まみはらまさゆきの短編小説館

まみはらまさゆき

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(9)逢魔が時 ★◎

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ある夏の日、なんだかよく分からないままに、道に迷ってしまった。

いくら車を走らせても、1車線の山道が続くだけだった。
幸い道は舗装されていたが、ガードレールもなく、ところどころ落石が転がっていた。

道の両側の急斜面にあるのは針葉樹の人工林だったから、少なくとも人の手が入っているのは確からしく、そしてそれとアスファルトの路面が、まだここが人間の世界だという事を感じさせてくれていた。

深い林の向こうの空はまだ日没の直前で、辛うじて明るかったけれど道は光を遮られ、暗かった。
私は車のヘッドライトを点灯させた。

うねうねと曲がりくねった道の両脇の林に、怪しい陰が浮かび上がった。
ラジオは付けていたが、雑音ばかりで何も聞き取れなかった。

カーナビは狂って、道のないところを現在地として表示していた。
どこまで行っても、山道が続くだけだった。

どういうことなのだろう。
別に九州山地の奥深くに入ったわけでもない。

それどころか郊外のあたりを走っているはずなのに、人の気配が感じられない山道を延々と走っていた。

そのうち、日没の時間となったらしい。
山の中に夕闇が降り始め、ただ、空だけが残照を見せて輝いていた。

その時、ようやく一軒の民家に行き当たった。
山の中にしては場違いな洋館で、少なくとも廃屋ではなさそうだった。

私は生垣の門の前に車を停めて、玄関に向かった。
少なくとも、幹線道路への道順を教えてもらえるだろうと思ったのだ。

けれど、呼び鈴を押しても、返事はなかった。
中で人が動く気配もなかった。

私は、庭に回りこんだ。
庭は手入れが行き届いていた。

軒下に置かれたクーラーの室外機が回っていた。
そして、厚いカーテンの閉ざされた窓の向こうからは、延長戦に入った高校野球だろうか、それともプロ野球だろうか、野球の実況放送が聞こえてきた。

窓に向かって、「ごめんください」と声を張り上げた。
しかし、やはり人の気配はしなかった。

私はあきらめて、車に戻り、山道をさらに先に進んだ。
すると、3分もしないくらい短いうちに、あっけなく幹線道路に出た。

山道と幹線道路との角に、コンビニがあった。
私はホッとするとともに、疲れが急に出てきた。

車を駐車場に停め、よく冷えたコーラを買った。
コーラを飲みながら、車に戻らず、幹線道路に向かった。

山道の入口まで来て、私はコーラを生唾とともに飲み込んだ。
私が確かに走ってきた山道は、そこにはなかったのだ。
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