュが銀行に預けたお金は後々妹さん名義の方へと移動させるとして今日集めた分は、そのまま換金して手渡しする分。
街中の灯りとか魔道具を扱う時に必要な消耗魔力の結晶だらけだとしても、消耗魔力結晶はどこでも査定が安定しているので買い叩かれる心配もないから大丈夫だろう。

「さっきから思ってたんですけど」
少しズボンについた砂埃をはたき落としながら森瑠が呟く。
「カミュさんって、沢山魔法覚えてますよね?制御が苦手って言ってましたけど」
流石森瑠、良くみている。苦手意識を持ちながらカミュの魔法は攻撃系、防壁系、特殊系とバランス良く覚えていた。森瑠の問いに近い呟きにカミュはそうか、と小さく呟くと左腕を持ち上げるようにして
「出ておいで、フェニックス」
その呼ぶ声にカミュの腕に炎が激しく巻き付いたかと思うと全身火で存在している鳥の精霊が現れた。
「俺が色々魔法知ってるのは、フェニックスのおかげだろうな。森瑠は龍だからどう魔法を使ってるのか分からないけどさ、人間だと守護精霊が知ってる魔法を宿り主に教えてくれることがあるんだよ」
そう説明する。
「精霊自身が魔法の先生なんですね」
「そうそう。あと、守護精霊じゃなくても別の精霊で適正と相手の機嫌というか教えてくれる気さえあれば、新しい魔法は覚えていくのも可能だな」
「そうだね。不死鳥、フェニックスなら火の精霊でもかなりの上格だから、カミュの沢山魔法を知ってるのも納得できるよ」
「そっかー。やっぱ俺の相棒はすごいんだな」
褒められて気をよくしたのか、フェニックスに頬ずりするカミュ。精霊もそれを嬉しそうに目を細めてきゅるると鳴いているのでお互いに良好な関係を築けているみたいだ。
「あ、では。今私がフェニックスさんに魔法の使い方を教えて貰えれば火魔法も使えるようになるんでしょうか?」
先ほど守護精霊外からも魔法を授けてもらえることがあるという話に森瑠が期待を込めた眼差しを向けるのだけど、カミュの精霊はじっと森瑠を見つめた後に困ったようにきゅぅうと鳴く。
「んー…、これは…火魔法適正無い時の反応だよね」
「…やっぱり」
最初の方が僕で、次に言葉を発したのはカミュ。余程のことが無い限り相手が守護する相手でなくても精霊は嘘なんて言わない。だから本当に森瑠には火の属性魔法に適正がない、と証明してしまったことになる。
それを告げると森瑠は少し寂しそうな表情をした。
「そうなんですか…」」
「森瑠の属性は特殊だからね。4大元素と光と闇とも違う特殊属性だから」
知識の龍である森瑠は個体属性として叡智と分類分けされた属性持ちである。叡智は四大元素、光闇のどれでもない魔法属性の総称でその叡智もまた細かく分類していくのだけど今はそこまで丁寧に語らなくてもいいだろう。
僕の瞬間移動の魔法も分類としては叡智に属する、と思う。魔法陣内を暫定結界の要領で範囲指定して”記憶”を鮮明に思い出して空間を移動するのだから叡智の中でも複雑な混合魔法と呼べる。
「期待に応えられなくてごめんな、森瑠」
「いえ、大丈夫ですカミュさん。ちょっと残念でしたけど、私も使える魔法がありますし」
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